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世界の終わりより18

 ◇◇◆


 我は焦っている。これまでの経験でこれ程の焦りを感じた事はなかった。


 法国での闘技の戦闘も外界生物との戦闘も焦りを感じた事は無かった。それは誰かを護るために闘った事がないからなのだろう。

 我以外の者の意識認識は我には理解出来ないのだと感じた。この世に理解出来ぬ物などないと考える我の思想が否定されたような気がした。


 我の未来視が大綱に否定された時も、我の思想に揺れは無かったのだ。結果として何者かの意図に添わぬが故に否定されただけで、我の理解に間違いは無かったのだ。

 だが、他者という存在はこれ程に理解が難解であるとは思わなかった。

 我の理解の下を行く事は想定出来るが、我の理解を超える事に驚きを感じる。


 ビシムがバイスがそしてユズが我の理解を超える。そう認識するようになったのいつの頃だろうか。

 そうしてヤマビトのドリスも我の理解を超える冴えを見せた。直前で気付き転移は妨害したが、転移された者を追う事は出来ない。

 既にこの場は術の阻害が渦巻く領域となってしまった。

 我は身体強化のみ、ドリスは岩人の内に込めた術式のみの戦闘となる。岩人の動きを白樹で封じてあるので我が有利ではあるが、決着までには時間が掛かるだろう。

 我はドリスを打ち倒しユズを追わねばならない。だが直ぐには追えぬのだ。


 我の理解を超えた展開に我は焦りに焼かれる。


 ◆◇◇


 背後から伸びる巨大な影が動きを止めたので、私はゆっくり振り返った。

 白くて樹木のような太さの生物が居た。白いのは全身が白い毛で覆われているからだ。長い体は蛇のようだが顔にはミミズのような円形の開口部があり、内側には螺旋状に歯列が幾つも並んでいた。

 この生物が動きを止めているのは、私の自動防御範囲に入ったからだ。私になんの備えもなければ、今頃は生物の口の中に収まっているだろう。


「なんだ。もう仕留めたのかよ」


「何?この生き物」


「知らずによく仕留めたなお前。これは白蛇獣だ。この辺りには幾らでも居る。群れに出くわしたら越境者でも命がねえから、早く安全な場所に避難するぞ」


「他の人達はどうするんですか?」


 私達以外に8人がここに転移させられている。話の限りでは全員が聖王国人なのだろう。そうなれば短時間の放置でも命が危ない。


「運があれば助かるだろ。ここでは自分の身は自分で守るしかねえ。俺様は俺様の命を優先する。奴等の事はどうしようもねえよ」


 諦めるというバイスの言葉に思考が加速する。自分自身の命を優先するというバイスの考えは理解出来る。私もバイスと同じ立場なら同じようにするだろう。

 こちらに転移させられた8人に面識は無い。そうした状況に私自身の境遇を重ねていた。

 私はこちらに転移させられたがシルバやビシム、ブランといった人に良くしてもらった。彼等には意図があっての事だろうが、私はこの状況に感謝しているのだ。


 私は考える。全ての人を助けるのは無理でも、目の前の自身の手の届く人は助けたい。

 そうして私は問う。私には助ける力が今あるのだろうかと。


 そう、力はあるのだ。


「アダマス。装甲化を始めて」


「装甲化すると法国に戻るまで分離出来ませんがよろしいですか?」


「いいよ。やって」


「何を訳の分からん言葉で話してやがる」


 バイスに話しかけられると同時に装甲化用の追加装甲が転移によって私の頭上へと現れた。


「少し離れていて」


「おい!なんだそれは!」


 バイスが驚くのも無理は無い。白樹が複雑に絡み合った昆虫の蛹のような巨大物体が現れば誰でも驚く。

 出現した追加装甲から管が伸びて私の防具の背中と同化する。追加装甲から防具に何かが流れ込んで防具の質量が急激に増大する。

 私も装甲化するのは初めてだ。ビシムからはシルバと逸れた場合の緊急時に使用するように言われている。しかも、追加装甲の形態は一定では無いそうだ。私が直面している問題を解決するに最適な形状となるらしい。

 私は防具に飲み込まれている状態だが、形態変化が完了するまでは身動き出来ない。不思議と外への視界は効いているままだ。どうやら防具の目に当たる部分と視界がリンクしているようだ。バイスがどんどんと下に離れているので、相当な巨体になるようだ。

 バイスの背が私の脛辺りになった位で巨大化が止まった。鏡は無いが手足や体のパーツを見る限りでは巨大ロボのような見た目になっているようだ。

 さっきまで街で見ていたモリビトのゴーレムに引っ張られている気がして恥ずかしい。

 手足は私の体を動かす感覚で操作出来る。どういった操作形態になっているのか謎だし、自分の本来の体が見えないのは不安だ。

 そう考えていると視界が裂けてコックピットのような場所に視界が切り替わった。

 さっき見ていた視界が壁面いっぱいに映し出されており、私の体が自分の視界として見えたが裸だった。


「!?」


 驚きで声にならない息を吐いたが、よく考えれば服として着ていた防具がロボになったのだから私に衣服は残らない。

 両手両足がロボに埋め込まれている状態で、巨大存在のコアに取り込まれてしまった哀れな人みたいな感じになっていた。

 この視界で操作するのは何か嫌なので、元の視界に戻してーと考えていると、巨人視点に戻った。


「お、おーい。お前、ユズカか?」


 離れた場所からバイスがこちらを見上げている。


「そうです。今から他の人達を救助します」


 そう言葉にすると背中から触手が8本伸びると、転移させられた人達がいるである方向に高速で動き出した。

 直ぐに触手の先端に糸のような物でグルグル巻きにされた人達が回収された。全員意識を失っているのは暴れないようにする為のようだ。

 なんとなく暴れたり逃げたら回収が厄介だなと考えていたら、その解決がなされていたようだ。

 背中に8個の繭を取り付けて救助完了となった。追加装甲は凄まじ力を発揮する。ただし、元の姿に戻るには法国に一度帰るしかないようだ。


「おい! 全員無事なのか!」


 バイスは大声で叫ぶ。どうやら顔の位置が遠いので聞こえないのではと思っているようだが、普通に聞こえるので、大声を出されると普通にうるさい。


「大きな声出さなくても聞こえますよ。全員無事です。今から王都に戻ろうかと思います」


「王都に戻ったらヤマビトが居るだろ。このまま逃げるんだよ」


「そう言ってもバイスさんは簡単に見つかってしまいますよね? ならば味方の多い王都に行く方がいいでしょ」


 バイスは少し思案しているようだ。しかし、私は早くシルバと合流しなくてはならない。恐らくそれが一番安全だ。そう考えると背中から触手がもう一本伸びていた。


「何を!?……」


 バイスの意識は失われて繭のようにされてから私の背中へと回収された。


 王都に戻るというか、シルバと合流する。出来るだけ早くと考えていると、体が浮かび上がり出した。

 シルバがドリス戦で見せた飛行術をいつの間にか意識していたようだ。

 空に向かって高度を上げて、そうして王都があるであろう方向を向くと今度は進行方向への速度が増してきた。

 私は無意識に進行方向に手を伸ばしていた。まるで昔に見た特撮の光の巨人のようなポーズで、私は異世界の空を高速移動していたのだ。

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