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世界の終わりより7

 冒険者業を始めてみませんかと言ってはみたものの、私自身がそんな仕事の詳細を知らない。

 そもそも冒険者業とはフィクションに出てくるご都合主義全開の虚業なのだ。仮に仕事として成立させるのであれば、解決しなければいけない問題が沢山ある。

 しかし、未来のビシムは冒険者業を聖王国で始めよとはっきり言っていた。という事は始まり得る可能性があるという事だ。

 冒険者業を知っていたのは私だけだったし、調べた限りでは似たような業種も存在していなかった。私がなんとかする事象なのだろうと暗示している。


 私は冒険者業が何なのか、嘘を交えながらそれっぽく説明した。冒険者ギルドが冒険者希望の腕っぷしに自信のある人を募集登録し、ギルドに寄せられる依頼を斡旋して、成功すれば報酬を渡すという絵空事を語った。


「俺様に嘘は通用しないって言ったよな?」


 黒い人がヘルメット越しに睨んできているような気がした。

 確かに嘘が分かる的な事は言っていたが、私の説明は嘘無くしては語れないのだ。


「まだ存在しない職業なので、想定で語っているところはあります。でも、冒険者業がこの国に起こる事を望んでいるのは本当です」


「その言葉には嘘はねーな。まあ、冒険者とやらもどこからが嘘でどこからが真なのかはよくわかんねー感じだった」


「ではやって見る気はあったりしますか?」


 黒い人は自身のヘルメットの前に出っ張った部分を指で弾いた。金属というよりは硬い陶器を打ったようなキンという高い音が響いて消えた。


「やるかどうかは置いておいて一つ聞きたい事がある。冒険者業が始まったとしてお前等は何の利を得るんだ? 金か?名声か?」


 そう聞かれてもその答えは持っていないのだ。このままでは不味いから未来を変える為にやっているので、冒険者業が何に影響するのかは正直分かっていない。

 かと言って嘘を言ってもこの人には分かるようだし、回答に困ってしまう。


「一つの国の未来の為に冒険者業をやります」


 何も思いつかないので正直ベースでしか語るしか無かった。


「ふっ、何だそれは。嘘じゃねえのが怖えな。本気でそんな事を言ってんのかよ」


「我々の目的は未来だ。達せられなら今はなんでも良い。別に貴様で無くても良いのだぞ?」


 シルバが割って入ってくる。そろそろ私の説明ネタが切れかかっている事を察してだろう。


「そうだな。俺様がやってもいいが、冒険者業で得られ物は全部俺様が頂いてもいいんだろうな?」


「好きにすれば良い。聖王国の商業法に触れぬのであればな」


「いいだろう。俺様が冒険者業をやってやろうじゃねえか。俺様は金も名声も好きだ。やりようによってはいいとこまで行くかもしれねえ」


「そうか。ならばやるが良い。貴様が出来ぬなら他を当たるのみだしな」


「じゃあ、俺様の願いも叶えて貰おうかな。そもそもあいつをどうにかしないと冒険者業どころじゃねえんだぜ」


 そういえば黒い人は誰か殺してほしい人が居ると言っていた。そう願うという事は、自身での対処が難しいのだろう。


「既に語ったが聖王国で命を奪う事はしない。ただし貴様が冒険者業をするのに邪魔なのであれば止める程度の事はしてやろう」


「相手も知らんのによく言い切ったな。まあ、とりあえず俺様はそいつに捕まったら終わりなんだ。しっかり止めてくれ。お前がしくじったら俺様は逃げなくちゃならねえ。安全なとこで様子を見させてもらうからな」


「我が止められぬ者などそうはいない。黄金竜がこようとも止めてやるぞ」


「そりゃ頼もしい。俺様を追ってくるのはヤマビトだぜ。あんたに止められるのか?」


 ヤマビトと聞いてシルバの眉がぴくりと動く。聞いただけの知識だが、ヤマビトは参人の内の一種族だ。

 モリビト、ヤマビト、ウミビトの三種族をまとめて参人と呼ぶ。


「ヤマビトが穴から出てくるとは、珍しい事もあるものだな」


「俺様が穴に入ったのさ。それで色々あって追われる事になった訳さ。俺様を追って来るのはドリスってヤマビトの女だ。ガキのように小さい奴だが、黄金竜より強いかもしれねーぜ。今はこの国に入るのに苦労してやがるようだが、そのうち来るだろうよ」


 話を聞く限りでは黒い人の悪事の片棒を担がされる感じしかしない。


「そのドリスという人にも事情があるんじゃないかな?」


「相手がヤマビトなのであれば話す価値はあるだろう」


「やり方はお前らに任せる。そいつを俺様に近づけさせるな。姿はヤマビトだから直ぐに分かる。とにかく俺様にヤマビトを近づけさせるな。それだけだ」


 黒い人はヤマビト相手に何かやって追われているのだろうという事は想像するに易い。黒い人がヤマビトに追われいる理由が分かれば交渉する材料になる気がする。


「追って来る人が何を手かがりに来るのか分かれば、対策する手段が増やせるんじゃないかな?」


「あいつがいつ来るかは、俺様が把握してる。その辺りは教えてやるから今は気にすんな」


 黒い人がこの国という広い範囲の中で相手をどうマークしているのか不明だが、やはり事情は教えてもらえないようだ。


「貴様の自由を我々が握っている事も忘れるなよ。全てを捨てて逃げ出すのは貴様の自由だが、それを我々が許すかはその時になってみないと分からんぞ」


「嘘くせーが、全部が語りって訳でもねーな。分かっているさ、そのうちこの枷も外してもらうからな」


 私達は相互の利害関係だけで協力し合う事にした。


 ――


 私達が宿に戻ったのはかなり夜も更けてからだった。

 黒い人付いてあんな地下の底のような場所に行って来たのだが、帰りの道中に襲撃されるような事は無かった。

 内心は不安だったのだ。黒い人はこちらの状況を把握する能力が高く嘘まで看破してくる。シルバはそんな相手にほいほいと付いていっていたので、どうなる事かと思っていたが、以外と何事も無かった。


「あの人に冒険者をやってもらうって言ってはみたけど良かったのかな?」


 今はシルバの部屋でお茶を飲んでいる。シルバはいついかなる時でも必要な物を転移で取り寄せる術を習得している。暖かいお茶を用意するなど造作も無いそうだ。

 法国では毎日の飲んでいたお茶の味が今は体に染みる。


「ビシムは聖王国で冒険者業を始めよと言っていたのだ。それは別に誰がと言及している訳では無いのだからあの者を使っても問題ないだろう」


「それはそうだけど成功するかなって話だよ」


「あの者と話している間に、あの者の手下と思われる輩が我々を包囲していた」


「そうなの?」


「だが、我々との交渉内容が進むにつれて包囲は無くなっていった。事前に取り決めをしていたとしても動きに淀みがなさ過ぎる。恐らくはあの者に他者との思念を繋ぐ能力があるのだと思う」


「念話が出来るっこと?」


「念話は簡単な術では無いのだ。文明界人に扱える者はおるまい。使えたとして、その気配に我が気付かない訳が無い。故に奴には何かある。ヤマビトと何かあったという事も関係しているかもしれんな」


 黒い人は相当の能力者らしい。結局、互いに名前を教え合わなかったので名前すら知らない。

 そんな能力者が逃げるしかないヤマビトという存在が気になっている。


「ヤマビトってどんな人達なの?」


「ヤマビトか、そうだな奴等はモリビトの対極にある者だ。理を知らぬ時を無駄に過ごす愚者の集まりよ」


 どうやらこっちはバチバチに敵対しているようだ。

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