表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/129

孤月終天7

「では、にゃーは戦ってくるのにゃ。予知の使用と剣星の動きだけ見ておいてくれればいいからにゃ。シルバのじーさんにも伝えておくのにゃ」


 シズキはそう言って切り立った崖のある方へと行ってしまった。


 ◇◇◆


 にゃーの命がかかっているはずなのに、そんな気は全くしなかった。誰かに命を預けた事はこれまで無かったが、今のこれがそうなのかと思っている。

 誰かと誰かの為に役割に没頭する。それが自己の保存という、最も優先してきた事を薄くしてしまう。危機感は無い。何故かどうせ助かると思ってしまう。ならば自己の保存に割いていた思考の割合が今やるべき事に塗り潰されていく。


 吸血鬼はどう来る?未来を知り、これからにゃーの出す技は知られている。ならば全力で行く。血鬼術の間に合わない速度で命を取りに行く。それでも相手はどうせ死なない。それでも考えて攻める。少しでも当たるならどう壊すのがいいのか、骨の破壊は再生に時間がかかるだろう。髄の破壊は判断や動作を鈍らせるだろう。どうすれば、掠めただけで相手の内部を破壊出来るのか、そんな考えが延々と湧き上がってくる。


 吸血鬼の匂いがしてきた。数にして10人だ。恐らくは血鬼という1人は頭をやる奴がいる集団だろう。3人ずつ攻めてきて交代しながら戦うつもりなのだろう。相手の頭を潰さないと延々と戦う羽目になるが、相手もそうはさせないだろう。頭を狙うにゃーを集団で仕留めるつもりだ。

 いい、分かりやすい戦いだ。にゃーが無理を通して相手の頭を取るか、相手がにゃーを嵌め殺すかのどちらかだ。しかも相手は予知でにゃーのやろうとしている事を知っている。


 来る。崖の途中の不安定な場所で攻めて来た。予想通り3人同時だ。

 術具の毛で作った頑丈で極細の長い毛に重しを付けて鞭の様に振る。これは目視の難しいよく切れる刃物になる。

 相手の死角から見えない刃を放ったが、簡単に躱される。やはり、予知でこの攻撃を知っているのだ。だが、予知で知っていても実際にその通りにするのはこいつらだ。果たしてどこまで予定通りに動けるのか見ものだ。それにこいつらは新たに予知をする事は出来ない。誰からか聞いた結果通りに動いているのだ。ならば、何処かで間違うかもしれない。自らの手に無い予知なんて、どこまでも信用出来るものでは無いのだ。


 躱された見えない刃の軌道を変えて崖の岩を何個か切り、落石を発生させる。不規則に降る岩の雨は回避が困難だろう。そう思っていたが、相手は崩れる場所を知っているように崖壁を走り抜けながらこちらへと距離を詰めて来る。

 相手の身体能力はかなりのものなので、血鬼術による強化は既に行っているのだろう。血の匂いもいっそう濃くなっている。

 この3人に苦戦する訳にはいかない。道を開けさせる為にも、回避不能な攻撃を出すしかない。

 先程放った見えない刃を今度は無数に作って網の様に編み放つ。これで躱わして抜けて来る事は出来ない。後退しか無いのだ。刃の網を前に相手は左右に飛び退く。

 正面に出来た道を全力で進む。そしてこれが罠である事は分かっているのだ。後方から追われながら前方の敵主力と戦わなければならない。敵は全てを躱わし攻撃は当たらないので、数を減らす事も出来ない。それでも前進する。


 敵の頭は匂いで分かる。明らかに他のとは血の匂いが違うのだ。匂いを追えば谷底の逃げ場のない場所へと誘いこまれた。後ろに3人、前に3人でさらに頭の守りに離れた場所に3人居る。

 かなり危機的な状況だ。逃れるには空を飛ぶ以外に無いだろう。だから飛ぶのだ。当たり前のように飛ぶユズカを見て、にゃーには出来ないのかと考えた結果、飛ぶに等しい事は出来るに至った。


 弾を発射する武器のように、にゃーが弾になれば飛ぶ事が出来る。完全に空に上がってしまっては制御出来ないが、こんな壁のある谷底ならば、毛を伸ばして引っ張れば空中での方向転換は可能になる。そう思い。術具の力でにゃーの体を空中に射出した。

 本当に弾のような速さで射出すれば、例え予知で知っている相手であっても、半信半疑で初動が鈍るだろうというのは予想通りだった。更に空中では毛と壁を使って高速転換する事で、奴らの視界から逃れる事に成功したのだ。

 問題は射出の勢いを限界まで強くしたので、にゃーの頑丈な体でも無傷という訳にはいかなかった。高速転換で掛かる四肢への負荷で関節が悲鳴をあげていた。しかも、予知で狙いは知られているのだ。敵の守りは固いままだ。

 空中を勢いよく投げた鞠のように跳ね回りながら、敵の頭の場所まで移動する。相手も頭が死ねば血鬼術の解除が出来なくなり、何人かは犠牲になる。必死の形相で追って来ていた。

 しかし、予知がある事で戦い本来の緊張感を欠いた奴らには、このにゃーの動きを捕らえる事は出来ない。一度狂ってしまった予知は、もはや毒にしかならないのだ。


 敵の頭に勢いのまま突撃し、首を掴んで壁に縫い止めた。そうしてここで、にゃーは本来はしない行動をしてみた。


「動くにゃ。誰か1人でも動いたらこいつを殺すにゃ」


 にゃーは何故か敵の頭を人質に取った。なんとなく思ったのだ。剣星が留めを刺しに攻撃するならこの辺りなんじゃないかと。この番狂わせすら予知していて、吸血鬼は囮でここで来るのではと思っていたが、いっこうに何も起こらない。


 場には一瞬の静寂があった。


「言葉を発する事は可能か?」


 髪の長い吸血鬼が静寂を破って言葉を発した。


「いいにゃ。お前1人なら許可するにゃ」


「我らの血主の命を取ればそちらの勝ちだ。しかし、そうしないという事は、交渉の余地があるという事なのだろうか?」


「そうにゃね。剣星と予知者の居場所を話せば、生かしてやってもいいにゃ」


 吸血鬼と剣星なんかを動かしている勢力との関係性にもよるが、場合によっては裏切るかもしれない。そうなれば本当の敵の情報が手に入る可能性もある。


「剣星は知らないが、予知者の居場所には心当たりがある。だが、予知者なのだから既にこの事を知り逃げている事だろう。それでもよければ居場所を教える」


「言ってみるのにゃ。にゃーには嘘かどうか分かる力があるのにゃ」


「南街道にある行商人の野営地に居る。荷を運ぶ獣車の一つに潜んでいるのだ。目印に荷台の裏に逆月の印が彫ってある」


 正直、吸血鬼の匂いはあんまり嗅ぎなれていないので、嘘かどうかはよく分からないが、にゃーには直ぐに確認出来る手段がある。

 ユズカに連絡して吸血鬼の言った事が本当か確認してもらえばいいのだ。恐らくあっちには剣星も居るだろうが、ユズカとシルバのじーさんならばどうにでもなるだろう。


「分かったにゃ。その情報の真偽を確認するまで、お前達は待つのにゃ」


 ◆◇◇


 シズキから連絡を受けたので、シルバ達に様子を見てもらう事にした。まだシズキの事を剣星が狙っている可能性は高い。私はこの場から動けないので、シルバから現場の映像と音声を送ってもらう事にした。


 ――


 シルバ達は直ぐに行商人の野営地を特定し現場へと到達した。野営地は夕食時でのどかな空気がしていそうだった。

 目的の荷馬車も直ぐに発見する事が出来た。反撃や誰か動く気配は無い。そうして同行しているオリガが一言ぽつりと言葉を放った。


「血の匂いがします。誰かが死んでいますね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ