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世界の終わりより17

 ヤマビトのドリスは目的を果たすまで話を聞く気は無いようだ。彼女の目的はバイスを捕える事、いやバイスの盗んだ物を取り返す事だ。


 対話をする為に接近したシルバのいた位置には水晶の塊のような物が発生している。ドリスが立っている巨大な石柱の一部が高速で変化したのだが、目視出来ないほどの早さだった。


「いきなり何をするのだ。それがヤマビトのやり方か?」


 シルバの声がするので何処にいるのか探すと、少し離れた位置の空中に浮かんでいた。


「転移術で逃れたか。儂の邪魔をモリビトがしてくるのは読んでおったのでな。早々に無力化してやろうと思ったが、予想よりやるではないか」


 ドリスの声が静かに響く。カン高い子供のような声ではあるが、どこか威圧的で重みを感じる。


 ドリスは石柱の変形を止めていない。水晶のような透明度のある石がドリスの周辺を覆い今度は自身を閉じ込める。いや、ドリスの石柱は今や巨大な人型のフォルムを形成しており、搭乗式の水晶ゴーレムの様相となってきている。


「ヤマビトの得意とする鉱物操作術か。中々に練られた術式ではないか」


「長い事待たされたから、のう!!」


 ドリスがそう言い放つと同時に巨大ゴーレムがあまりにも早いパンチを繰り出した。

 石柱が人型になった事で、集まっていた野次馬は危険を感じてワラワラの逃げ始めている。一方で近くの建物の2階には見物人が集まっている。

 あれだけ大きな物が動いているのだから建物に居ても危険である事には違いないのに、人の心理というのは不思議だ。危険な状況であっても、少しの安心があれば好奇心を優先する。


「ドリスを止めていたのは我ではないぞ」


「同じ事じゃ! どうせあの盗人に関わっておるじゃろうが! 喰らえ雷鞭!」


 ドリスのゴーレムが手を開いて突き出すと、5指から雷が発射された。

 私のやったテーザーガンの比ではない電圧だ。通常の空気中で放電現象が起きているのだから、少しでも触れれば即死もあり得る。

 シルバの周辺には何も無いが、雷が球体状のバリアのような物に阻まれて消えている。


「雷を操るか。つい先程見たな。原理が解れば容易く躱す事が出来るな」


「やるのうモリビト。ではこれはどうじゃ!音震砲!」


 ゴーレムの両肩が二枚貝のように開くと強烈な重低音が響いてきた。

 私の防具は変形し皮膚が出ている部分を顔を含めて覆ってしまった。

 周囲の野次馬はバタバタと倒れ始めている。恐らく無差別な音波攻撃がされているのだろう。一般の人々がこんな攻撃に対処できる訳もない。私も生身ならば倒れていた。


 シルバはドリスに何か言っているようだが、この音波攻撃の最中では聞き取りようも無い。


 突然、音波攻撃が停止した。ドリスの様子を見るとゴーレムの肩の装置に風穴が開いていた。

 恐らくはシルバの放った超高速弾だろう。私も防具のテストの時に発射されたが、あんなのまともに食らった大変な事になる。それが今起きたのだろう。

 更にゴーレムの挙動がおかしくなっている。よく見るとゴーレムの足元から樹木の枝のような物が伸びており、下半身を絡め取っている。


「ドリスよ関係の無い者を巻き込むのは止めよ。それに石人は既に封じた。如何に鉱物操作に長けたヤマビトでも術の発動自体を抑えられてしまえば何も出来ぬだろう」


「そうじゃのう。新たに術を練るにはその木が目障りじゃが、既に成った術ならばどうかのう」


 ドリスがそう言った瞬間に、私の目の前を何かがゆっくりと横切った。

 薄いガラスのようなシャボン玉のように七色に光る蝶を見た。そうして目の前が光に包まれた。


 一瞬で景色が変わる、私はこの現象を知っている。これは転移だ。


 空気の温度、匂い、そして景色の何もかもがいきなり変わった。

 白い地面に開けた青空、そして周囲は岩山だらけになっていた。いきなりの変化に体が強張る。

 周囲には誰もいない。何故私が転移させられたのか、シルバとドリスはどうなったのか。何も分からない。


「シルバとの距離が一定以上離れました。自動起動します」


 私の声が私の胸元からした。アダマスだ。


「アダマス! ここは何処?」


「ここは聖王国の北にある山岳地帯です。危険地帯ですので防御を固めています」


 アダマス。私の思考を学習したAIのような存在だ。義枝器と呼ばれる生命樹の枝の機能を模した装置らしいが、私はアダマスには生き物に近いモノを感じている。

 最初は機械的だった喋り方が、今は事務的な喋り方に進歩している。私の声なのに、私の喋り方ではないのでアダマスには個性があるのではと感じる事もある。


「何が起きたの?」


「ヤマビトの発動した転移術によって転移がおきましたが、シルバの干渉により想定した位置とは別の場所に転移しています」


 ドリスが転移術を私に使用してそれをシルバが妨害した。しかし、ドリスはどうして私に転移術を使用したのだろうか。私は一方的にドリスを知っているが、ドリスは私を知らないはずだ。


「シルバは今何処に?」


「私が探知出来る範囲には居ません。シルバではありませんが人を8人感知しています。ユズカと同じように転移によるものです」


 私の他にも転移している人が居る。という事は無差別に転移させようとしたのだろうか。


「一番近くに居る人はどこ?」


「1人こちらに接近してきます。防御圏内に入らないように指示して下さい」


 そうアダマスから指示を受けて、接近して来る人の方を見ていると黒い人影が現れた。

 直ぐにそれがバイスである事は分かった。あの黒いヘルメットが太陽光を反射してキラっと光っている。


「あまり近くに来ないで下さい」


 私がそう言うとバイスは防御圏のギリギリで足を止めた。


「何が起きたんだ? あのジジイしくじりやがったか?」


「ヤマビトの術による転移です。シルバが妨害したので、本来の位置とは別の場所に転移させられたみたいです」


「転移かよ。初めてしたぜ。それにしても、この場所はよくねえな。越境者じゃねえと簡単に死ぬ場所だぞ、ここ」


 確かにアダマスも危険地帯だと言っていたが、それ程にやばい場所なのだろうか。


「他にも転移させられた人達がいるんです」


「知ってるよ。俺様は匂いで分かる。全員、俺様の部下だ。しかも精神網の触れられる奴等ばかりだ。あのヤマビト、どうやったかは知らねえが、それを見抜いて転移させやがったな」


 そうか、私もバイスに精神網を見せてもらっているから転移対象者になったのか。シルバも対象者だろうが、転移自体を防いだのだろう。そうなるとシルバはあのままドリスと戦闘中という事になる。こちらに気を回す余裕は無いかもしれない。


「ここが危険なら、他の人達を助けないと」


「無理だな。ここは俺様1人ならなんとかなるが、誰かを庇ってどうにか出来るほど甘い場所じゃねえ。自分の身は自分で守るしかねえのさ」


「今はまだ何も起きてないよ。だからまだ助けられるんじゃない?」


「そんな訳ねえだろ。ほら来たぞ」


 バイスがそう言うと、私の背後から長い影が伸びた。細長い樹木のような影がウネウネと動いている。何か巨大な生物が私の背後にいきなり現れたのだ。

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