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世界の終わりより4

 聖王国が越境者を登録する為の儀式的なものが完了したようだ。


 私とシルバの手首には白い輪がはまっている。継ぎ目が無く割とピッタリサイズなので、簡単に外せそうは無い。

 これを見て兵士が跪いたのはびっくりしたが、事前にシルバから聞いていた通りだ。

 聖王国には法国が管理する為の端末として白樹が各地にあるそうだ。

 越境者の管理は法国がしており、そのシステムの一部は聖王国の人々の知るところなのだ。


 この手首の輪は越境者の管理証のような物で、白色は聖王国外の権力者の意なのだ。

 シルバが私と二人で法国を出た理由は、この白証を得る事が大きい。


 モリビトは国外に不干渉が基本なので、シルバが単独で聖王国に来た場合は、黄証になるそうだ。

 黄証は法国からの監視付きという意であり、かなりの制限を受けるそうだ。

 なのでシルバは法国内に居たモリビト以外の種を外に出し、また戻すという役割の元に白証を得たのだ。


 聖王国の兵士は王との謁見を勧めてきたがシルバはあっさりと断った。

 聖王国サイドからすると、他国の権利者が自国に居るならば、その目的は探りたいだろうなと思う。

 シルバは滞在場所が決まったら後ほど連絡するとだけ伝えていた。


 王城から早々と出て来た私達は、とりあえず滞在場所を確保する事にした。

 資金は大丈夫なのかシルバに聞いたが、聖王国法に沿った方法で得たお金があるそうだ。

 モリビトは貨幣を扱っているように見えなかったので心配していたが、シルバは聖王国法には詳しいようで、その観点からお金も用意していたそうだ。

 ビシムはお金と聞いて2秒くらいフリーズしていたので、法国外を知らないモリビトは外国ではかなり浮くそうだ。そう言った意味でも今回出るのはシルバしか居なかったと言える。


(城から何者かが付けて来ている。注意しろ)


 突然シルバの声が頭の中に響く。これは念話術というらしく、ようはテレパシーなのだ。緊急時に声で意思疎通出来ない場合に使う事になっている。


(王様の誘いを断ったからなんじゃないの?)


 私もビシム製の防具のガイドで念話が可能だ。


(城の者では無いな。どうやら証を得た越境者を常に見張っている者がいるようだ)


 そうなると恐らくは単独行動では無いだろうから、既に周りに居る可能性がある。

 城から離れて街に近づいているので人通りは増えて来ている。キョロキョロしたいのをグッと我慢して前だけ見ている。

 私はビシムの防具に守られているのだから、危険が向けば察知出来る。今はその感覚にだけ集中していた。


「そこのお二人さん。旅人かい? 宿はもう見つかったか? まだなら紹介するぜ」


 栗色の髪の割と身なりの整った中年男性が話しかけて来た。

 その言葉を聞いて直ぐに例の違和感がやってきた。時間が止まり、違和感の正体は背後からだった。

 私が肩から背負っていた荷物風の袋に背後から手を伸ばす者がいた。恐らくはスリに会いそうになっている。

 しかし、私の荷物の中身は実は空なのだ。必要な物はシルバが転移術で取り寄せ可能なので、私達は擬装の一環で荷物を持っているふりをしているのだ。


 空の荷物に気付かれるのも面倒なので、違和感の無くなる方へと身を躱す。そうすると時間が元に戻り。シルバはスリの腕を掴んでいた。


「我の連れに何用だ? 聖王国では他人の荷物に手を付ける事は違法では無かったか?」


 私は時止めで認識していた僅かな時間で、シルバは素早く動いていた。普段の認識からして超高速なのだろうか。そうなるとまともな日常はおくれない気がするから、集中すれば私と同じ時止め状態になれるのだろう。


「あぁ!? なんだ! 荷物が落ちそうだったから助けたんだ! 言いがかりを付けんじゃねぇ!」


 赤髪のリーゼントみたいな若い男性が騒ぎ始めた。シルバは騒ぎになるのを避けたのか、男性の腕を離していた。

 行き交う人々も一瞬足を止めかけたが、これ以上何も起きないので、また流れに戻った。赤い髪の男性もぶつぶつと何か言いながら人の流れに消えて行った。


 ふと気が付くと話しかけてきた男性も既にいない状態だった。

 城から付けて来た人も含めるて、一連の出来事は仕組まれていたように感じる。


「行くぞ」


 シルバはそう言うと歩き始めた。


 ――


 シルバと共に街の入り口辺りまで戻って来た。途中付けられるような事もなかったようだし、街の様子もゆっくり見られた。

 やはり、住んでいる人種の多さに驚く。羽、角、尻尾といった私には無いパーツのついた人を良く見かけたし、それが当たり前のように街は回っていた。

 人以外にも家畜や車を引く動物も見た事がないし、植物や売られている野菜、果実も奇妙な物が多かった。

 異世界に来た感じがしている。法国は異世界というより未来世界だったので、なんだか結構ワクワクしている。


 もちろん不安が無い訳では無い。早速犯罪に巻き込まれそうになったし、私単独では何をしていいのか分からない気持ちもある。

 しかし、シルバと一緒に居る事が大きい。この国を良く知り、かつ頼りになる人物が傍に居る事は、初の外国では大きなアドバンテージになる。


 街の入り口は獣車なる交通機関の乗り合い所もあり、その影響で宿も多い。

 シルバは適当に宿を選んで入ると、あっさりと決めてしまった。


 聖王国の宿は基本的に土足禁止だ。入り口に足や靴を洗う水場があり、汚れを落としてから素足で上がる。建物は基本的に木造で、私的にはどこか江戸時代という印象だった。当然、建築様式は違うが木の柱の感じや屋内の薄暗さは、何故か懐かしさのような物を感じた。


 部屋は空いていたのニ部屋借りる事が出来た。狭い板間で寝台と思われる木製の台には布団的なものは無くて毛を固めたようなカーペットが敷いてあるだけだった。

 恐らく風呂無しのトイレは共同だろう。なんだか一気に生活の不便さを感じてきた。


 私がこれからの暮らしに思い悩んでいると扉をノックする音がした。扉は木製の引き戸で、鍵はつっかえ棒だったのでロックはしていなかった。


「はい」


「我だ。この先の事で話をしたい。食事に行くぞ」


 シルバのようだ。確かにこの先の事はまだ決めていない。正直、冒険者業を始めるなど、何をどうしていいのか分からない。


 扉を開けるとシルバが廊下に立っていた。視線で私の荷物を持つように促された。宿といっても外鍵無しの部屋しかないのだ。基本的に荷物は自己管理となる。

 私は重さのほぼ無い空の袋を肩に担いだ。


 ―


 食事処も近くに沢山あり、肉の焼ける香ばしい匂いに誘われて目の前の店に入る事にした。


 店は板張りだが土足可で、丸いテーブルと椅子が幾つも置いてあった。店主らしきスキンヘッドの人物が肉を焼いており、その匂いでダイレクトマーケティングするスタイルのようだ。


 私達がテーブルにつくと浅黒い肌のエプロンをした少女が近寄って来た。


「いらっしゃせー何にします」


 やる気の無い適当な感じの声だったが、どうやら店員さんのようだ。


「これを二つ頼む」


 シルバは私に何の断りも無しに注文をしてしまった。


(今は食事をするふりをしろ、少し注意の必要そうな輩が近くに居る)


 抗議しようと思っていた矢先に念話が来たので、思わず咳込んでしまった。

 シルバが要注意という事で緊張感がやばい。


 目を伏せ気味にしてテーブルの木目ばかり見ていたが、不自然過ぎると思い店の入り口を見ると、丁度誰か入って来るところだった。


 入って来た人が何なのかは分からない。全身が黒尽くめで頭は真っ黒なヘルメットのような物を被っているのだ。

 私はそれと目が合っているような気がした。実際に相手は前が見えているのかすら分からない姿だ。


「よおー探したぜ」


 その黒い人は私達に向かって低い声で話しかけてきた。

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