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仕事の終わりに14

 ビシムさんと一夜を共にしてしまったようだ。昨夜何があったのかは何も覚えていない。


 この状況、裸の二人か抱き合って眠っていたのだ。何かあったに違い無い。ただし、まだモリビトは裸で一緒に眠るのが当たり前という文化が存在している可能性が僅かに残されている。


 ビシムさんの細い指が私の首に触れたので、ビクッとなった。


「あの何をしているのでしょうか?」


 ビシムさんは目線だけをこちらに向けたので、上目遣いになった。しかしまあ究極で完璧な美少女だ。


「ユズの血の巡りを確認している。どうやらもう酔いは覚めたようだな」


 そう言えば酔った勢いでこうなったのだった。酔って後輩と帰った事はあったが、こんな事になった事は無かった。


「昨日、私酔っ払ってましたか?」


「そうだな。途中で眠ってしまいそうだったのでビシムが部屋まで連れてきた」


「それはどうもご迷惑おかけしました」


 体格としては私の方がビシムさんより大きい。どうやって運んだのだろうと思ったが、モリビトの術や術具といった力は相当なものだ。どうとでもなるのだろう。


「いや、いいんだ。ビシムがそうしたかったから」


 ビシムさんが私に並々ならぬ好意を寄せている事はよく分かる。昨日の事は夢では無いようだ。


「そう言えば私達二人ともどうして裸なんでしょうか?」


 これはある種の核心を突く質問だ。


「酔った場合、血の巡りが悪いと生命に悪影響があるのでビシムが脱がせた。ユズの服は締め付けが強い。場合によっては吐瀉物で窒息する事もあるのでビシムも朝まで一緒に居ようと思った。後、ビシムは裸じゃないと眠れないのだ」


 なんか予想外の答えだった。単純に心配してくれていたようだ。


「わざわざありがとうございます。それで、その失礼な質問なんですが、ビシムさんは私に好意があった上で一晩一緒にいた訳ですよね。その、どうにかしてやろうとか思わなかったんですか?」


 私の失礼な質問にビシムさんは真剣な眼差しだ。


「肉欲に駆られて快楽を欲する事をビシムは否定しない。ビシムにそんな気がないかと言うと嘘になる。ただ、生殖とは二人の強い意志によってなされるべきだ。前後不覚の相手に一方的にするのは間違っている。ユズがいいと言うのであればこれからしてもいいのだぞ?」


 ビシムさんの指が私の首から頬へと回る。


「えと、そうですね。遠慮しときます」


 私の答えを聞いてビシムさんはシュンとしている。


「ユズの気持ちがそうならば仕方ない。それと、さんを付けて呼ばれるのは好きでは無い。ビシムと呼んでくれ」


 昨日と印象が変わった気がした。性に奔放な自信満々キャラかと思ったら、以外と真面目で面白い人だなと思った。


「はい分かりました。ビシム」


「そうか良かった。では朝食としよう。ブランのところへ行こうではないか」


 そう言うとビシムは私をお姫様抱っこ状況で持ち上げると、そのまま扉の方へ移動しだした。


「ビシム! 服を着てないです。それに身支度もまだです」


「ふむ。服など不要と思っているが、確かにブランのところは店だったな。ならば必要か」


 ビシムはふわりと私の足を床につけてくれた。


 ―


 ブランさんの店は昨日と同じ位置にあった。シルバビル4階から渡り廊下が伸びており、その先には丸い扉がある。


 ビシムが店と言っていた通り確かに客が入っていた。揃いの白い服を着た男女の一団が食事をしている。どうやらモリビトではないようだ。


 私とビシムは丸いテーブル席に着いて、謎の伝声管のような突起からブランさんに注文を伝えた。


 別テーブルの客が気になる。ここは空の上だから何かで飛んで来るか、シルバのような転移術で来る他ないのだ。客はどこからどうやって来たのだろうか。


「客が気になるか? あれは恐らく吸血鬼の一団だろう。モリビトでここを利用するのはビシムとシルバくらいだ。逆に外の者からしたら、ここしか利用出来る飲食店は無いのだ」


 吸血鬼というワードが気になってビシムの話が半分くらいしか入ってこない。

 吸血鬼と言うくらいだから血を飲んでいるのかと思ったら、普通っぽい食事をしている。顔色は確かに悪い感じだが、身体的な特徴で言うと私のような一般人と大して変わらない。


「吸血鬼なのに食事に血は必要ないんでしょうか?」


「血鬼術を使用しなければ血が必要になる事は無い。法国で血鬼術を使う吸血鬼は居ないだろう」


 何か条件付きでのみ血が必要になるようだ。私の知っている吸血鬼とは大分違う。


 まだ若干ぼんやりした頭で吸血鬼の事を考えていると、料理の皿を乗せた小さなテーブルがこちらに近寄ってきた。


「なんですか?これ?」


「義枝機の一種だ。ブランが料理を運ばせる為に作ったそうだ。法国では珍しくは無い事だな」


 どんどんと新しい情報が出てくる。そう考えると、シルバと二人だけだった頃は相当に情報規制されていたのだと分かる。


「ロボットみたいなものなんですかね。これ料理は勝手に取っていいんでしょうか?」


 ビシムが頷くので義枝機から料理の乗った皿を取ると、キッチンの方へ自動で戻って行った。


「さあ、食べるとしよう。ビシムもユズの食事に合わせてみた」


 二つ来た皿にはそれぞれにハンバーガーと飲み物が乗っていた。ビシムのバーガーの中身が赤いのは、好みが激辛系だからだ。


 ビシムは私を真似てバーガーを素手で食べている。まあ、法国名物の白樹果は素手でそのまま食べるのが基本なので、所作としては抵抗無いようだ。


「ご馳走様でした」


「なかなか、次世界料理も良いな。美味かったぞ。ビシムもブランの言う食事理論には部分的に賛成なのだ。本能の指し示す方向と種の変化の道は近しい。食欲を栄養補給で済ますより、食事とする方がより本能的であると言う事は理解出来る」


 モリビトは結構複雑な事を考えながら生きてる種なのだと思った。


 店の中が混んできたが、客の中にシルバを見つける事は出来なかった。


「そう言えばお店に食事の代金を支払わないと。あ、昨日の代金も払ってない…」


「対価に通貨を支払うのは文明界の理屈だ。法国のほぼ全ての物は無償であり、ここも食事の感想さえ伝えれば何度でも利用出来るぞ」


 お金という対価無しでこの国の経済がどう回っているのか分からないが、無一文の私には助かる。ただし、後でとんでもない対価を払わされるのでは無いかという漠然とした不安は付き纏う。


 とりあえず食事の感想をテーブルの伝声管からブランに伝えていると、シルバからの呼び出しが入った。

 いつものシルバの部屋に来るようにとの事だ。シルバはあの部屋をあまり出ない。出れないという感じでは無く、なんとなく自ら出ないという意志を感じる。


「シルバのところへ行くのか? ならばビシムも行く。ちょうど一つ用事もあるしな」


 どうやらビシムも来るようだ。一緒に行っていいものか分からないが、ビシムは来るというし私よりビシムの方がシルバと付き合いが長いだろうから、勝手知ったるなのだろう。


 シルバの部屋に到着すると、ビシムを見たシルバは眉間に皺を寄せた。


「ビシムよ。まだ居たのか。我からの用事は済んだ」


「確かにシルバからの用は済んだな。しかし、ビシムも一つ用が出来たのだ。ビシムはこれからここに住む事にした。部屋は幾つも空いているのだ異論は無いな?」


 突然のビシムの発言に場は凍りついた。

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