孤月終天6
「とりあえず、にゃーがなんとかしてくるのにゃ」
そう言ってシズキは借り家を出ようとした。
「ちょっと待って。なんとかって、まさか外から来た吸血鬼っぽい人達と戦うって事?」
「戦うかどうかはあっちの出方次第にゃ」
「そんな事言って、先制攻撃するでしょシズキは。出方次第ならまだ待つ必要があるよね」
シズキはやれやれみたいな顔をして、こちらへと振り返った。
「にゃーには自分の命を守る権利があるのにゃ。それは誰にも止められないのにゃ」
「命を守るなら逃げればいいんじゃない?」
「あっちは未来が見えるのにゃ。なら逃げても必ず追いつかれるのにゃ。その上であっちは今回吸血鬼を寄越してきたのにゃ。つまり剣星はここに来れないという事にゃ。それならば、来る吸血鬼を殺し続ければ時間が稼げるのにゃ」
「それは…、そうかもだけど、それも予知されているなら、これには罠があるよ。シズキをどうにか出来る策があるんだよ」
「そうかもにゃ。でもあっちの予知は完全じゃないにゃ。ユズカが来る前までは、あっちにはにゃーの最期が見えていたのにゃ。でも剣星でにゃーを仕留める予知は外れたのにゃ。恐らくユズカの行動は予知を乱すのにゃ。これは前にオスロ達を助けたときも同じだったのにゃ。今回はやつら吸血鬼で様子見をしているのにゃ」
「じゃあ、私も行かないとだよね」
「それは迷惑にゃ。命がかかっているのに、誰かに任せるのはにゃーのやり方と違うのにゃ。にゃーの命はにゃーのものにゃ」
「でも、それはあっちの予知に無策で飛び込む事になるよ。命が大事なら利用出来る物は利用しないと、だから私を利用しなよ。その為に私をこの国に呼んだんでしょ」
シズキは首のフサフサした毛をガシガシと掻き、首をぐるぐると回した。
「にゃーは昔、同門の奴らに命を狙われていて、そいつらは1人ずつにゃーに挑んだのにゃ。にゃーは憎くて殺したいなら全員で来ればいいのにゃと思いながら、1人また1人殺したのにゃ。今、なんとなくそいつらの気持ちが分かるのにゃ。ただ勝ってただ殺すだけでは足りない事もあるのにゃね」
「でも、それは今ではないよ。誰かに頼るのは弱さじゃない、強さだよ。自分ではない誰かを信じるのは勇気が必要。私はここに居る人達を信じている。シズキを信用しているんだよ。だからシズキも私を信じて」
シズキは頭を掻いていた。
「信じて生きて、その先に何があるのにゃ」
煮え切らないシズキにだんだんイライラしてきた。
「そんなのは知らないよ! 生き残って考えればいいじゃない! 私の居たところでは、何があってもどんなに苦しくても、最後まで立ってた奴が最強なんだよ」
「何にゃ、それ!」
そう言ってシズキは笑い始めた。
「負けても、折れても、また立ち上がる奴が強いって事。1人で立ち上がれなければ、誰かを頼る。そこまでしてでも立つのが最強なだけだよ」
笑い終わったシズキはジッと私の目を見てきた。
「その最強は、なかなか難しそうなのにゃ」
「そうだよ。自分の主義や主張も時には曲げるんだよ」
「そうやって、にゃーの主義も曲げろって事にゃ」
「そう」
シズキはその場で円をかくようにトコトコと歩いて回った。
「分かったのにゃ。そっちの方が面白そうにゃ」
―
シズキを説得して、偵察という名目で私とシズキはとある場所へと移動を開始した。
この町は北側に鉱山のある険しい山脈があり、南には東西に抜ける街道が通っている。町は鉱山から街道に向かって広がっており、南北で町の役割も別れている。
北は鉱山からの線路や鉱石保管ようの倉庫、そこら鉱石加工の工房などが軒を連ねている。南は鉱石に関する商業や、鉱山労働者の住居などがある。私の借り家も南にあり、基本的に北には用が無い。
私とシズキは、シズキが当初吸血鬼を迎え撃つ為に行こうとしていた北の鉱山地帯に向かっている。
私の追加装甲をステルスモードにして、シズキをバックパックに格納した状態で移動している。
「奴ら、街道から入って南には見向きもせずに、こっちに向かっているのにゃ」
「という事は、予知通りに動いているって訳ね」
「ユズカは奴らの予知がどういう物か分かっているのかにゃ?」
「具体的には分からないけど、居場所が直ぐに分かってしまうという事は、未来の像が目視出来ているんじゃないかな。そしてその見ている像というのは、特定の人物に絞る事が出来る。今は丁度、シズキの未来像を見ているのかな」
「なるほどにゃ。それなら、にゃーが何回逃げても居場所が知れてしまうのは納得にゃ。まあ、予知の理屈が分かっても防げないのが厄介にゃ。予知者をにゃーが狙おうにも、相手は予知で逃げてしまうのにゃ。その隙に刺客も来るから、にゃーはいつも後手にゃ」
「そんなの対処するの無理じゃない?」
「ところが、今はそうでも無いかもなのにゃ。一つは予知を乱すユズカが居る事。もう一つは刺客と予知者が別々という事にゃ」
「それは確かなの?剣星にも予知能力は無い?」
「確かなのにゃ。剣星からは何度か逃げる事が出来たのにゃ。剣星に予知があるなら、隙間無く攻めてこれるはずにゃ。これは体感にゃけど、予知が切れる時間がある気がしたにゃ。恐らく剣星が予知者に情報を貰っている時間にゃ。まあでも、逃げてもその後に先回り出来るから、向こうも深追いはしてこないのにゃ。確実に追い詰められている怖さがあったのにゃ」
「そうだとするなら、予知者を私がどうにかすればいいって事ね」
「そうにゃ。ただし、予知者はにゃーの認識範囲内には絶対に入らないのにゃ。何処にいるかも、正体も分からないのにゃ」
「それでも調べる手段はあるって事?」
「そうにゃ。予知者は当然、自分の安全をまずは予知しているのにゃ。でも、刺客に指示するにはある程度近くに居る必要があるのにゃ。近くに居るなら探せるのにゃ。どうやって探すかはシルバのじーさんが前に言っていた通り、予知術の使用自体を探知すればいいのにゃ。問題はそいつがいつ次の予知をするかだにゃ」
「それも目星が付いている訳ね」
「今回のにゃーへの襲撃が失敗した場合、刺客は当然次の指示を予知者に聞きに行くのにゃ。それをユズカが追って、ユズカが予知者を叩けばこっちの勝ちにゃ」
「なるほどって、私の負担が大分大きく無い? あっちには剣星も居るんでしょ」
「頼れって言ったのはユズカなのにゃ。だからにゃーはいっぱい頼ってみる事にしたのにゃ」
がっつり頼られる事になってしまった。なんか感情に任せて義を見せたら、とんでもない事になった感はある。
「まあ、やれるだけの事はやるけどさ」
「にゃーもこれから敵の罠に飛び込んで、予知とは違う結果にしないといけないのにゃ。恐らく吸血鬼程度じゃにゃーは止めらないから、必ず剣星が仕留めに来るはずにゃ。吸血鬼しかこれないと見せかけて、奴が来るくらいの事はするのにゃ。剣星の攻撃を防ぐのは任せたのにゃ」
「そこも結局、私が大変なんじゃない?」
「そんな事は、まあ、あるかにゃ。色々とユズカにお任せするのにゃ」




