仕事の終わりに19
シルバの未来視研究はモリビトの何者かによって貶められていた。
法国の未来を闇で包む者が未来視が邪魔だと判断したからなのだという。
シルバは300年前に貶められて、法国の大綱とやらから外され、耐え忍んできたのであろう。
今のシルバは怒りと憤りに支配されている。ビシムは宥めようとしているが、私個人からすると怒りを爆発させていいのではと思わなくも無い。
ビシムの言葉にはシルバと長年培ってきた信頼による重みがある。言っている事ももっともだ。
というか、この二人はイメージと逆なのだ。理性的で冷淡な感じのシルバは根っこでは激情家であり、感情的で奔放に見えるビシムは実は論理家なのだ。
なんともし難い空気だ。しかし、未来の事となると私も無関係では無いのだ。私の未来もた闇に飲まれ事が確定している。
「未来を闇にしようとしている人に報復してはどうでしょうか? 未来を変えて闇が無くなれば、相手は望む未来を得られないし、私達は望む未来を得る。一度で全ての問題が解決しますよ」
「報復だと? それで我の300年が報われるというのか? 話にならん!」
「シルバよ。過去はどうやっても戻っては来ない。それよりもこの先全てを奪われる事を良しとする訳ではないのだろう? ならば、ユズの言う報復は良い手だと思う。ただし、どうやって報じるかが問題だがな」
確かに既に相手の手は回っており、後4年で完成するところまで来ているのだ。加えて、法国における権限も相手の方が強いというのだから、こちらには手が無いような気もする。
「結局、相手は未来視を封じてきたのだから、未来視を恐れているというか事なのではないでしょうか?」
「だが、未来のビシムは未来を視るなと警告している。未来視の情報が相手にも利するという事だろう」
そうなのだろうか。何か違う気がする。未来のビシムは未来を視るなとは言わなかった。
「未来のビシムは何も言う事が無いと言ったんです。ならば、これから先の事をビシムに記録してもらって、闇になる瞬間に過去に伝えていい情報だけを言ってもらうのはどうですか?」
かなりの即興アイデアだが妙にしっくり来ていた。
「ふむ、面白い考えだ」
そう言ったのは以外にもシルバだった。
「ビシムを全面的に信用するという事だがいいのか?」
言っている内容の割にはビシムは笑っている。
「疑ってどうにかなるものではないだろう。それにビシムは闇の直前まで止まっているのだ。それは一つの信頼に値する」
「では、ビシムの伝言で未来を視る作戦は決行するという事ですね?」
「そうだ。ただし、まだ闇の正体が分かっていない。それを調べてから未来を視る」
シルバはビシムの言うように今に怒り未来の糧にしようとしているように見える。
「では、今ある未来視像の解析にかかるのだな? そうであればビシムとユズに出来る事は無いのだから、待たせてもらうぞ?」
「好きにしろ。明日には終わる」
シルバは既に何かの作業に没頭していた。
「ユズ、行こうではないか。こうなっては我々にやれる事は無い」
ビシムに手を引かれて私は雲外鏡の外に出る事にした。
――
ブランの店で食事をした後、私とビシムは部屋に戻って来た。食事の際に部屋の改修方法をビシムから聞いたので、やってみようという事になった。
ビシムは私の部屋で何かの設定を操作している。
「ユズ、1年後のビシムを見てどう思った?」
そう言われて記憶を辿ってとんでもない記憶が蘇ってしまった。折角見なかった事にして記憶を封印していたのに、どうしてこの人はこの話を蒸し返すのか。
「ええっ! どうというか、人には色んな趣味趣向があるし、その、未来視って結構怖い技術だなと思いました!」
恐らく聞かれた意図と全く違う回答をしている自覚はある。
「あれはビシムの自慰ではあるが、ビシムの知らない方法だった。どこかで案を得ての事だろうが、それはユズからのような気がしたのだ。あの像にユズの知る知識は無かったか?」
気かれている内容のトンチキさに比べてビシムの表情は真剣だった。確かにアレは、二次元触手モノそのままだったが、え、アレ私が伝えああなったの?
そう言えばお風呂文化も受け入れられたし、もしかして元世界文化無双をし始めているのだろうか。
それにしても二手目に触手は無いだろう。まあ、ブランのラーメンも入れると三手目か。
「あのー、心当たりはあるのですがー、その現実の事ではないと言いますか、妄想の範疇というか、ひじょーに伝え難い内容となってまして」
「人種が生殖に制限を設けているのは、どちらの世界でも同じだな。それは理解出来る。無計画な生殖は種を滅ぼし兼ねない。人種のソレは一つの生存戦術なのだからな。しかし、モリビトであるビシムはソレを問わねばならない」
「研究の為ですか?」
ビシムは少し悲しそうだ。
「そうでは無いと言い切れないのが辛いところだな。モリビトは生存が確約されているが故に生への執着が薄いのだ。それはこれから生まれてくる存在の生についても同義だ。故に生殖への意識も低い。使われない生殖器は機能が失われてしまう。そうなればビシムの研究は立ち行かないな」
「モリビトは緩やかに滅んでいるのですか?」
「そう言った見かたも出来るな。だが、まあ感情的な事を言うならばビシムはモリビトという種が好きなのだ。滅んでほしい訳は無いし、どうにか出来ればと思う。自慰の手段もそうなのだ。少なくとも魅力的で安全な自慰手段が開発されれば、生殖能力の低下を抑止出来る」
「で、次世界人の私に聞きたいと」
「そうだ。ビシムが開発するにしても、既に文明界のモノは使い尽くした。発想するには何か新しい刺激が必要なのだ」
凄く真面目にエロアイテムのアイデアについて熱弁された。まあ、理解出来ない訳ではないが、私がそれをこれから口頭なりなんなりで説明するというハードルの高さがエグい。
「もしかして、今からですか?」
「今からしかないだろう。シルバの解析は明日になるのだから時間は十分にある」
この感じ、断れない雰囲気が凄い。こうなってしまったらやるしか無い。私の脳内にある二次元エロ情報をフルオープンする事になるのだ。
私は元々妄想系の人間なのだ。故にエロ妄想は当然の事ながら大好物なのであった。
―――
朝になった。部屋は結局バスルームを増設してリフォームを一旦終了した。
ビシムは私と妄想エロトークをしてからアイデアが湧いたとか言って自室に篭ってしまった。今頃はとんでも無い装置が制作されているのだろうか。
新しいバスルームの使い心地確認に為、普段はしない朝フロに入ってみたが、まあ結構いい感じだ。
時間に余裕があるって本当にいい。仕事をしていた頃はリセット感覚でシャワーを数分浴びる程度だった。余暇の大切さを異世界で知るとは思ってもみなかった。
風呂上がりに食事も面倒なので、白樹果をジュースにした物を飲んでいると、シルバから呼び出しがあった。
当然、ビシムも呼ばれているので、雲外鏡に向かう途中で出会った。
ビシムの姿が昨日より艶っぽいのは見なかった事にしておく。
シルバは何か大量の資料に埋もれいる状態だった。シルバの部屋の惨状がそのまま降りてきたようだ。
私達に気が付いてシルバは、嬉々として話始める。
「あの闇の正体が分かったぞ!」