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魔王様はお終い19

 前魔王の想定していた思考加速システムは、一旦の完成を見た。

 仕組みについては良く分かっていないが、念話等に代表される精神の同期術がベースになっているそうだ。

 確かに念話になると、言語の壁が一切なくなり、普段のアダマス翻訳システムよりもスムーズな会話が可能になる。

 思考加速は、ウミビトとの精神同期を取る事によって、ウミビトの認識する時間の刻みが把握出来るようになるという仕組みだそうだ。ただし、ウミビト以外には持ち得ない感覚なので、複数人で平均化するという手段にならざるを得ないらしい。故に、思考加速対象一人に対して複数のウミビトが必要になるそうだ。

 因みに、加速に協力するウミビトが大変なのではという疑問があったが、一定の範囲内に居るだけで機能するようにシステム構築されているので、ただ居てもらうだけでいいそうだ。


 これで前魔王の要求は達せられたので、ヤマビトの定住は確定するだろう。

 ウミビトの定住者の数も増え、後はモリビトが住んでくれれば目的達成だ。


 前魔王が思考加速装置から出て来てこちらにやって来た。


「拙者の想定通りの成果が得られました。これで魔国でやり残した事のある者はこちらへ移住するでしょう。しかし、漫画を描くには手作業もあるので、まだ加速だけで進めるには難がありますな」


「手の代わりに高速思考に対応出来る装置を作れば解決じゃない? 完全に手の代わりじゃなくても、複数の装置に機能を分けて分業させればいいよ。私の知る漫画も、人が分業して描いている事が殆どだしね」


「なるほど。ユズカ氏の指摘はやはり的確ですね。なので一つ相談があるのですが、いいですかな?」


「まあ、出来る事ならいいけど?」


 前魔王がサッと手を差し出すと、床から椅子が生えてきた。時間のかかる話になるという事なのだろうか。まあ、聞いてみるしかないので、勧められるまま椅子に座った。


「実はユズカ氏の出来るを超えての願いなのですが、このまま拙者の漫画創作に協力し続けて頂けないですかな? 期日は拙者の、もっと言えばヤマビトの時が潰えるその時までという事です」


 突然の申し出に体が少し強張った。


「出来ない事を何故ここで言うんですか?」


「ユズカ氏が警戒するのも尤もです。しかし、こう考えて見るのはどうでしょうか。ユズカ氏の成さねばならない事を拙者が代わりにやるのです。拙者は大地の輪を最も使いこなすのですよ。ユズカ氏の目指すところは分かっているのです。拙者がやればより早く確実に済む事でしょう」


 正論で撃ち抜かれて、心臓の鼓動が早くなる。


「それは、そうとは言い切れないでしょ」


「ユズカ氏の力はモリビトの業によるところが大きいですな。それと同等以上の力がある拙者の方が役割に相応しいと思いませんか? 拙者が早く済ませてしまい、後は漫画を描く事に終始するのです。素晴らしいと思いませんかな?」


「私にしか決められない事もあったよ」


「それで言えば、拙者は長きに渡り魔国を総てきました。絶望を内包したヤマビトは、容易に破滅思考に偏ります。それを制し知略と謀略で国を欲に沈めて、世界の破壊を阻止してきたのです。故に拙者は魔王でありました。ユズカ氏のこれまでに、間違った決定は無かったのですかな? 拙者、またはモリビトに任せれば、より良い結果になっていた事があるのではないですかな?」


 前魔王の突き刺さる言葉に、いつの間にか蓋をしていた深いところから、不安が漏れ出してくる。

 今やっている事が私であるという必然性が無いなんて、私が一番分かっている。

 世界消滅を食い止めるなんて、私に出来るとは思っていない。偶然にその始まりに遭遇して、無理矢理首を突っ込んで、役割りを作って演じているだけだ。そうしないと、ここでの私の存在価値が無いから、やっているのだ。

 そんな事は無いと周りに言われても、心の奥底に芽生えたこれだけは消えない。それを指摘されて私は単純に動揺している。


 価値を見出せない恐怖に駆られて始めた事だが、今は少し違うのだ。この役割りに誇りを持っている。いや、違う、この役割りが楽しいと思っているのだ。ようは欲が出て来たのだ。恐怖に動かされるよりなお悪いかもしれない。しかし、今はこう考えている。この役を誰にも渡したく無い。何に替えてもだ。


「そんな事は無いよ。私で無ければ今の形はなかった。私の情け無さや、中途半端さや、頼りなさが今の関係性を生んだ。完全な人だとこうはならなかったね。だから私にしか出来ない。こんな事、楽しんで出来るのは私くらいだね」


 前魔王は捲し立てるような上げていた手を下ろし笑っていた。


「ふむ! その境地で事に挑まれているのであれば、心配はありませんな。拙者とて漫画を創るには最善の役では無いと思います。魔王を辞めてまでやる事では無いと魔国の者は言うでしょう。しかし、求める役はまさにこれなのです。漫画の先導者を譲る気はありませんし、拙者にしか出来ぬ事だと思っています」


 前魔王は手のひらを返したように私の意見に賛同してきた。


「私は何か試されてた?」


「いえ、拙者は事実を言ったまで、ユズカが拙者の漫画創りに全力で協力してくれたらどれだけ良いか。その為に拙者がユズカ氏の役を変わるのは効率的、それは事実です。ただし、事実が正しいとは限らない。拙者はユズカ氏に聞きたかったので、事実を捻じ曲げる覚悟はあるのかと。そしてそれをやる意味はあるのかと。しかし、そこには意志がある事が分かりました。ならば拙者の言う事は何もありませぬ。あの拙者が魔王であった時に託した物が、必ずや役に立つ事でしょう」


「何か心配してくれてたみたいだけど、私がもし漫画描きに協力すると言っていたら、どうするつもりだったの?」


「それはもう、余す事無く快楽の虜にして、この石塔より出さぬつもりでした。外より多数の強者が取り返す為にここを襲ったでしょうが、ヤマビトが守りに負ける事はありませんので、ここは不落の城となったでしょうな」


 考えるだけで悍ましい事をサラッと言われて、身の毛が立つ気がした。


「言わなくて良かった。でも、そんな皆んなが取り返しに来るかは怪しいね」


「来ますとも。先程ユズカ氏が言ったとおり、今の強く優しき絆はならではの物。それを破壊する物は強力に攻められる事でしょう」


「まあ、そう言う事にしておくけど、それで漫画はこれからどうしていくつもりなの? 私は定期的に読ませてほしいけど」


「それはもう、描け次第送信させて頂きます。良い通信の仕組みをお持ちなので、拙者もそれを使います」


 トゥーリンの作った通信システムは本当に便利だ。全世界で通信網が確立されたら、完全に覇権を取る事間違い無しだ。


「じゃあ、私はそろそろ行くよ。長居して監禁されても困るからね」


「力で監禁するような真似はしませんよ。協力関係が崩れては意味がありませんからな。だからこそ精神的に納得頂く必要があったのです。まあ、叶いませんでしたが」


「まあ、また用事があったら来るよ。なんと言っても、ここは私の町だからね」


 石塔を出る為にリフトに乗り、ふと通信機のログを確認した。これの利用者も増えたが、やはりトゥーリンからの書き込みが多い。

 そんな中で見慣れない感じのメッセージがあった。


「月光国にて死」


 途中で送信されたようなメッセージは、シズキからの物だった。

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