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世界の終わりより12

 バイスの仮面というかヘルメットは確かに異様ではある。

 正体を隠すという意味の仮面ならば、仮面の意匠はあまりにも威圧的だし、前が見えているのだろうかと思うくらい視界を阻害しているので、利便性があるようにも見えない。まあ、術具としての効果があるのかもしれない。

 全身が真っ黒で肌も出していないから、中身はメカかサイボーグと思っていた頃もあったが、立つの立たないのとかいう話題になってから、そんな予想も吹き飛んでいた。


 シルバはバイスの仮面の下を知っているようだ。モリビトのデータベースで調べたのだから、色々と情報は持っているのだろう。

 知っているからこそ、この先の事を進めるならば、バイスからそれを開示してもらう必要があると考えたのだろうか。


「貴様は原種還りだろう」


「なんだそのお上品な呼び方はよ! どこのお貴族様かしらねえが、はっきり崩れと呼べよ!」


 バイスは敵意を顕にしている。仮面の下にあるものを言及する者への嫌悪を隠さない。

「崩れ」というのが蔑称である事は容易に想像出来る。


「我は原種還り以外の呼び名をしらん、故にそう呼んでいるのだ。それに原種還りは特異な能力を持つ。我はそれを知らねばならん立場にあるとだけ言っておこう」


「俺様は別に隠しちゃいねえんだよ。わざわざ俺様がお前等に見えねえようにしてやってるだけだ。そんなに見たきゃ見ていきな! 暫く飯の味は悪くなるぜ?」


 そう言ってバイスは何かの操作をヘルメットに施した。

 弾丸のように出っ張っていた均等な二等辺三角形に別れてヘルメットの基部に吸い込まれていく、そうしてヘルメット自体が上着の襟部分に収まってしまった。


 バイスの顔の中央には大きな穴がある。鼻のある位置には一つに繋がった鼻腔と思われる部位が顕になっており、その穴から外に伸びるように触角のような赤い突起が10はあった。

 ハナモグラの鼻というのが一番近い構造なのだろう。まさにバイスの顔の中心には赤黒い花が咲いているようだ。

 鼻の領域が大きく目は左右に離れており、上唇は異常に薄く前歯が剥き出しになっている。頭髪は仔象のように産毛が長く伸びて隙間だらけで、全体的に浅黒い肌で耳は象のように薄く垂れ下がっている。


 私の認識で獣人と見える種族とも何か違う気がした。バイスの特徴と言えるパーツはまるで異物のように人の部位を挿げ替えたような印象なのだ。


「嗅覚が発達した原種還りか。その能力で我の感情や動きの機微を読み取っていた訳だな」


「なんだよ。もっと嫌な顔でもしろよ。崩れを見て飯が不味くなるなんて常套句だぜ?」


 バイスがこれまでの境遇であったであろう出来事が濃縮したような言葉だった。


「先程も言ったが我は知る為に聞いたのだ。故に後一つだけ聞く。その能力は生まれもってか?」


「なんだその問いは。崩れは生まれもってのもんだろ。だが俺様はこの鼻に感謝してんだぜ。美しい見た目の下人も、ありふれた見た目の貴人も、力が無いせいで無惨な最後だったぜ。俺様にはこの鼻が、力があった。力無くば死があるのみなんだぜ世界って奴はよ」


 私は心臓を掴まれたような気分になった。私は運が良かったに過ぎない。

 バイスが言ったような世界は現実にあるのだろう。私がそこに居たならば、今頃は生きていないだろう。


「生まれもっての力か。確かに貴様はその力をよく御しているな。話は以上だ。冒険者の仕組みは理解した。今のところ問題なかろう。報酬は渡そう」


 シルバはそう言うと指輪くらいの白い輪をバイスに差し出した。


「これか? どう使う?」


「肌に触れさせておけば効果がある。月の一巡りは持つだろう。構造を解析するのは止めておけ、破損しても新しい物は渡さぬ。効果が切れたら連絡せよ。冒険者業が続いていればまた渡す」


 シルバはこの報酬でバイスを縛るつもりのようだ。


「俺様はそこまで間抜けじゃねえよ。お前らは得体が知れねえ。今逆らうのは有り得ねえよ。ただ、覚えておきな。立場ってやつは簡単に入れ替わるんだぜ」


 バイスは諦めてはいないようだ。立場が替わればバイスは私達を許しはしないだろう。

 この世界に来て初めて、この世界の仄暗さを見た気がした。恐怖し少し怯えそうして少し安心した。私は天国のような場所ばかり見て現実感を見失っていた。ここにもあると実感した、人の放つどうしようも無い闇というものが。


 ――


 バイスは思った以上に冒険者業を進めていて、私達は特にやる事は無かった。

 まだこの街で見ていないところ等を回る事も出来たが、私はバイスの闇に触れて少し昔を思い出した。足は自然に宿に向かっていた。


 シルバも宿に戻るようだったので私はシルバの部屋に寄らせてもらった。


「原種還りというのはどういう物?」


「ふむ、少し専門的な話になるが、それでもよいなら説明出来るぞ」


「聞かせて」


「モリビトは次存在に至る新種を探している。そうしてそれは現存種の中から生まれると考えている。ここまではよいか?」


「モリビトの参人思想だね。それは理解してる」


「様々な種の可能性を調べねばなない。その為にモリビトは種に対してあらゆる干渉をする」


「もしかして、今ある人種はモリビトが作ったって事?」


「今のモリビトは種を作ったりはしない。何故ならばモリビトが作るモノはモリビトを超えないからだ。故にモリビトは種の創造をしていない」


「今はという事は昔はしていたと?」


「そう聞いている。創種は古代の誤った道だとし、無忘球に封印された」


「その感じじゃ、封印は完全では無いって事だね」


 シルバはバイスに問うた。原種還りは先天的なものかと。

 そう聞くという事は、後天的に原種還りを起こす技があり、それを行う者が居るという事だ。


「全知球を無為と断ずるモリビトは確かにいる。ごく僅かではあるが、今も文明界や外界で己が信じる道を追う者はいるのだ」


「そんなモリビトに逢ったらシルバはどうする?」


「止める。己が知と理だけでモリビトの存在を超えられる訳がない。参人思想に耳を傾けよと悟す」


「そんな言葉は届かないんじゃない」


「その時は同族の我の手で無忘球に送ってやるしかあるまいな」


 シルバの言葉で何となく分かったが、無忘球とはモリビトの墓所でもあるのだろう。

 ほぼ不死の種が死ぬ場所とは、結局は無念の塊のような物なのだろう。

 参人思想という本能に沿って生きて生きて生き飽いて死ぬ。人生の最後が無念でしかないというのは、モリビトとは中々に業の深い種だ。


「ふーん、そうなんだ。ところで無忘球はビシムが調べているんだよね?」


「そうだ。一般のモリビトには在処すら知らされていない。あの闇の発生に手を貸すモリビトが居るのだとすれば、それは無忘球の中に繋がる者である可能性は高い」


 無忘球の認識に一つ訂正だ。そこは刑務所の役割もはたしているかもしれない。


「ところで一つ提案があるんだけど」


「何だ? ヤマビトが聖王国に入るまでまだ時間はあるが、状況がいつ動くか分からない以上あまり遠出や法国への帰還は難しいぞ」


 シルバは鋭いところを突いてきた、が言う。


「私、冒険者として登録してみようかな」


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