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魔王様はお終い20

 シズキから不穏な通信が入っていた。


 シズキは最近、基本的に写真しか送ってきていなかったのだ。

 通信覚えたての頃は文字も来ていたが、段々と面倒になっていったのか、食べ物の写真ばかり来るようになった。何か送りたいけどめんどくさいの最終形はどこの世界でも飯写真のみになるんだなーと思い。適当な相槌を打っていたら、最近は自撮りぽっい写真が来るようになった。

 当然のようにネットリテラシーなどという概念がシズキにある訳ないので、かなりアウトな下ネタ写真もちょいちょい混じっていた。うっかり油断して見ると吹き出しそうになるので、最近は一人になってから開封している。


 そんなシズキが文字で、しかも入力途中で送信しており、その後連絡がないし、こちらからの送信にも反応しない。そういうイタズラという線が無い訳では無いが、シズキの性質としてこの手のイタズラはしない気がする。

 というのも、シズキの関心は何故か私に向いているので、私の気を引く通信をしている気がする。これは自意識過剰という訳ではなく、私の反応が良かった送信内容に寄っていっているからなのだ。

 今回の送信は、私以外にも波及する内容なのだ。私が心配したらシルバに相談するだろうし、そうなるといつものシズキとは違い過ぎる。

 つまり、これは事を大きくして欲しいか、大きくなっても仕方ないという意志で送らせて来ているのだ。


 まあ、こんな事になってもいいように、通信機には位置情報を知らせる機能が存在している。シルバが一人でウミビトに会いに行った際に使用したアレである。

 シズキの通信機にも同じ機能があり、シズキはビシムから渡された毛みたいな術具で通信範囲を拡張してある。何か送信出来る範囲に居るという事は場所が分かるという事だ。


 今回の事を調べるにあたり、シルバに相談した。まずは勝手に一人で進めない約束を守る為と、もう一つはシズキの居る場所が本当に月光国なのか知る為だ。

 私はこっちの地理には全く詳しくないので、広域の国単位の位置関係などかなり適当にしか把握していない。月光国についても、水晶湖の北から東に跨って存在している国としか知らない。故にシルバに確認してもらう必要がある。


「シズキの通信機は月光国にある。首都であり、王の住む光宮のある都市モナク周辺に居る事は間違いない」


「という事はシズキの通信内容は正しい訳だ。あ、でも誰かに奪われて偽情報を送っている人が居るとも考えられるよね?」


「この通信を送るには、通信機とシズキの術具が近くに無いといけない。あの術具はシズキの毛髪といっしょになっているのだから、通信機だけ奪ってという事は無いだろう。シズキが身動き出来ないようにされ、シズキが持ったままの通信機を使っているという可能性はあるが、あのシズキが簡単に捕まるとも思え無い」


 確かにそうだ。シズキは簡単に捕縛出来ない。それに見知らぬ人が通信機を認識出来るかも怪しい。何故ならば、最近欲国の一部地域でのみ通信が可能なったばかりだし、何なら受信しか出来ないので、送信の概念を理解するには、相当な技術力が必要だ。


「という事は、間違いなくこの送信がされた時点ではシズキは月光国に居たという事だね」


「そうなるが、月光国にシズキを探しに行くのは少し時間が必要かもしれない。まず、モリビトや法国に関する者が、月光国に直接転移する事は禁じられている。特例があれば別だが、それもかなり難しいのだ」


 そう言うとシルバはオリガを介抱しているルドルの方を見た。


「もしかして、月光国に転移で入るには吸血鬼の付き添いが必要とか?」


「そうだ。この転移の制限は、モリビトと吸血鬼の間で取り決めた約定に定められているのだ」


「なんか、モリビトは吸血鬼には甘いよね」


「参人思想の延長とは言え、モリビトは興味から吸血鬼という種を生み出したのだ。モリビトが思う吸血鬼への負い目は、中々に重いのだ」


 モリビトは吸血鬼を保護しつつ、希望する者には棲家となる国を与えている。法国の外の吸血鬼は独立自治を希望しているようだし、モリビトはそれに逆らえないようだ。


「じゃあ、私が怒らせて、タイタスが完封したあの吸血鬼にお願いして、着いて来てもらう必要があるという事だね」


 完全に怒らせてしまった気がする。今の感じだと何をどう頼んでも断られそうだ。


「モリビトの術理で国境を越える事が禁止されているので、最も近い湖西の国に転移してから文明国の一般的な移動手段で移動し入国するしかない」


「という事は、アダマスの追加装甲による音速飛行による入国も無理みたいだね」


「強行すれば可能かもしれないが、我々の出国許可が確実に取り消される」


 かなりの八方塞がりだ。転移最強とか思っていたが、思いもよらない制限があった。


「モリビトの術理がだめなら、ヤマビトかウミビトはどう?」


「モリビトは月光国に対して過度な戦力で侵入する者を迎撃するとも取り決めているのだ。月光国に介入出来るのは、同じ文明段階の者達だけだ」


 これはもう、ダメ元で吸血鬼の人に相談して見る他に無いような気がしてきた。


「一旦、オリガさんに相談してみるよ。それが駄目なら、次点の最速な湖西に転移しかないよ」


 ―


 吸血鬼オリガの元へ行くと、そこにはルドルと大の字に倒れたオリガが居た。


「これはシルバ氏! あてくしどもにご用ですか?」


「少し用事があってな。オリガの意識はあるのか?」


「あたくしの負け姿を見にくるなんて、いい根性のジジイね」


 オリガは大の字状態からそのまま不自然に浮かび上がると、こちらを指差すポーズを取って直立した。


「我らからオリガに要求があるのだ」


「我らって事は、そっちの女もそうって事なのかしら?」


「そうです。実は月光国に急ぎ入る為に、オリガさんにも月光国に来てほしいんです。お礼は私が出来る範囲でやらせてもらいます」


 なんでもは出来ないが、出来る限りなら対応出来るかもしれない。


「いいですわよ。それにその小汚いお礼もいりませんわ。早くわたしくを月光国に連れて行きなさい」


 なんだか、二つ返事で回答が帰ってきた。謎の想定外だ。とは言え、当人がOKを出しているので、これに乗らない手は無い。


「では早速いきましょう」


「うーん、これは困った事になりましたよ!」


 ルドルだけ一人険しい表情になっていた。


「どうしたんですかルドルさん?」


「いえ、オリガさんは月光国に居る吸血鬼を全員殺して回るつもりなのでぇいす!」


 また、物騒な事を聞いてしまった。


「あなた方の薄汚れた依頼を一つだすなら、月光国に行ったわたくしの邪魔をしない事ね」


 そんな要求に応えられる訳が無い。月光国に殺人鬼を解き放つような事だ。


「では、私からしたお願いは無しでいいです。別の方法で月光国に入ります」


 私の言葉に、オリガの表情が消えた。

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