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世界の終わりより13

 冒険者として登録したいと言った私をシルバは不思議そうに見ていた。何故そんな事をする必要があるのか、言わんばかりの顔だった。


 私はシルバから何故と言われる前に説明した。私達が知っているのはバイスがこの冒険者組合という組織をどう管理するかだけだ。末端の冒険者や依頼者がどう扱われるのかは分からない。これだけでは新しい業種として成立するのか疑問が残る。

 そんな理由を付けて私は冒険者登録の正当性を説いたのだ。


 本当の理由は別にある。私は私で完結出来る生活基盤が欲しいのだ。

 私が身に付けている防具はビシムが作った物だが、これを仮に聖王国で買おうとすれば、私が一生働いても手にする事は出来ないだろう。


 聖王国基準ならばモリビトの技は神の技に等しいのだ。それをシルバやビシムは簡単に私に与えた。まるで親が幼子に玩具を与えるようにだ。

 親が子に上位者が下位者に与える事は、別に見返りを求めている訳では無いのだが、与えられ者はいつしか気付いてしまう。ただ与えられる事への居心地の悪さを。


 私は思ってしまうのだ。ただ与えられるばかりではいけない。与えてくれた人に私も何か返したいと思うのだ。

 当然、私が返せるようになるまでの時と資源は与えられた物からの延長ではあるのだが、それでも私しか出来ない何かを返せればと考えずにはいられない。


 故に私は私の基盤を欲するのだ。


「そうか、では我も冒険者に登録する事にしよう。実学によって得る知識は新たな道を開くこともある」


 シルバも冒険者登録をするようだ。

 正直少し安心している。というのも、バイスは私一人では冒険者登録を許可しない可能性がある。頭の上がらないシルバからの依頼であれば断りずらいだろう。

 また、シルバの力を借りる事になるが、それは受け入れる事にしている。その上で私は自立するのだ。


 ――


 冒険者組合に行った私達は待たされていた。冒険者登録はバイスが直接やっている訳ではなく、バイス配下の人が担当していた。

 私達が聖王国に到着した初日に私達を監視していた人の一人、妙に整って高価そうな服装の男性が登録担当をしている。


「バイスの旦那に許可を取らねばなりません。戻られるまでお待ち下さい」


 そう言われて、冒険者組合の一階にある飲食店で待っている。この店は冒険者の待合的に使われており店主も料理やお酒が売れるので気にしていないようだった。


 私達は食事を注文して既に食べ終わってしまっていた。バイスを待ってはいるが、来る気配が無い。なので、申し訳ない気持ちで席を占領している。


 キッキッという床板が軋む音とともに私達の席に接近する気配がある。店員の無愛想な褐色黒髪の女性だ。若そうな見た目だが雰囲気が妙に落ち着いている。名前はモナという。


「すいませーん。人を待っていて、まだ席を使っていてもいいですか?」


 食事を頼んで時間稼ぎしようにも、もうお腹いっぱいなのだ。私もシルバもお酒は飲まないので、もう間を繋ぐネタが無い。


「気にするな。二人は上客。居ていいぞ」


 モナはテーブルの上にある皿を重ねて持っていってしまった。

 シルバに聞いたが黒髪は巨人族の特徴らしい。私も黒髪なので何かシンパシーを持たれているのかもしれない。

 巨人族と言っても体が大きい訳ではないのだ。身体強化術と極端に相性がよくて、簡単に怪力を扱う事ができ、その為、拡張具足という岩石造りの巨大な鎧を着て戦闘する事から巨人と呼ばれるそうだ。

 しかし、ここは生命樹の扱いが出来ない者が集まる聖王国だ。モナも例に漏れず巨人の所以となる力を発揮する事は出来ない。

 それでも巨人としての身体的特徴から体の強度や力は普通の人より強い。


 聖王国は術を扱う者は極端に少ないので、種族差による区別、そうして差別は根強くある。

 力が強い種は力仕事や戦闘で重宝されるが、同時に恐れられる対象ともなる。知能の高い種は新しい技術を生み出すが、それは同種だけで独占しがちだ。

 聖王国意外では種族による区別はあまり無いらしいが、術力の大小で区別される事はよくあるそうだ。


 店内は力の強い種族の人達が多い気がする。元々、力仕事系の人達向けの飲食店で、店長もいかにもパワー系なのでそれ程客層に変化は無いが、それでも冒険者業に関わる人が増えている。


 店内の様子を見ながら、シルバと談笑して時間を潰していると、扉からバイスが漸く現れた。上に来いという合図だけして、バイスは外階段へと向かって去ってしまった。

 私達はお金を支払うとバイスを追った。既に外は暗くなっていた。


 ―


 冒険者組合長の部屋には少しずつ棚や物が増えていた。バイスが見せてくれた精神ネットワークの世界に寄せているのだろう。


「それで、何の面倒事だ?」


「いや、面倒というか単に冒険者登録をさせてもらいたいだけです」


 弾丸のように前に出っ張ったバイスのヘルメットの先端がこちらを向く。


「なんでお前らが冒険者をやる? 目的は何だ? 言え、俺様は忙しいんだ」


 イラついた態度でバイスは捲し立てる。


「冒険者業がこれから受け入れられる業種になっているのか知る為だ。貴様がどのように管理するつもりなのかは分かったが、実際に動くのは聖王国人だ。その現実を知らねば業種としての整合性を判断出来んとそう考えたのだ」


「俺様が信じられねぇってのか? 黙って信じろや」


「そんな言葉だけで貴様を信じる訳が無かろう。仮にそう我から言われて貴様は信じるのか?」


 椅子代わりの箱から机と椅子に変化した部屋で、バイスが椅子をギシギシさせながらイラついている。


「面倒な奴等だぜ。だが、信じられねえという気持ちも分かる。ならばここで一つ条件を付けさせてもらう。お前らが冒険者に相応しいかどうか俺様が審査する。それが組織を預かる者の勤めだろ?」


 バイスは冒険者適正試験をやると言っているようだ。中々にファンタジー物のベタな展開が出てきて、私は少々驚いている。ただ、冷静に考えればバイスが試験官であれば、無条件で私達を失格にするのではと思う。


「そんな審査に公平性があるようには感じられんが?」


「安心しろ。お前ら二人にはそれぞれ別の依頼をやってもらう。依頼主が結果に満足すれば合格だ。これなら公平だぜ」


 そんなのバイスが依頼主まで操っていれば同じような気がする。


「だからそんな小細工の通用する依頼は指定する訳ねーだろ。これを見ろ。これをやってもらう」


 バイスは依頼書をバンという音と共に机に叩きつけた。


「依頼書拝見します」


 私はアダマスによって言葉を自動翻訳して理解しているが、文字は一工夫いるのだ。防具を操作して透明なバイザーを顔前に展開した。


 依頼書の文字がバイザーを透しては私の知る文字に置き換わる。


「洞窟蜥蜴の皮を至急に2頭分」


「そうだ。その依頼だ。一頭ずつお前等で頼むぜ」


「ふむ。洞窟蜥蜴という事は危険地帯に入れという事か?」


「そうだぜー。嫌なら止めてもいいんだぜー」


 バイスは煽るように左右に揺れていた。

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