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仕事の終わりに16

 この世界に求める物が何なのか。この世界での生存と元の世界への帰還、それが私の求める物だと思ってきた。


 元の世界では趣味の為に仕事をしていた。二次元を摂取してその世界に想いを馳せて、妄想を糧に生きているのが私だ。

 正直死ぬまでそれでいいと思っていた。


 しかし、今私の居る世界は、私の妄想を超えている。元の世界では妄想以上の体験など無いと思っていた。現実にある妄想を超える世界に、正直なところ魅力を感じ始めている。

 しかも、この法国という場所は私にとっては最適なのだ。仮にシルバが言うような法国外に放り出されていたら、私は既に死んでいる可能性すらある。


 私は今、法国、モリビト、シルバに甘んじて生きているのだ。その気持ち悪さは常に付いて回っている。

 何らかの研究対象として価値が無くなる前に、この世界での生活基盤を作らねばという焦りはあるが、やったところで何も無いのではという無力感の方が強い。


「この世界でやりたい事、そうですね、生涯を賭して私がやれる事が見つかればなとは思います。後は、元の世界と行き来出来るようになれればですかね」


 湯船の反対側に居るビシムが湯に浸かりながら、四つん這いのようなポーズで一歩こちらに距離を詰めて来た。私は反射的に伸ばしていた足を収納して膝を抱え込んだ。


「ユズはまだ探している途中という事か。ならばビシムを手伝うというのはどうだろうか?」


 それは結局、男性体に変化したビシムが私と子作りするという事だろう。それは遠慮したい。


「いえ、出来れば自分で探したいと思います」


 ビシムは一歩詰めた位置で湯に口まで沈み、ぶくぶくと泡をたてている。そのうち少し浮上して上目遣いでこちらを見て来た。


「残念だがユズが決めたのなら仕方ない。では、シルバに、いやシルバの研究に聞いてみるのはどうだろうか」


 シルバの研究は謎が多い。まずシルバ自身が語らない答え無いというのもそうだし、私を召喚したと思ったら研究内容は未来視とか言うし、何だか纏まっていない気がする。


「未来視とか言ってましたが、未来の事が分かるんですか?」


「分かる。と言っても、未来の可能性の一つが分かるというのが正しいな。ビシムも専門では無いから詳しい事は分からないので、シルバに聞くのがよいだろう」


 シルバとはその話で午前中に喧嘩別れになったと思うので、しばらくそっとしておいた方がいい気がする。


「シルバさんは未来視の事、聞かれたくはないんじゃないでしょうか。私が行って聞いても教えてくれないのではと思います」


「それは問題無いだろう。シルバが怒っているのは過去の話であって、未来の話は別だろう。シルバは常に未来視の研究をしているのだ。それは昔から変わらないんだぞ」


 ビシムは何やら自信があるようだ。


「大丈夫ですかね」


「行ってみれば分かるだろう」


 そう言うとビシムはざばっと湯から上がり謎の流体操作術で体を一瞬で乾かした。

 私も遅れて湯から上がると、ビシムがこちらに手をかざすと一瞬で乾いた。体感したらわかるが、これは水滴に対しての操作と空気の流れで水を飛ばすを同時にやっているので、速乾なのだ。


「凄い。もう乾いた」


「水浴びの後はいつもこうしていた。さあ、いくぞ」


 ビシムが手を掴んで部屋を出て行こうとするので引き留めた。


「まだ服を着てません。私もビシムも」


「3人しかいないのだから別に服は無くてもいいだろう。シルバのところに行ったとて、服が無くて困る事もないしな」


 いや、困る事だらけだろうよ。


「駄目です。服は着ましょう。ビシムも着ましょうね。ああー、ビシムの持っている他の服見たいなー」


 棒読みだったがビシムの反応はよかった。


「そうか? ならば着ようではないか。ユズも着てみるか?似合いそうな物が幾つかあるぞ」


 とんでもない半裸ファッションが飛び出しそうなので、牽制しながら行くしかない。


 ――


 ビシムは首から足先まで全身を一枚で覆う、近未来感漂うボディスーツを着ている。体のラインが完全に出る勇気しかいらない装いである上に、チェック柄のように交互のパターンで構成されているデザインなのだが、半分は素肌が丸見えなのだ。

 これがビシムが着ると言った服の中で一番布面積が多かった。確かに50%は布なのだが、結構攻めた部位の布が無い。


 私はサイズが合わないなどの言い訳を積み重ねたが、サイズはいくらでも調整可能なので、ビシムにしっかりと論破された。

 結論から言うと胸を出すか足を出すかの選択を迫られたので、苦渋の決断から薄緑色の肌が透けそうな生地の激ミニワンピースを着る事になった。


 100%着ない感じの服を着た人間の心細さと言ったら、他に形容出来ない。この服を着て部屋を出た瞬間は、極寒の中に全裸で出た心持ちだった。

 ただ、一回出て見ると心が大きくなって、歩を進めるにあたりどうでも良くなってきた。


 そうして馴染んだ心がシルバの部屋の扉前に立った瞬間に最初に戻った。

 ちょっと待ったと言う前にビシムが扉を開けて中へと入る事になってしまった。


 中に入るとシルバと目が合ってしまった。まだ不機嫌そうな顔をしているような気がする。


「何用だ」


「未来視をしてもらいに来た。ビシムとユズのな」


 シルバは一瞬眉間に皺を寄せたが、直ぐに表情を戻した。


「未来視をしてどうする」


「どうするも無い。未来視で可能性を見てから、これからの立ち振る舞いの参考にするのだ。未来視にそれ以外の使い道は無いだろう」


「求める者のいない技なのだ。正しく扱わなければ混迷を呼ぶだけだ」


「だからシルバのところに来たのだ。ビシムとユズの二人でいいならここには来ていない。それとも四階の未来視機をビシムが操作してよかったのか? ここに住む者は皆アレを使っていいのだろう?」


 シルバは少し慌てている。


「確かにそうだが、ビシムが触る事は許可出来ない」


「ならばシルバが操作してくれ」


 ビシムが一方的に捲し立ててシルバはタジタジするばかりだ。

 結局3人で4階の未来視機なる物のある場所に向かう事になった。


 ―


 シルバビル四階には施錠された巨大な部屋が一つだけある。この扉の奥に未来視機があるのだろう。

 術具や便利道具などこの世界の装置を見て来たが、一フロアある装置という物には出会った事がない。

 この世界の術具なる物は小さくても高機能なのだ。私が首から下げているアダマスなど、その最たる例だ。

 フロア一つ分ともなると、相当な機能が搭載されているに違い無い。


 四階の開かずの扉がシルバの手によって開く。扉の先は樹木の虚の中のように木そのもののままとなっていた。

 これまでの直線的で制御された建物から一変して、ゴツゴツと歩き辛い床が続く。


 短い廊下の先に開けた空間があった。薄暗いので全体像は分からないが、一回までぶち抜きの吹き抜けスペースに巨大な何かがある。天井から生えて途中膨らみ、床と接合しているソレは、巨大な柱のように見える。


 シルバが何かを操作すると部屋に明かりが入り、一気に眩しく感じた。


 巨大な柱の正体は、恐らくこれが未来視機なのだろうと分かる。


 巨大な枯れ木の太い幹にガラス状の巨大な球体が埋め込まれている。

 特におかしな点は無いのだが、ガラス球に浮かぶ影がゆらゆらと揺れて、まるで巨大な瞳に見つめられているような気がした。

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