孤月終天8
私は追加装甲の中でモニターを見ている。映し出されているのは荷車の幌の入り口だ。カーテンのような布があるので中の様子を見る事は出来ない。
「中を検めるぞ」
シルバの声がするが映像に姿が無いのはシルバがこれを撮影しているからだ。
シルバが幌の布を捲ると、狭い荷台の奥に居る人物と目が合ったような気がした。実際に奥の人物は何も見ていない、それは人形のようにただ座して在るだけで、生気はまるで感じられ無かった。
既に生き絶えた人物は女性のようで、頭に特徴的な筒形の帽子を被っており、耳には大きな石のついたイヤリングをしていた。白い服、いや左肩と胸からしたは血で染まった服を着ており、絵画のように座り姿で固まっていた。
「これは斬られている? という事は剣星がやったという事なのかな」
平静を装って状況分析を語ったが、明確な人の死を見て怯えている。全身の震えが止まらない。
「確かに左肩から真っ直ぐ斬り込まれおり、心臓が両断されている。刃物による殺害で間違い無いが、そうすると妙だな。この傷を入れるにはかなりの長物を振り下ろす必要があるが、荷車の幌は全く斬られていない。どうやって斬ったのか全く分からん」
謎の斬撃による殺害という事が犯人を剣星に近づける。しかし、謎なのは剣星と予知者は味方同士なのではという事だ。何故このタイミングで剣星は予知者を斬ったのか不明だ。いや、まだこの人が予知者と決まった訳では無い。
「この人が予知者か確認するから、ちょっと待って」
私は予知者に会って指示を貰ったという吸血鬼に確認する事にした。吸血鬼を留めているシズキに予知者の似顔絵を送り、同じ人物か確認するのだ。
吸血鬼に見せるのが実映像では無く似顔絵なのは、ちょっとした仕込みをしているからだ。因みに似顔絵制作の技術は前魔王との漫画制作法から流用している。
シズキからこの人物が予知者で間違い無いという回答が返って来た。
ここで似顔絵の仕込みを使う。吸血鬼には言っている事を信用していないというニュアンスで本当にこの人で間違い無いのか聞き返してもらった。
シズキからの連絡で吸血鬼達は、この人物で間違い無いが、紬輪の帽子と耀石の耳飾りをしていたと追加情報を得た。これは、私が似顔絵から帽子とイヤリングを敢えて省いておいたのだ。吸血鬼からの証言に信ぴょう性があるのか確認したかった。
吸血鬼は私の省いた情報を口にした。つまり予知は少なくともこの人から吸血鬼に伝わったのだ。
「ユズカ、何か分かったか?」
「この人から吸血鬼に予知が伝わったのは間違い無いよ。ただし、この人が予知をしたのかどうかはまだ分からない」
「予知者か分からないか。しかし、この者が高位術の使用者である事は間違いないようだ。かなり希薄になっているが、転移術を使用した痕跡がある。何処に何を転移させたのか分からんが、個人で転移を展開した事は間違い無い」
予知では無く転移。ますます分からなくなって来た。転移したのは剣星?そうなると斬られてから絶命までに剣星を転移させた事になる。そんな事が出来るのだろうか。それに予知が可能なら剣星に斬られる事も察知出来たはず。何にせよ情報が少な過ぎる。
何であれ、私達は死体を発見してしまった。この国のやり方に従って対応しなくてはならない。
―――
色々と対応して眠って起きらた次の日の昼だった。
まずは吸血鬼についてだが、予知者が死んだ事を伝えたら、あちらから停戦を申し出て来た。あちらの指揮系統は明らかにされ無かったが、吸血鬼としても私達、特にシズキを始末する事は本意では無いそうだ。
予知者が居なくなった今となっては、命令の出所が無くなったので、吸血鬼も撤退したいそうだ。剣星の所在については知らないそうだ。シズキが強めに尋問したので間違い無いのだとか。
予知者の死体については、吸血鬼が対処する事になった。シルバはしっかりと現場の情報を収集したので、後はお任せする事にした。今回来た吸血鬼は月光国の上の方に所属する人達なので、死体への行政的対処はお手のものだそうだ。
死体回収の際に吸血鬼とオリガは出会ったそうだが、オリガは吸血鬼に興味を示さなかったそうだ。
「血を吸っていない吸血鬼に興味ありません」
オリガはポツリとそう言ったらしい。
今回来たのは吸血鬼では無く血鬼であり、吸血は不用な存在だ。オリガが探す血を吸った吸血鬼というのが何処に居るのか分からないし、まだお目にかかってもいない。吸血鬼の社会はかなり複雑なようだ。
結局、この鉱山の町への滞在は継続される事になった。剣星の居場所も結局は分からないままだし、吸血鬼自治区は今敵対している武国勢力らしきところからも攻めずらしいようなので、時間待ちするには丁度良いのだ。政府系の吸血鬼とも停戦となったので、安全度は今のところ高いと言える。
剣星の同行に気を付けつつという条件付きだが、時間潰し状態なので、昼まで寝ていた。
シルバは国外に出る為の転移許可を引き続き対応中で、ルドルとオリガは訓練と言って出て行ってしまった。シズキは、何故か私に伝言を残してどこかへ行ってしまっている。
「日の落ちる頃にここで待つにゃ」
そう書かれた紙が私宛に残されていた。
――
シズキからこの手の誘いをされるのは何度目か。何故かシズキから私の貞操が狙われており、こういう誘いのときは大体そっち関連だ。
なんやかんやでシズキには世話になってはいる。何考えているか分からないところはあるし、倫理観も全然違うので怖いところもあるが、何となく趣向が合うというか、一緒に居ても気疲れしない感じはある。だから、この手の誘いは無視せずに応えるようにしているのだ。
シズキの待つ場所は、街道沿いの借り屋だ。私達が今5人で借りているところは鉱山労働者向けで山側に近い場所にあり全体的にボロいが、街道側の借り屋は商売人や役人向けなので、周りが静かで建物も綺麗でその分お高い。
欲国のヤクトでもこんなの借りていたなと思い出して石積みの借り屋の扉を開いた。
暖炉も無いのに部屋の中が暖かいのは謎だったが、建物自体に煙突があったので、何処かに炉があり、そこで温められた空気が部屋を満たす構造になっているようだ。
部屋は広めのワンルームという感じだが、結構でかいベッドがドンと置いてあった。そういう目的用の借り屋である事は明らかだった。
「ユズカはにゃーの誘いに応えると思ったのにゃ」
でかいベッドに腰掛けるシズキがそう語りかけて来た。
「だって真剣な話なんでしょ。そういうのには応える事にしてからね」
扉を閉めて部屋に入る。部屋の中に椅子を見つけたのでそれに座った。
「何か飲むかにゃ」
シズキはベッドから降りて、床に設置された小さな扉のような物を開くと、中から瓶を何本か取り出して小さなテーブルに置いた。瓶は冷えている事を考えると冷蔵庫的な設備があるという事だ。こういうのを見る度に結構文明が進んでいるなと思う。
この借り屋のライトも謎光源の石だし、場合によっては私の故郷より進んでいる物もある感じだ。
「水ある?」
「あるにゃ」
シズキはそう言ってグラスに水を注いでくれた。
「それで、今回はどんな感じ?」
私は冷えた水を飲みながら質問した。
「今回は単純にゃ。これをにゃーの股に突っ込んでほしいのにゃ」
そう言って、シズキはテーブルに明らかに大人のおもちゃと分かる物を置いた。そしてそれを見た私は飲んでいた水を吹き出していた。




