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世界の終わりより16

 バイスは走る足を止めて、こちらを振り返った。


「お前らが来ないでどうする! 早くしろ!」


「冒険者の試験はどうなるんですか?」


「中止だ! ヤマビトを止めねえと冒険者自体が無しなんだ。これを凌いだら合格だ。走りやがれ!」


 ヘルメットで表情の見えないバイスだが、睨んでいる事は分かる。私はシルバと顔を見合わせて、バイスの後を追う事にした。

 バイスは風のように走るので私の独力では追う事は出来ない。私の運動能力は微妙だ。今全力で走っても50mは8秒くらいだろう。

 走って追うだけならば防具の自動動作が使える。私の体は軸として使い、防具が私の体を操作するモードなのだ。

 バイスの通ったルートを防具がトレースして追う事が出来た。

 シルバはどうするのか見ていたが、普通にバイス並の速度で走っている。身体強化術が使えるとはいえ、身体操作は個人の資質による。老人に見える見た目からは想像も出来ない俊敏さだ。

 そう言えばシルバのローブのような服の下はムキムキだった。何か武術も修めているような事も言っていたので、それが実際に発揮されているだけなのだろう。


 あっさりとた迷宮を出ると獣車が待っていた。バイスが精神網を使って手配していたのだろう。迷宮の帰路でも何人かの人とすれ違ったので、2頭目の洞窟蜥蜴回収も抜かりないのだろう。

 バイスの持つ精神網は凄まじい連携力を発揮している。この力は社会構造を変える力があるかもしれないとさえ思う。


 獣車に乗ると直ぐに動き始めた。


「王都へ戻るんですか?」


「そうだ。ヤマビトに備えねえと直ぐに終わっちまうぞ」


 仮にヤマビトのドリスという人が聖王国に入ったとして、国境から王都までは大分距離がある。仮に転移術があるのだとしてもモリビトの管理する聖王国内で自由に使う事など出来るのだろうか。


「今ヤマビトさんは国境なんですよね? 王都まで来るには時間がかかるんじゃないですか?」


「ヤマビトにそんな常識は通用しねえ。今は樹人が国境で止めているから来ねえが、許しがあれば直ぐに来るぞ。それに俺様の位置を奴は知れるらしい。恐らくは奴から奪ったコレが原因なんだろうよ。いいか?俺様が奴に捕まれば終わりだ。俺様をしっかり守るんだぞ!」


 偉そうに言ってはいるがかなり情けない言葉だ。ヤマビトとはそれ程に強力な存在なのだろうか。

 参人というこの世界の最高位を自負する3種族の一角なのだから強力ではあるだろうが、モリビトの立ち振る舞いを見る限りでは、話し合いが通用しないとも思え無い。

 ただ、バイスがヤマビトに対して犯罪を働いている点と、モリビトとヤマビトが対立関係にあるっぽいというのが気になっている。

 いきなり戦闘になる可能性は以外と高いのだろうか。そうなったときこちらの戦力はシルバ一人となるだろう。バイスは戦闘でどうにかなるなら既にやっているだろうし、私は防御専門なので攻撃ではお役に立てない。

 相手が私に性的な魅力を感じ、その上で目的を忘れてセクハラ紛いの攻撃をしてきたときに限り、私は戦力になるだろうが、恐らくそんな事は起きない。相手は女性だろうし。


 ――


 獣車の中で終始貧乏ゆすりをしていたバイスは、王都に到着するなり何処かへと行ってしまった。


「俺様は王都の拠点で奴から隠れる。奴は俺様の細かい位置は知れねえ。奴が街に着いたら手下から合図するから、お前らはなんとかしろ」


 そう言い残してから私達には何の情報も無い。やる事も無いので、いつもの店で待つ事にした。


「いらっしゃーい」


 いつも通りテンションの低いモナが注文を聞きに来たので、いつものを注文して軽く雑談をする。


「冒険者の人達に何か変わりあった?」


「出入りが少し多いな。それ以外は違いない」


 モナは端的に言うだけ言うと他のテーブルへと行ってしまった。確かに店は冒険者の人達の出入りが激しい。なので注文もひっきりなしだ。


 急ぎ出る者、大勢で入って来る者など様々だが、中でも目立つ人物が現れた。バイスの仲間らしい赤い髪をリーゼントのようにまとめた男が転げ込むように入ってきた。


「や、や、や、奴が来ましたぜ旦那方!!」


「ヤマビトが来たというのか? 何の反応も無いぞ」


 シルバがそう言っているという事は、それなり網を張ってあったという事なのだろう。

 シルバはこの街に来たとき、最初からバイスのような裏で糸引く存在を察知していた。そんなシルバでも分からない方法で王都入りしたヤマビトには嫌な予感がする。


「何処に来たの?」


「王城にいきなり現れたとかで、既に騒ぎになってます」


 それを聞いてシルバは素早く店を出た。私もモナが気をきかせてテイクアウトにしてくれた食事を受け取ると、多めにお金を置いて店を出た。


 店のある宿街と王城は少し離れている。人の流れが王城の方に向いている雰囲気がある。何かあったのだ。


 人が増える一方の道を進んで行くと、王城の前の広場に人集りが出来ていた。


 人垣の中心には岩の柱のような物が立っている。こんなもの無かったはずだし、大体あんな大きな物をどうやって運んだのか不明だ。


(石の柱が降ってきたぞ)

(何の音もしなかったのはどういう事だ?)

(あれも越境者なの?)

(王はご無事なのか?)

(誰か兵士を呼んで来い!)


 人々の話から察するに岩の柱は音も無く降ってきたという。


「あれがヤマビト?」


「ふむ、間違いないだろう」


 私達は人垣の中心には到達出来なかったからこそ、遠くからその姿を確認出来た。


 真っ赤なトマトのような色の肌に額から2本の角を生やしている人物が岩の柱の上に立っていた。

 角の先端から半分くらいは滑らかな金属のような黒で、その部位が太陽の光を受けてテラテラと光っていた。

 服装は明らかに文化圏の違いを感じる。聖王国とも法国とも違う、言ってみると少し和風な感じがした。

 ヤマビトの服は天狗や山伏のような感じのデザインだが、腹部はヘソだしどころか胸まで見えそうなほどに肌を出しており、袴のようなズボンも横に大きなスリットが入っていた。

 勘違い魔改造和装、そんな単語がピッタリの姿だった。


 シルバは私に止まるように手を向けると、その場でフワリと宙に浮かび始めた。シルバの上昇速度がどんどん早くなり、一気に岩の柱の頂上目掛けて飛んだ。


 シルバの接近にヤマビトも気が付いたようで、目線を合わせいるのが分かる。


「貴様がドリスか?」


 遠くにいるシルバの声が聞き取れたのは、シルバが私に音声チャンネルを開いてくれたのだろう。そうであれば防具の能力でスピーカーのように遠くの音が聞けるのだ。


「何者じゃ? 儂は名乗った覚えがないがのう。それに女人に話しかけるならば、男の方が名乗るのが筋ではないのか?」


「ヤマビトの風習は知らぬ。だが、名乗らぬのはこれから話をするには非効率だ。我名はシルバだ。覚えておくがよい」


「ほう、良く見るとモリビトではないか。木偶ばかり寄越すから合わせる顔も無いのかと思うていたが、中々良い面ではないかシルバよ」


「話をする気はあるという事でよいか? ならば場所を変えようではないか。ここで話を続けるのは聖王国の秩序を乱す事になる。国境を正しき手順で越えたのだから、法を守る気はあるのだろう」


「確かに法を守る気もあるし、シルバの話も気になるが、生憎と儂には用事があってのう。全てはそれを済ませてからじゃ」


 ドリスはそう言うと岩の柱を変形させるとシルバの全身を包んでしまった。

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