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孤月終天1

 関係性の終焉、完全なる拒絶、人生であまり無いが、それでも生じる事のある仕方ない事、それが起こっているように感じた。

 私とオリガの間にはこの先拒絶しか無いのだろうという予感がしていた。


 感情の分からないオリガが何をするのか、それを警戒していたが何も起きない。危険の察知と思考の加速が起こらない、そう考えていると、オリガの瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。

 その意外な行動に、私はどうしていいか分からなかった。何故泣くのか、泣いてどうなるのか。それが理解出来なかった。

 オリガは歯を食い縛って、拳を強く握り耐えていた。しかし、涙は止まらない。耐えがたい何かが溢れているようだった。


「ここは一つあてくしにお任せ頂けないでしょうか? そちらはお急ぎの様子、しかし吸血鬼がいなければ月光国には転移出来ない。ならば、転移に向けて行動しましょう。転移前には手続きの時間もあります。そこで事情を説明しますよ!」


 ルドル、妙なテンションの人ではあるが、話が出来ない感じではない。逆にオリガとは話が出来ない、話にならない、そんな感じだ。


「では、そちらの提案に乗るとしよう。行き先は法国だな?」


 ―


 法国に戻って来るのは久しぶりだが、外を出歩ける訳ではない。月光国への転移の為に、法国で手続きするので、見慣れ無い浮島に居る。

 転移は門と呼ばれる地点を経由すれば何処へでも、どんなに距離が離れていても、一瞬で行き放題だ。なので、当然、転移には規制があり、月光国はその代表例なのだそうだ。

 オリガは落ち着いている、ように見える。あれ程好き勝手に暴れて、自己の要求だけ語って、倒れて挙句泣いてと、とても安定した精神状態では無い気がする。


「手続きには時間がかかりますがぁ、大丈夫でしょう! ですので、この時間を使ってあてくしとこの子の説明をしておきますが、皆さんよろしいですかぁ?」


「いいだろう。それでその吸血鬼が月光国で虐殺をしなくなるのならば、なおのこと良いがな」


 シルバとルドルの関係性は少しピリリとしている。


「バルナ式操体術というのをお二人はご存知かしら? あてくしはその創始者なのでぇす!」


 私はシルバの方を見た。当然、知らないからである。


「我はよく知っている。闘技の高段者の殆どはバルナ式だったな。ユズはバルナ式を知らんのだが、補足は我がするから続けよ」


 バルナ式、闘技と来たから、格闘技の話なのだろうか。シルバが知っているようだし、まあ、話の主導はお任せする。


「闘技ではシルバ氏の牙城は崩せませんでしたなぁ。しかし、バルナ式は戦闘の技だけにあらずです。真なる目的は、肉体と生命樹の融合なのでぇす!」


「それで、吸血鬼の身体能力を調べている訳か。操血術に血鬼術は、身体操作を術理に委ねる事にあるのだから、バルナ式には良い検体だな」


 シルバの棘のある言葉に、ルドルはビシっと人差し指を空に向けて強調した。


「あてくしがあの子を利用しているのは事実でぇす! しかし、天賦の才という物から学ぶ事は大きいとは思いませんかぁ? あの子には間違いなく才があります。4年前にはバルナを知らなかった者が、今はあれ程なのでぇす! あてくしは思うのです。人の学びにこそ、参人思想の答えがあるのでは、とね!」


「それがあの吸血鬼に入れ込む理由か? 故に自由にさせていると」


「今のあの子には復讐と力への渇望しかないのでぇす! その一途さが今の結果を生んでおり、あてくしがあの子を利用する訳でもありますねぇ! ですが、行き詰まってもいるのでぇす。己の為にだけ使われる力には限界がある。この先を教える技はあてくしには無いのでぇす!」


「だから、我々に頼ろうというのか? 竜宮都市に来たのも、その為だったか」


 ルドルは腕を組んで大きく頷いた。


「そうでぇす! そして都合の良い事に、あてくし達が必要な場が出来てしまいましたねぇ!」


「仮に同意したとして、吸血鬼を抑える事は出来るのか?」


「自制を学ぶには良い場でしょう! それに、まだ復讐には足りないという事を理解するはずです。何故ならば、あの子の理解力は珠玉なのですから!」


「我々はそれをどう信じればいい? まさかこれまでの所作で判断しろと言うのでは無いだろうな?」


 シルバの言葉を聞いて、ルドルはパンと手を打ち鳴らした。


「オリガ氏! こちらへ」


 呼ばれて、少し離れたところに居たオリガがやって来る。仏頂面は変わらずで、依然として機嫌が悪そうだ。


「なんですか」


 言葉は丁寧なのに、その粗暴ぶりは変わらない。まるで、丁寧語しか知らない野獣のようだ。


「竜宮都市に来て、最初にこの二人を攻撃しましたね。そこで、質問なのですが! 何故、あちらの女性を先に狙ったのですかぁ?」


 突然、話の矛先がこちらを向いてどきりとした。オリガがこちらを見てくる。座っている私を小さな体で見下ろして来る。

 まあ、でも私が狙われた理由は何となくわかる。何故なら一番私が弱いからだ。集団を攻める場合は、弱い奴を狙って数を減らすのが定石だろう。


「あの、逃女が一番厄介だからです。何度戦っても、何人倒してもアレの死体はそこにないでしょうから、そのうちこちらが倒されてしまう。そうなる前に、最初に狙いました。まあ、失敗しましたが」


 逃女というのは私の事だろうが、厄介というのはどういう事なのだろうか。


「どうです? 初めて見た相手にその読みをするとは、なかなか鋭いと思いませんか? あてくしも数日、あの町に居て情報を得てからならば同意です」


「ちょっと待って下さい。私は大した者ではなくて、弱いし賢くも無いですよ」


「あてくし、個だけの力の話をしているのではないのですよ! ユズカ氏には将の才があるという事です。しかも、自身さえも戦力で考えられる将だ。これは戦をする相手としては厄介ですねぇ!」


 なんという過大評価なのだ。間違っている。私は面白そうな事にいっちょ噛みたいだけの人間だし、命は惜しいタイプだ。ルドルとオリガの考えは間違っている。


「初めてでそこまで理解していたと? そしてその理解があるから、我々が同行するならば下手な動きはしないだろうと言いたい訳だな?」


 シルバも同意なんかい!そして、この流れで月光国に入った場合は、私にこの役割が求められているって事?


「そうです! あてくしとあの子だけで月光国に行くのは無謀でしたが、そちらのお二人が居れば安泰という事なのです!」


「ふむ。一考の余地はあるな」


 ねーよ!とツッコミたいところだが、月光国に居るシズキの状況が気になる。それに、私は別の打算を既にしているのだ。オリガの止めをシルバとルドルに全振りして、私はシズキをさっさと捜索して帰るのだ。私に頼ろうなんて甘すぎるのだ。私こそが周りに全力で頼っていくスタイルなのだから。


 ちょっと動揺した感じを出して、無言の肯定で話を進める事にした。なーに、月光国に行ってしまえば、こっちのものなのである。


 手続きは完了し、転移で別の景色の中に飛び込む。出た先は世界樹教の建物では無く、何処かの地下といった感じの場所だった。

 ルドルが地下通路のような暗い道を先導し、少しすると外に出た。

 空は晴れていたが、鋭い寒気が満ちており、一面が銀世界であった。

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