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無料では終われない2

 確実と言われているシルバの予知、雲外鏡の示す未来を心の底から信じる事は難しい。と言うのも、予知した時点とその予知を知った人は少なからず未来を変えるので、予知は見た時点で叶わないのだ。

 予知の理屈以前に、未来が見えている理屈も分からない。しかし、予知の確実性はシルバとビシムが理解し認めている。私はそれを信じているのだ。


 雲外鏡の巨大な水晶球の前に皆集まっている。私達が視るのは4年後に闇に沈む直前のビシムだ。

 前回のビシムは聖王国で冒険者業を始めろという言葉を残した。これは雲外鏡の予知が私達以外の何者かに盗み見られており、それを回避する為に直接的な予知を避けているのだ。

 4年の歩みを全て把握したビシムが過去に向けて必要な事だけを残す予知、この方法で先に進むのだと私達は決めたのだ。


 未来の映像にはいつも通りビシムが映る。これが映らないのが一番怖いと私は思っている。


「聖王国にて冒険者業を開業せよ」


「え、前と同じ?」


 思わずそう反応してしまった。私達の聖王国の活動は違っていたのだろうか。そんな考えが頭の中を巡る。


「待て、像の映る時間が前と違う。まだ何かありそうだ」


 シルバの言葉で再び映像を見ると、確かにまだ闇が来ない。


「資本主義の国を樹立せよ」


 未来のビシムはそう付け加えると闇に消えた。


「予知の内容が増えた?」


「過去に伝えるべき情報が増えたという事は、未来に変化があったのだろう」


 未来が変わりビシムが伝えてよいと判断した内容が増えたのだ。しかし、次もまた難しい事を言っている。


「資本主義の国って簡単に言われてもどうすればいいいのか」


「そもそも資本主義とは何なのだ?」


 これもまたモリビトには無い文化の話なのか。という事は今のところ私が関わる関係の未来が提示されている感じがする。私とあの闇は何か関係があるのだろうか。


「いや、私もそんなに詳しい訳ではないけど、個人がそれぞれ財つまり資本を持って、それを自由に増やしていいって事だとは思うけど、今の文明界にそんな国は無い?」


「法国には通貨すら無いからな違うが、文明界で財を持つのは個なのではないか? 聖王国は貨幣が流通しており、民の裁量で取引がなされている。国は税を取っているが全てを吸い上げている訳ではないので、ユズの言う資本主義の国なのではないか?」


 確かに聖王国は個人同士の取引があり貧富の差もあった。国による権利構造も分かり易く住む場所や住居の違いも明確だった。

 そうなると資本主義と言える国は既にあるので、新たに国を立ててそこには資本主義を導入しなくてはならないという事なのだろうか。


「既にあるなら、新しい国を立てる事が重要なのかな?ビシムはどう思う?」


 ビシムはまだ雲外鏡の映像を見ていた。


「やはりおかしい。解せんな」


 ビシムは映像に何かの違和感があるようだ。


「何かビシムにしか分からない合図でもあった?」


「いや、何も無いのがおかしい。そろそろユズとビシムの間には子が成されていてもおかしくは無いのに、その印がまるで無いのだ」


 いや、そんな事にはならないだろう。何を根拠にそんな事を言っているのか。


「私にそんな気が無いからでしょ。世界が闇に沈むとかいう事態が解決してないのに、子孫を残すはちょっと考えられないかなー」


「確かに、相思相愛であっても未来に希望が持てなければ子作りは難しいな。理解した」


 ビシムは納得したようだ。相思相愛である事は揺るがないそうだ。

 私はビシムが好きではあるが、そう言う感情では無い気がする。そう考えて前にシルバが見せてきたダブルビシムの男性版の方を思い出して、思わず頭を振った。

 そうか、ビシムは全面に押し出しているという事もあり、性的な魅力はあるのだなと思った。


「文明界の国家については我も詳しくは無い。一度ブランに相談してみるとしよう」


 ―


 ブランレストランと私は勝手に呼んでいるが、この場所はそうとしか形容出来ない。

 料理への反応と感想さえ言えばなんでも作ってくれる夢のような場所だ。


 聖王国では焼いた肉か煮込んだ肉と野菜しか食べていないので何か炭水化物をたっぷり食べたい。ブランは話を聞いただけで再現してくれるので、特徴を説明した。


「そういえば聖王国では焼肉の青葉包み食べてくれた? あれは僕が考えて伝えた料理なんだよね」


 聖王国の初日の食事がそれだった気がする。だからシルバは迷わず注文して食べ方も知っていたのか。


「食べました。美味しかったです。肉に癖が強いんですが巻いてある葉が爽やかで食べやすかったですね」


「聖王国の庶民が食べられる肉は質がよく無いからね。広く浸透するように簡単で美味しくなる方法を考えたんだよ」


 ブランは得意そうに謎ポーズをとると厨房へと消えて行った。


「ユズ達が聖王国に行ってから、らーめんが流行ったので、ブランは注文が偏ったと嘆いていたぞ」


「ラーメン流行ったんだ」


 そう言えば他の卓にどんぶりが多い気がする。


「小国群に向いているからその辺りで調理方法を広めて伝播と派生の傾向を調べるつもりらしいな」


 緑色の飲み物を持ったシルバがやって来た。


「ブランって結構外に行く事が多いんだ。お店もしながらだから大変だね」


「既に調理法が確立した物は義枝器で再現可能だからな。奴は外に居る方が長いし、何より転移術が上手過ぎるのだ」


「お褒め頂き光栄だね。さあ、新しい料理だよ」


 相変わらず異様な早さで料理が出てくる。私が注文したのはカレーだ。しかもライスとナン両方だ。炭水化物をがっつりいくならこの組み合わせに限る。


「また珍妙な料理だな」


「かりーらいすとなん、だったかな。味の組み合わせは良さそうだけど、栄養価を考えると乳の入った食べ物を添えるといいかもね」


「じゃあ、ラッシーも下さい」


 私はラッシーの概要も説明して追加注文した。ラッシーが来るまでカレータイムだ。

 カレーの種別は指定していないがチキンカレーのようだ。まあ、何の肉かは知らないが食感と味はチキンと相違無い。口頭の説明でカレーのスパイスをどう理解出来たのか不明だが、インドカレー系の強い香りとしっかりとした辛味がある。ライスも水分少な目でかなりカレーと合っている仕上りだ。ナンも外はややパリッと中はフカフカで食べご耐え抜群だ。カレーの辛味と炭水化物の暴力が波状攻撃をしかけてくるので、あっと言う間に完食した。

 食後のラッシーも最初甘めで後味すっきりの仕上がりだった。


「この香を嗅いでいるとビシムも食べたくなってきた」


 これはカレーも流行るかもと思った。


「今日の用事は食事だけではないのだぞ。ブランよ文明界で国の形が変わりそうな場所はあるか?」


 ブランはビシムのカレーの好みを聞いた後にシルバの方へ向き直った。


「何か悪巧みかな? そうだなー、今、小国群には意気のいい国が二つあってね。その辺りはお勧めだよ」


 ブランには私達の活動を説明はしていない。でも全て知っているかのような答えが返って来てドキっとした。


「小国群ならば一つは武国だな。もう一つは何処だ?」


「欲国。1番欲の深い者が王となる面白い国さ」

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