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世界の終わりより10

 闇が世界を覆う、そんな絵空事が現実に起こるなど考えた事が無かった。

 4年後に世界は終わる。そう考えたとき思うのは、そのとき自分はどうなっているのだろうかという事だ。


 私は4年以内に元の世界に帰る事が出来れば終わりを回避出来る。しかし、帰還には今私を助けてくれている人達の協力が必須だし、私自身もこの世界に愛着がある。


 もう一度考える。私がここに来る4年前からの時間はどうだっただろうか。私はどう変わって何を得ていたのだろうか。

 4年は私を大きく変えてはいるが、4年でも変わらない事もある。


 私がこのままこの世界で4年を過ごしたなら、酷い目に会っていたとしても、私は世界を嫌いになってはいないような気がする。

 根拠は無いが私の性質やそれこそ魂のような物が、そうさせる気がした。


「雲外鏡の情報を更に調べた訳か」


「そう、ビシムが映像に残したのであれば他に何かを示唆に使うのでは無いかと思ってな。暗号化してあったがやはり情報はあった」


「しかし、そこまで強固に隠すという事は、我々の情報は相手方に伝わってしまうのだな」


「その可能性は高い。ビシムの感では既に伝わっているのだと思う。だが、伝わるならビシムは余計な情報は残さない。暗号化してもあるという事は相手に解析されるまでの時間を稼いでいるという事。つまりこの情報をビシム達は相手より早く知る必要がある」


「という事は闇の発生源が分かったという事か?」


「そう、首謀者は分からないが発生原はヤマビトの国の中枢。単純に考えれば闇はヤマビトが作り出している」


 私達はこれからヤマビトのドリスという人に会う可能性が高い。人の世界に滅多に現れない参人が、このタイミングで現れているという符合に、嫌な予感しかしない。

 未来のビシムは全て知っていて聖王国でヤマビトと接触する事が重要だと示唆しているのだろうか。

 いや、それにしては曖昧な指示だった。聖王国で冒険者業を始めるなど、やり方は無数にある。別に王都で始める必要も無いし、そうであればバイスにも出会っていないし、ヤマビトのドリスを知る事も無いのだ。

 やはり、冒険者業というものが生まれる事自体が重要なのだろうか。


「ヤマビトの国に行ってみれば分かる事なんじゃないの?」


 私の纏まらない考えが、安直な質問をするに至ってしまった。


「そう簡単では無い。モリビトとヤマビトにはほぼ交流が無い。転移門一つとして繋がっていないだろう」


「そうだぞユズ。ヤマビトの国は外界の先にあるのだ。今の防具で外界を超える事は難しい。そのままの備えで行こうなどとは、このビシムが許可しない」


 鏡の映像のビシムが身振り手振りで必死に訴えかけている。

 外界、聞いてはいるが相当に危険な場所のようだ。聖王国行きが決まったときも、危険地帯入りは極力しないようにと言われた。

 危険地帯は地脈の影響が薄い地域で、各地に点在しているらしい。地脈の影響が薄ければその分、その地域で生育する生物は凶暴なのだそうだ。

 地脈の全く存在しない場所それが外界なので、その生態系は無茶苦茶らしい。

 生物の根幹が違ってしまう理由は、生命樹の枝が無秩序に伸びてしまう事にある。地脈と生命樹の成長には密接な関係があるのだ。


 新種の発生によって次存在とやらになる事を目的としているモリビトは、外界に飛びつきそうな物だが、今は外界に触れる事も積極的にはしていないそうだ。


「いきなりは行かないよ。ただ、ヤマビトの国に詳しい人の案内があれば安全なんじゃないかな」


「バイスを追っているというドリスなる者に期待しているのか? それであれば恐らく無駄だぞ。ヤマビトの価値観は独特だ。奴等の作る精神網である大地の輪に属さぬ者は相手にしない。そう言う存在なのだ」


 精神網というと複数人で念話し放題なのだろうか。確かにその輪にいない者からすると疎外感は凄いだろう。


「ビシムはヤマビトの文化には少し興味がある。肉欲を娯楽としか考え無い思想は下賤だが、そう言った文化圏で醸成された手法には、モリビトの思いもよらない道に繋がっているかもしれない」


 ビシムの話を聞く限りではヤマビトの国に近寄りたくは無くなった。


「今のところ余計な事をするつもりは無い。バイスの素性を調べ、冒険者業の発足と維持に役立つか確かめる。ドリスなる者が邪魔をするならば我が排除する。それでよいな」


「まあ、今はそれしかないか。ところでバイスの事は分かった?」


「ふむ、概ね解析出来たようだ。どうやらヤマビトの国へ行き戻ってきたというのは真実のようだな。名を変えたり、名を使わないなどして何度も痕跡を消そうとしているが、行動記録から解析すれば、およそ当人かどうかは分かる。恐らく無数の犯罪に関わっているが、自身で動く事は極力しないようだな。聖王国に入ったのはおよそ一年前でそれ以前は小国群の間で傭兵の仲介をしていたようだな」


 バイスは裏で暗躍するタイプのようだ。自己中心的で倫理観が欠如した人だとは思うが、人を使うのは上手いようだ。


「ドリスという人との関係性は?」


「ドリスがバイスを追っているのは真実のようだな。バイスはドリスに追いつかれる前に場所や国を変えて逃れているようだ。聖王国はモリビトが出入りを管理しているので、ヤマビトのドリスは足止めされているようだな。ただ、バイスにはもう逃げ場はないだろう。この先にある国は法国のみだが、バイスが入国するのは無理だろう。今のバイスには後が無い訳だな」


 シルバは顎髭を触って思案している。こういうときは大体ろくでもない事を考えている。


「バイスの性質はどうあれ、冒険者業をやらせるだけの要素は沢山あるって事?」


「そうだな。奴は以外に使える拾い物かもしれんな」


「ビシムは早くユズに戻って来てもらいたいのだ。冒険者業とやらは手早く頼む」


 ビシムからの情報もあり、私達がやる事はより明確になった。

 まずは未来のビシムからの情報通り事を進めて、世界を闇に沈める首謀者を探す。そうして、闇の発生を止める手段を講じるのだ。


 私とシルバは転移門で瞑想部屋に戻り、教会を後にした。


 ――


 王都中心に戻る頃には既に夕刻になっていた。教会までの距離が結構遠いせいだ。私が聖王国で自由になるお金を得たあかつきには、何か足になる乗り物を手に入れたい。

 今のところシルバにたかる無職だが、何か仕事をするかもしれない。

 法国にいた頃は思わなかったが、聖王国で人の暮らしを見て、経済的に独立はしておきたいと感じたのだ。


 宿に戻ってもやる事は特に無い。この防具には私の生命樹訓練用機能も搭載されているので、暇なときは訓練をしている。

 私は自身の生命樹の特性を維持する為、枝は伸ばさずに光輪の光を大きくする事に特化している。

 光輪の光が大きくなれば、その分今の防具で使っている機能の効果時間が長くなる恩恵がある。

 この手のコツコツ系は得意なので、今となっては日課になっているのだ。


 ――――


 特に何事も無くバイスが約束した三日目の朝が来た。私達の宿に現れたバイスは、外に来るように促した。


 バイスの後ろに付いてシルバと歩いていると、前にバイスと初めて出会った飲食店の前を通った。

 飲食店の2階に繋がる外階段を通って広めの部屋に案内された。


「ここが冒険者組合だ」


 バイスはそう言うと、部屋の中に居たガタイのいい男性陣が集まって来た。

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