世界の終わりより3
私は聖王国の街道をシルバと歩いている。
聖王国、私がこちらに来て知る二つ目の国だ。聖王国の事は事前に色々と聞いている。
聖王国は世界で一番モリビトが干渉している国なのだそうだ。シルバ曰く生命樹を扱えない者の国
らしい。
生命樹を扱え扱えないで言うと、もはや別の生き物と言ってもいい程の格差がある。それは私も実感している。
格差があるのだから差別と区別が生まれる。生命樹の扱えぬ者は下人と呼ばれ、迫害される事も多々あるのだとか。
モリビトは下人を集めて他から侵略されない土地に隔離したのだ。そうして出来た国が聖王国なのだそうだ。
聖王国は大陸の東の果てにある。そこから東は大洋があり航路も無いそうだ。南と西は危険地帯になっており、人が簡単に越えられる場所では無い。北は法国と周辺の樹海がしっかりと蓋をしているので聖王国は他国との交流はかなり制限されているのだ。
ただし、一部の強靭な力を有した個人が超えて入国する事はある。そうした個人が聖王国を荒らさないように法国は監視システムを配備している。
外部からの人間を越境者として管理し、問題を起こした者は聖王国から排除されるのだそうだ。
シルバは義枝機と呼んでいるが聖王国の人達は樹人と呼ぶそれは、この国の守護者として神の使いのように崇められている。
聖王国の神は北に見える法国大樹の頂にあるとされており、それはモリビトの事なのだが聖王国人は私の隣りに居るシルバを見ても神とは思わないそうだ。
モリビトは聖王国を管理している事を秘匿している。表立って動くのは樹人なので、聖王国人もあの巨大な樹木そのものを神聖視している。
確かに、ここからでも見える法国の大白樹は神々しさがある。巨大過ぎて壁にしか見えない白い幹に空を覆うような緑の葉の塊は畏怖を感じ、下手をすると異様ですらある。
何も知らずにアレを見たならば、何も思わず無視する事は出来ないだろう。誰しも必ずアレに意味や意図を求めてしまう。
私はつい先程まであの大樹の中に居たのだが、今は外から見る立場になり街道を歩いている。
事前に決めていた通り、聖王国の首都を目指しているのだ。
立場的に私達は越境者なので、その登録に向かっている。モリビトが定めた訳では無いが、聖王国では越境者は必ず登録をしなければならない法があるそうだ。
モリビトは聖王国人の生存に関わる事には干渉するが、政治、経済、文化、宗教など聖王国人が自ら定めた事には干渉しないらしい。
モリビトは聖王国人が生きられるように樹人を介して術具の技を供与しているそうだが、それを一部の聖王国人が独占し、その階級の頂点が聖王を名乗って治世しているらしい。
聖王国と言う名も初代聖王が決めたのだそうだ。
聖王は自身より力を持つ可能性のある越境者を警戒しているのだ。
越境者が秩序を乱せば樹人に排除されるが、越境者も考え無しの者ばかりでは無い。聖王国の法の中で上手くやる者もいるから、聖王も管理に躍起になっているのだ。
街道には人の往来も増えて来た。荷車が多い事から周辺で作られた生活必需品が都市部へと運ばれているのだろう。
クルクルの毛に覆われた牛とも豚とも見える動物は家畜なのだろうか、荷車に満載されておりキュイキュイという鳴き声を上げている。
荷物を運ぶヒトも様々だ。全員が子供くらいのサイズの犬みたいな顔した一団や、羊のような角以外は普通の人みたいな種族もいたりとかなりバラエティに富んでいる。
私の知る都市はほぼ同種の男女しか居なかったので、この混沌とした群衆には驚きを隠せない。
私は自分の見た目が特殊なのではと感じ始めて周囲をキョロキョロとしてしまっていた。
「どうした? 何か気になる事でもあるのか?」
シルバに話しかけられてビクッとしてしまった。
「いやー、私達って実は目立っていたりするのかなーと思って」
「我々に注意を向ける者は特に居ないようだが。仮に悪意ある者が何かしてきたとしてもユズの防具で充分対処できるだろう」
まあ、確かに安全なのかもしれないが、この全く未知の群衆に入り込むという感覚は初めて過ぎて落ち着かないのだ。
ビシムの作ってくれた防具は優秀で私への危険は事前に察知する機能が備わっている。
ビシムは理屈を詳しく説明してくれたが専門的過ぎてよく分からなかったが、胸にあるアダマス核が私の精神活動を常にトレースしながら、各種の術具センサーで周囲の状況を探知しているらしい。
術具のセンサーが異変を感知すると、アダマスから違和感として私に情報が届く。
これまでの調査で私の生命樹に発生した光輪の拡大領域は時間の流れがかなり遅いそうなので、その領域に情報を送る事で私の認識時間が逆に加速状態になる事を利用して、判断の時間を大きく確保し回避や防御が行えるのだ。
私は聖王国の人々の一団に混ざってはいるが、まだ危険を察知して時間加速に移行してはいない。つまりはまあ、私の自意識が過剰なだけで、誰も私に注目していないという事なのだ。
そう考えると少し気が楽になってきた。擬装服に付いているフードも被っているので顔も隠れており、そんなに気にする事でもないのかと思えて来た。
街道の木々が茂る場所を抜けると景色が広がり聖王国の首都が見えた。
丘の上に巨大な建造物があり、あれが恐らく王城なのだろう。大きな建造物は石なのか木なのか分からない謎の灰色の素材で出来ている事が多い。屋根は大体が赤い瓦が多いが王城の瓦は赤が濃い。
丘の中腹辺りから建物のサイズが小さくなり、その分数が増す構造になっている。小さく家は木造が多く瓦の色もまちまちだ。
街道は丘の上を目指すルートと周辺をぐるっと回るルートの二つに分かれている。私達は丘上のルートのようだ。
シルバは特に何も言わずズンズンと進んで行く。向かう先は何処なのだろうか。役所的な場所があるのだろうか。
周囲の建物は高さが出てきた。建材を積むタイプの建物は二階三階が限度なようだが、謎素材の建物は五階を超える物もある。
この建築技術の差に何か格差のような物を感じる。
シルバの向かう先はどうやら王城のようだ。良く考えたら私達は越境者扱いなのだ。それは王城でどうにかしようとするのは当然だろう。
王城の城門前にある装飾の華やかな建物にシルバと共に入ると金属鎧を着た兵士っぽい人が応対してくれた。
対応自体は穏やかだが、私達二人に対して完全装備の兵士6人が付いた。
私達が暴れた場合、一人頭3人で対処するという事なのだろうか。
兵士に囲まれながら建物の廊下を進む。例の謎素材がアーチ状の天井を形成しており、綺麗な装飾が各所にされている。照明も法国で見た謎の発光素材っぽい物を使用しているようだ。ただ、ランプのような照明器具の形にしてあるようだ。
進んだ先には綺麗な中庭だった。中央には明らかに重要オブジェクトですと言わんばかりの装飾があり、一本の木が生えていた。
恐らくその木は白樹だろうと思った。幹の実感や葉の形がシルバビルの一部に残る木の部分と似ていたのだ。
兵士に促されて白樹らしき木に触れると、近くの枝から蔓が伸びて手首に巻きついた。これは危険と判断されないのか防具も反応しなかった。
シルバの手首にも蔓が巻きついており、やがて枝との接続が千切れて腕輪のように残った。
白い輪っかが手首にある。蔓かと思ったが硬くなっているが重さはほぼ感じない。
付いて来ていた兵士達は私達の腕輪を見て跪いていた。




