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世界の終わりより19

 空を飛ぶ、そんな非現実的な行為なのに不安が無い。かなりの高度を高速飛行しているが、怖くないのには理由がある。

 飛行の制御が意のままなのだ。自身の意思で自由に動かせるから不安が無い。例えるならば呼吸の心配の無い水中に居る感じだ。

 こんな事が出来るのはビシムの追加装甲のお陰なのだが、実現出来る技術を持つモリビトの凄まじさを実感する。

 私が自分の体を動かす感覚で、この巨人は動き今は空まで飛んでいる。私の知る世界でこれを実現させる存在があるとすれば、それは神くらいだろう。


 空を飛んで行く先はシルバのところだ。どういう原理かは知らないがシルバの居る方向が分かる。

 私の認識や知覚も拡張されているのだろう。追加装甲の全能感は癖になりそうだ。

 バイスも含めた9人の安全確保もしなくてはならない。戻ってたとしても、また転移させられてしまっては意味が無い。アダマスに確認した限りでは追加装甲には既に転移対策が施されているらしい。

 ならば、私が9人を背負っている間は大丈夫という事だろう。


 ドリスが私達を転移させた理由は何なのだろうか。バイスの身柄を確保する為に行ったのであればバイス1人を転移させればいいだけだ。私を含めて複数人巻き込んだ事には何か理由がありそうだ。


 流れる景色から雪の白色が無くなってきた。山間に建物が見えるので徐々に王都に向かっているのだろう。

 このまま飛んだとして、王都のど真中にこの姿で戻っても問題無いのだろうか。

 聖王国ではモリビトが管理で使っている樹人というロボットみたいな存在が居るので、それの亜種と認識されるかもしれない。

 私の追加装甲は白樹で構成それているから樹人とは構成要素は同じだ。しかし、前にバイスの精神網で見た樹人はのっぺりとした人型という感じだったが、今の私はかなりロボロボしい。

 私の意識に反応して構成されるのが追加装甲なので、この意匠には私のアニメやゲームの知識が多分に反映されている。


 飛行し始めて1時間弱という頃だろうか、景色が見慣れた植生になっており、建物の雰囲気が王都に似ている感じになってきた。

 今は高高度を飛んでいるのは、飛行による影響を地上に出さない為だ。騒音、衝撃波など色々あるが、一番は聖王国の人に見られないようにする目的がある。

 ただ、王都に到達する場合はそうも言っていられなくなる。


 意を決して速度を落とし王都到達に備える。垂直離着陸可能なので高度はギリギリまで落とさない。


 見慣れた街を高いところから見下ろすというのは、少しわくわく感がある。馴染みの店や泊まったている宿も視認出来た。


 王都の中央にはまだドリスが居る。ゴーレムに搭乗しているので分かりやすい。

 ドリスの周りを高速で飛び何か棒状の物で攻撃しているのはシルバだろう。あの体格差で白兵戦をするとは、どんな戦闘狂なのかと思ってしまう。しかもシルバが押しているように見えるから驚きだ。


「追加装甲を使ったのか?」


 念話でシルバから問いかけがある。


「私の他にバイス含めて9人も転移させられたので仕方なく」


 私の言葉を聞いてシルバの動きが急に鈍くなった。次の瞬間に時間が急停止したような感覚になる。

 これは、私に危険が迫った場合に発動する防御行動だ。しかし、私の周囲には危険が迫っていないように見える。

 この時止め空間で私に推奨される行為はゴーレムへの突進のようだ。この行為が私の為の防御では無くシルバの防御である事は明確だ。


 私は迷わずゴーレムへと突っ込んだ。


 私の巨体が斜め上からゴーレムを踏み潰すように急速降下する。

 激しい衝撃の後、私は破壊されたゴーレムの上に立っていた。


 激しい動きが渦巻いていた王都中心の広場からは一瞬動く物が消えた。

 そうして少し間を空けてから周囲からは歓声が上がった。


 この騒動が聖王国の人達にどう認識されていたかは知らないが、どうやらゴーレムは悪と見なされていたようだ。

 それを打ち倒したシルバと私は賞賛されている、そう言った構図だろうか。


「これ以上ここで騒動を起こす訳にはいかぬ。そのヤマビトの岩人と共に場所を変えるぞ」


 シルバからの念話にハッとなった。ヒーローのように賞賛されて場に飲まれていたかもしれない。

 ゴーレムは手足が体から外れており分解寸前のところだった。胴体部分が分離しており、何故か白樹が巻き付いていた。

 とりあえず、この胴体部分を持ち上げて私は空へと浮かび上がった。


 ―


 場所は王国から少し離れた場所にある荒野だ。巨大の私とシルバ、そして白樹に拘束されたドリスが居る。

 視界の端にはゴーレムの胴体部分が転がっている。


「さて、中断していた話合いを再開させようか。これ以上抵抗はするな」


 シルバがこう言うのは納得だ。ドリスをゴーレムから引っ張り出す際に、それはもう暴れに暴れたのだ。

 白樹でぐるぐる巻きにされ口まで封じられたドリスはこちらを睨みながらも頷いた。

 さるぐつわのように口に食い込んでいた白樹の枝が緩む。


「今すぐ儂を解放し奴の身柄を渡せ。話はそれからじゃ!」


 ドリスは牙を剥き出しにして怒っている。真っ赤な肌に白い髪に金色の瞳、剥き出しの牙を含めた歯は真っ黒だ。

 角の先や爪も真っ黒なので、もしかしたらヤマビトの骨格は黒いのかもしれない。


「争いそちらは負けたのだ。負けた者の要求が通る訳がないだろう」


 シルバは冷徹に言い放つ。


「では儂を殺すか? モリビトがヤマビトを殺すのか?」


「そうする必要があるならばもうやっている。我はそちら要件が聞きたい。何を得る為にバイスの身柄を欲するのだ?」


「欲するも何も、其奴が儂の物を盗んだのじゃ。それを取り返して何が悪い」


「それは知っている。だが我はそれを問うてはいやい。取り戻せたとして、その先に何を欲するのだ?」


 シルバの問いにそれまで敵意剥き出しだったドリスは牙をしまい口を閉じた。


「そんな事はモリビトに関係ないじゃろ。儂は返せと言うておるのじゃ。それは正当な事じゃろうて」


 ドリスのトーンは急に落ちてしまった。何か言えない事情があるのだろうか。


「では質問を変える。仮に盗まれたそれがもうそちらの手には戻らないとしたら、どうする?」


 シルバの言葉を聞いてドリスの瞳が大きく開く。ヤマビト特有の容姿から年齢的な事は分からないが、ドリスの身体的特徴は少女なのだ。

 少なくとも見た目年齢的には私より大分下に見える。


「お主はどこまで知った? 」


「知り得る事の何が全か分からぬ状況でどこまでと言われても答えようが無いが、そうだな、そちらが取り戻したい物が(輪)ならば、それは既に開いて結び付いているぞ」


「は? ありえん! 人に開けても結ぶ事は出来ようはずが無い!」


「また、新たな作り上げる事は出来ないのか?」


 シルバの言葉を聞いてドリスはブルブルと震え始めた。そうして金色の大きな瞳からは大粒の涙が溢れ落ちた。


「そんな事…出来ようはずがなかろう! 儂の一生にして最初で最後の輪が、もう一つ生まれるはずがなかろうが!!」


 ドリスの叫びは怒りというよりは悲痛に満ちた悲しい物だった。

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