孤月終天5
鉱山の町の夜は人の往来がかなりある。昼夜を問わず止められない系の仕事なのか、仕事に行く人、これから帰る人が交錯している。飲食店も営業しているところが多く、決して大きな町では無いのだが
賑わっているように感じる。
「しっかり監視されているのにゃ」
マントのフードまで被ったシズキが乾いた鼻息を吐きながら、小さな声で伝えて来た。
「ま、別にいんじゃない。逃げた訳でもないし」
私達の目的はシズキを追って来る武国の何者から逃れる事ではあるが、この国から出るには時間がかかる。安全に時間を潰せる場所を求めているのだから、この町で問題行動は起こしたくない。
目的地の第三坑道に向かうと人の往来は少なくなった。今日は稼働していないのか、廃坑となっているのか分からないが、人気も無く灯りも少ない。
いざ坑道付近になると本格的に暗いが、目印のように幾つかの灯りが点いている。
坑道の中に繋がる灯りの道標を辿って歩みを進める。鉱石を運び出す為に道は整備されており、レールも敷かれている。真っ直ぐ掘られた坑道を進むと少し広い空間に出た。坑道が枝分かれしている場所なので、何らかの合流地点なのだろう。
「止まれ」
僅かな灯りで全容の分からない空間の奥からそう言われ足を止めた。声は反響していて、何処からしゃべっているのか簡単には特定出来ない。
「手紙にあった通り5人で来ました」
「新たに人が来るなど聞いていない。どういう事だ?」
「故あって別の国から最近こちらにやって来ました」
「何!? という事は法国の手引きか? 吸血鬼は1人のようだが、4人も付き添いとは何事だ?」
「吸血鬼の技が使えるのですよ。ならば人数も必要でしょう? あてくし達はこうして馳せ参じたのですから、そちらも顔を見せて頂けませんかぁ?」
坑道内の反響を無視したルドルの大事が響き渡る。
「大きな声を出すな。分かった待っていろ」
そう声がした後、闇の中から小柄な男が現れた。全ての髪と髭が繋がっている程顔面の毛量があり、大きなギョロギョロした目が太い眉の奥からこちらを見ていた。バンパイアというよりはドワーフという印象だ。そんな事を考えていると、ルドルが一歩踏み込んで、小柄な男の首根っこを掴んで吊り上げてから地面に叩き付けた。
「はあ!!!」
「ぐふぉ!? な、何をする!!?」
「失礼! こうしないとあなたの命が危ないものでね。そしてオリガ!見ましたか? この国の吸血鬼は使えない者が多いのですよ!」
私としても何してんの、何やっちゃってくれてんのという感じだが、まさかこれがルドルの言っていたオリガを抑える妙案なのだろうか。そしてオリガは特に動いていない。これはルドルの策が上手くいっている?
「血を吸った事の無い吸血鬼など、吸血鬼ではありません」
なんかオリガは分かってましたよという感じでおとなしい。
「オリガは光の吸血鬼を敵視しておりましてねぇ。こちらは違いますよという事がお見せしたかったのです」
「そういう事か…。ならばもういいだろ。はなせ!」
ルドルは髭の吸血鬼を解放して、何事も無かったように笑顔でその場に立っていた。
「私達の事情はこんな感じなんですが、分かってもらえました?」
「何も分からん事が分かったよ。だがな、俺達は吸血鬼だからって町や国から追い出すような事はしない。おとなしくしているなら居ていいが、何かしたら出て行ってもらう。それだけ覚えておけよ!」
そう行って吸血鬼は背中を見せて、この場を去ろうとした。
「あの、許可証とかそういうのは無いんですか?」
「そんなもんは無い。もう棲家を借りたんだろ。なら、それがこの町に居ていいって事よ」
吸血鬼はそう言って闇に消えた。
「なんか吸血鬼とこの国には複雑な事情があるみたいだね」
そう言っておかないとオリガがあの吸血鬼を追って殺してしまう。ふとそんな気がして、私は心の中を言葉にしてしまった。
「殺したい吸血鬼は見れば分かります」
オリガはそう言うと来た道を戻るように1人歩きだした。
―――
借り家で一晩を明かし翌日となったが、月光国から転移する許可はまだおりない。待つ以外にやる事の無い私達は、とりあえず近所で売っていた食事を購入して時間を潰す事にした。
食事の内容はイモかカボチャかのトロみのある野菜をドロドロに溶かしたスープと、石のように固いパンだった。私はこの手の食事のシステムを知っている。固いパンはスープに浸して柔らかくしてから食べるものなのだ。ほーら塩気がやや強いパンにスープが染みていい感じの食感と味になっている。これが正解なのだ。
しかし、私以外の人は皆、パンは普通の柔らかさだよと言わんばかりに、サクサク食べ進めている。よく考えたら、私以外は結構なパワー系ばかりだった。
「老人みたいな食べ方ですね」
オリガのこの粗暴な丁寧語が絶妙に腹立つ。若そうな見た目だが、吸血鬼なんだから絶対私より年上だろ。そんな人に老人呼ばわりされたくない。
「か弱い一般人には固すぎるパンだと思うけど?」
「ユズカのか弱いは擬態なのにゃ。これで竜より強いんだから、あの卑劣で有名な黄金竜より竜してるのにゃ」
なんか、シズキも参戦して私の旗色が悪いので、会話の方向性を変えさせて頂く。だいたい、こっちの竜は卑怯の象徴みたいな生き物なのかよ。どんな竜だよ。
「そんな不毛な話より、折角時間があるんですから、月光国と吸血鬼の関係を教えてもらえないですか?ルドルさん」
ルドルは自分に話を振られるとは思っていなかったのか、意外という顔を一瞬したが、またいつものマッチョスマイルに戻った。
「言えない事もありますが、あてくしの知る話せる限りの事でも良ければ、お話しましすよ!」
「いいですよ。私は今の状況を打開する起点がこの国の事情にあると思ってます。その辺り聞きたいです」
「月光国の事ですか。そうですね。まず話さねばならない事として、この国は実は二つの国が一つなっているのです。月国と光国の二つの国が合わさって月光国となっています。これは国土という意味合いより、民族が別れているというのが正しいでしょう」
なんとなく吸血鬼が一枚岩では無い気がしていた。法国に残る吸血鬼が居たり、月光国に住んだり、何か融和する事の出来ない大きな隔たりを感じてはいた。
「この町はどっちなんですか?」
「ここは月の吸血鬼の町ですね。この民族の大きな違いは、吸血鬼であるかそれとも血鬼であるかです」
血鬼、以前に話にだけは聞いていたが、吸血鬼だけが使用出来る血鬼術の使用制限が実質無いのが血鬼と認識している。血鬼術の使用によるリスクである元に戻れなくなるという現象をリカバリー出来る人が居て、その人中心にグループ活動しているのが血鬼だったはずだ。
「という事は、光の吸血鬼というのが血鬼って事ですか? でも、オリガは昨日、この町の吸血鬼は血を吸っていないと言っていたし、なんだかやっぱりややこしいですね」
私達の話を聞き専みたいな雰囲気で、薪ストーブの前で転がっていたシズキが急に立ち上がった。
「妙な奴らが町に入って来たのにゃ。吸血鬼っぽい匂いだけど、なんだか少し違うのにゃ」




