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仕事の終わりに17

 未来を視る装置、それが私の目の前にある異形の樹木なのだそうだ。


 話の流れからすると、今は未来を視る事はしていないようだった。何故止めたのか、未来を視る事で何を得て何を失ったのか、私には知りようがない。


 装置は起動しているようではあるが、機械では無いので駆動音や排気音がしたりはしない。ただ、何か大きな生物が目の前に居るようなそんな気配を感じる。

 その気配の正体は私が術に使用される空間影響力を認識出来るようになった事にある。

 目の前の装置には夥しい量の空間影響力が充填されているのだ。こんな気配を無視しろという方が無理がある。


「それで、何を視るのだ?」


 シルバから問われるが、私が見たい未来とやらはまだ明確になっていない。

 未来を視るといっても、どういった情報が手に入るのか分からないのだ。映像なのか文書なのか、表現され方によっては受け取りようも違ってくる。

 未来視をしようと言いだしたビシムは、何かを確認しているのか、遠くに居る。シルバの問いは私に向けられているように感じた。


「未来視機で未来を視ると、どういう情報が得られるんですか? 未来の私の映像なのか、何か文章での説明になるのか、どういう感じなんでしょうか?」


 シルバは一瞬ビシムの方を見て、それから私を見た。


「まず言っておくが、この術具は未来視機などという呼び名では無い。名を雲外鏡という。世界にある未来に繋がる情報だけを視る事で、物事の真なる姿を顕にする鏡なのだ」


 シルバの拘りが強そうだ。恐らくシルバの深い部分と繋がっている装置なのだろう。


「では、その雲外鏡で私を視た場合はどういった姿が写るんでしょうか」


「未来にある姿そのものが像として写る。時間と対象、例えば10年先のユズを視た場合、ユズが指定範囲内の場所に居れば場所も含めて視る事が出来るのだ。指定範囲にいない場合や既に死亡している場合などは、像は見られないがある程度の情報が手に入る。これは書面に起こす事は可能だ」


 なるほど、話が真実ならば未来の状況を監視カメラ的に視る事が出来るようだ。そしてそれは指定場所という範囲内であれば可能なのだろう。

 最後に、全く考えていなかったが死亡している可能性、これは確かにあり得る。

 範囲外、死亡済みは分かるという事なのであれば、そこから視る時間を戻しながら見ていけば、何処へ行った何故死んだかも分かるのでは無いだろうか。


「だが、そんなに都合良く未来を視る事は出来ない。そうでは無かったかなシルバよ」


 遠くで何かを確認していたビシムが戻ってきていた。


「ふむ、そうだ。未来を視た者は少なからず影響を受けて、視た未来とは違った現実に逢う事の方が多い。故に第三者に未来を確認させるや、情報集積所などを設けて間接的に未来を視るのが一般的だ」


 確かに自分が死ぬ未来を視て、それをそのまま受け入れる事は難しいだろう。私だったらそんな運命は回避するように行動してしまう。


「それでもまだ未来視には問題があるのだろう?」


 ビシムは敢えて強調するかの様に聞いた。シルバの眉間に皺が寄るが、何か既に受け入れているような諦めにも似た表情になった。


「未来を視て、それで現在の考えや研究を捨てる事は大きな損失となる。モリビトの目指す自由なる思考の連鎖と、次存在へと至る道への疎外にしかなり得ない」


 シルバは決まり文句の台詞を読むかのようにスラスラと自己の研究を否定した。

 これが恐らくはシルバが過去に経験した事なのだろう。


「未来を視た者全てが現在に活かせるかどうか、それは確かに疑問だな。だが、活かせる者が一人としていないとビシムは思わない。活かせぬ者は既に自死を意識したモリビトくらいのものだろう」


「ビシムが何と言おうと、雲外鏡の使用が大綱に戻る事は無い。さあ、何を視るのか早く言え」


「では、まずはビシムの一年後を見せてもらおう。どうせならば皆で視ようではないか」


 シルバは鼻息一つで返事をして雲外鏡を操作した。巨大な樹木に埋まるガラス球の中に何か像が浮かんで来た。どうやらビシムの姿のようだ。


「…………!? わ、わぁー! こ、これは?」


 思わず声が出たのは私だけだった。


 ビシムは自室らしき場所で何か複数の管状のモノに絡みつかれている。どうやら音声を入るれしくビシムの声は激しい嬌声だ。

 これは完全に触手プレイ的な中かではないだろうか。ビシム以外に人が写っていないところを見ると、これは完全に自慰行為中ではないだろうか。


 シルバは嫌なモノを見たかのように目を逸らしている。ビシムはその痴態を観察していた。


「ビシムの予想とは違ったが、まあ、今後の方向性の参考にはなった」


 ビシムがそう言うとシルバは素早く雲外鏡を操作して映像を消した。

 シルバが集約した情報だけを見る場を設けると言った意味が良く分かった。未来の状況を視てもシーンによっては何も分からない場合もあるのだ。

 大体、ビシムはあの映像から何の情報を得たのか謎すぎる。


 こうなると、なんとなく占い感覚で視てもらおかなーとか考えていた私の認識が揺らいだ。

 未来に於いて私がビシムのような事をしていないと言いきれないのだ。そうなると偶然妙なシーンが写る可能性はあるのだ。そんな物を誰かに公開する事は出来ない。


「これ、結構衝撃的なモノが写る可能性あるので、また今度にしてもらってもいいですか」


「ユズ、案ずるな。未来視は当人しか視る事が出来ないように設定可能だ」


 とんでもないシーンを見せたビシムが何食わぬ顔で私に助言してくる。


「どうする?視るのか視ないのか決めよ」


 シルバは若干イラッとしているようだ。何かシルバの事情も考えると私が断る事で気分を悪くするような気もする。


「では、私しか視れない設定でお願いします。時間は4年後でお願いします」


 4年後としたのには理由がある。元の世界で4年後に一つ確認したい事があるのだ。

 私が戻りたいと思う理由の一つではある。元の世界に居たならば疎ましい約束だが、私がその場にいないとなると懸念しかない約束だ。

 なんとなく4年後には戻っていたい、そんな気持ちから選んだ未来だ。


「では、これを装着せよ」


 シルバはガラスで出来たような輪のよう物を渡してきた。装置方法は頭に被るようだが、私の頭の経より大きい輪なので位置固定出来ない。

 そう思っていたら輪っかは私の目の高さで宙に浮き、鉢巻状に展開した。これは宙に浮くメガネのようだ。


「装着、できてます?」


 シルバはこちらを確認すると雲外鏡を起動した。木の幹にある巨大なガラス球に像が浮かぶ事は無く、代わりに私の視界にあるガラス板に何かが写り始めた。


 一瞬何か写ったような気がしたが、その後は真っ暗な闇が写っている。元々がガラス板なので何も写っていない訳ではないと分かる。ただ、闇しか写っていないのだ。


 目を凝らして見ても何見えない。範囲外や当人の死亡は分かるとシルバが言っていたので、もしやと思い空中メガネを外してシルバの方を見たが、ビシムと談笑していた。


「どうした?何か都合の悪い物でも見たか?」


 シルバは少し皮肉気味に聞いてきた。


「あの、真っ暗な映像しか映らないんですけど」


 私の言葉にシルバは虚を突かれたような顔をした。

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