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無料では終われない8

 練国の首都バンにある高級そうなお店の奥に案内された。

 天窓のある明るい室内に毛皮で設えたソファーのようや椅子が人数分用意されていた。


 店主らしいお姉さんは静かに微笑んで、まずは席につく事を促してきた。


「西から仕入れた果実酒があるのですがいかがですか?」


 店主はお酒をすすめているようだが私はそんなにお酒が得意ではない。


「お酒は苦手なのでお水を頂ければと思います」


「我も水を」「儂もじゃ」


「俺様は酒をくれ」


 私に続いて皆要望を言った。店主は使用人に伝え私達の方へと視線を戻した。翠の瞳は角度によって色が変わるように見える。目を逸らしていてもこちらを見ているようなそんな視界に捕えられている心地だ。


「当店への御用向きでは無いようですが話を聞かせて頂きます」


 確かに私達は品物を求めて来た訳では無い。


「確かに要件は買い物ではありません。もしかしてコレを私が持っているから、そう思われたんですか?」


 店主はにこやかに話す。


「それもありますが、商売柄お客様の服を見て布屋ではご要望には答えられないと思ったからです」


 私とシルバの服は白樹で出来ているので布では無い。バイスとドリスはどうなのだろうか。


「この服少し変わってますかね」


「非常にお似合いですよ。その服を仕立てた方はお客様を大事にされているのでしょう。ただ衣を超えた威圧のような物を感じます。誰にも触れさせないそんな意があるようですね。当店は仕立てもやっておりますが、そこまでの物は作れません。何よりお客様方の衣には縫い目がありません。そのような技はこの国には無いでしょうね」


 かなり洞察力のある人のようだ。


「では何故話を聞いて下さるんですか?」


「商売は縁によって成り立っています。今日の出会いは必ず大きな商いになると確信しています。それに金輪をお持ちなのですから商いをする者が無下に出来るはずもないでしょう」


 この金色の腕輪は相当な影響力を持つようだ。まあ、城門をフリーパスな時点でそんな雰囲気はあった。


「実はこれは私の物では無いのです。これはある人から借りているのですが、ある人も貰ったと言っていました。私はこれの元の持ち主を探しています」


 店主は少し驚いた顔をした後に上品に笑った。


「ふふふ、金輪を渡すとはなんとも豪胆な話ですね。わたくしも商人の端くれです。金輪ので何処となれば容易にご案内出来ますよ」


 出来ますよ、という事は何か案内に対価が必要なのだろう。当然と言えば当然か。


「案内お願い出来ますか? 多少であればお支払いは出来ますので」


「いえ、金銭は必要ありません。ただ、差し支えなければ皆様のお名前を教えて頂けないですか? 名を隠す文化も多いので無理にとは言いません。遅くなりましたが、わたくしの名はミルダと申します。以後、お見知りおきを」


「あ、私はユズカです」


「シルバだ」「ドリスじゃ」


「俺様は名乗らねぇよ」


 バイスだけは相変わらずだ。ヘルメットの口元だけ開けて、出されたお酒はカパカパ呑んでいる。


「お名前、確かに頂戴致しました。ご案内は今宵には準備致しますので、それまでは当店にてお待ち下さい」


 ――


 夕闇が迫る時刻になるとミルダさんのお店の前に豪華な獣車が現れた。


「これに乗れば求める答えがきっと見つかるでしょう。どうされますか?」


 改めて聞くという事はこの先に何か困難な事があるのだろうかと思ってしまう。

 しかし、この時間までの間にシルバとは状況に合わせた決め事を綿密に行ったのだ。バイスとドリスにも話せる範囲で状況説明はした。


「乗ります。ミルダさん色々ありがとうございました」


「いえ、商人として当然の事をしたまでです。次は商いの場でお会いしましょう」


 ミルダさんは笑顔のまま私達を見送った。


 ―


 獣車は街中の道を少し走り地下道へと入った。最初は建物の中かと思ったが、あまりに下りが長いので、間違い無く地下に入っている。

 地下はかなり広く、この街の下にはかなりの空洞があるようだ。しかも地下は整備されており、壁は建造物に作り替えられており、内球状の都市と言った感じだ。


「さっきの商人の女だが、ありゃ俺様と同じで嘘が分かる奴だぞ」


 バイスは獣車のフカフカ席に深く座って手を組みながらそう言った。


「なんでそんな事が分かるの?」


「あいつはジャビトだ。ジャビトは空気の味に敏感なんだ。中には人から出る嘘の匂いを味で分かる奴もいるのさ。それで少し試してみたが、あいつは分かる奴だった」


 バイスは嗅覚が鋭過ぎて人が発する僅かな匂いでも感知して感情や状態を読み取る事が出来る。

 ミルダさんも同じような能力があるようだ。


「別に嘘は言ってないし、特に問題は無いんじゃないの?」


「商人に話す言葉は注意しろって事だ。奴等は横の繋がりが強い。これから行く先に俺様達の情報は全部伝わってると思ったほうがいいぜ。この先はかなり金の匂いがする。下手を打って俺様の儲けを減らすなよ」


 そんな話をしていると巨大な建物が迫ってきた。やがて荘厳な門の前に獣車が止まり、目的地がこの巨大建造物である事を明示した。


 建造物には巨大な半球状の屋根が3つあった。壁や屋根の装飾は細かく豪華だ。地下なのに異様に明るいのは謎光源が頂点にある塔のような物が幾つもあるからだった。


 宝石が埋まっている立体彫刻だらけの石扉が重さを感じさせない軽やかさで開いた。


 この建造物の使用人と執事的な立ち位置の人が頭を下げて待っていた。

 ずらっと並ぶ執事と使用人は皆美しい見た目で、皆透けて見える程薄い羽衣のような揃いの衣装を着ていた。


 私達は光に満ちた豪華な室内を案内されて、球状のパーティホールのような場所へと誘われた。

 外から見えていた半球の天井はガラスのような透明素材で外の塔からの光が部屋を明るく照らしていた。

 会場には使用人の他に客と思われる人も居り、私と同じように金輪を付けた人もちらほらと見えた。


 ここは金輪所有者向けのパーティなのではと思った。使用人と個室に消える客もいるようなので、恐らくは煩悩全開の催しである事は明らかだった。


 この場で何をせよという指示は無く、使用人が食べ物や飲み物を勧めてくる。そうして恐らくは使用人自身も勧めているのだろう。衣装がスケスケなのはその為に違い無い。


 勧められる食べ物にもブランが店で提供していたような物が幾つかあった。恐らくは最先端の欲望が展開されている場所のようだ。


 圧倒はされたが目的を忘れる程の誘惑では無い。何より私の趣味では無いのだ。

 使用人に金輪の持ち主について尋ねると一つの個室へと案内された。待てばこの館の主が出て来るのだろうか。


 使用人達が待つ用にと食事などを運んで机に置いた瞬間に時が止まった。


 私への攻撃や害意を感知したのだ。たが、何も変化が無いように感じる。物理的には何もおきていないのだ。ただ、個室の奥の扉が僅かに開いていた。


(アダマス何が起こっているの?)


 止まる時の中でアダマスへと質問を投げた。


(強力な精神支配術が展開されます)


 扉の奥から何ともいえない空気のような物が流れこんで来ている感じがする。

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