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仕事の終わりに11

 落ち着こう。見た目と匂いはラーメンだが、味が同じ訳が無い。

 このブランとかいうモリビトには、ラーメンの特徴を口頭でしか伝えてないのだ。いきなりラーメンが出せる訳はないのだ。

 どういう訳か割り箸まであるが、これはあちらの代表として異世界ラーメンの真贋を確かめねばならない。


 脂たっぷりのスープが絡んだ麺を持ち上げると一気に啜る。


 ふむこれは、完全にラーメンになっている。豚骨ではない何骨から取られた出汁なのか分からないが、この野趣とコントールされたコクは間違い無く豚骨ラーメンの系譜を行っている。

 どこから出てきたのか、醤油とニンニク、後は深みのある魚介出汁まで効いているではないか。

 ああー、胡麻と豆板醤を伝え忘れていたのは完全に私の失策だった。

 これはもう完全にお金取っていいレベルのラーメンです。なんなら私が払うから毎日作ってほしい。


 スープまで飲み干した段階で我に返ったが、これは完全に啜るタイプのドラッグで間違いなかった。


「どうやら気に入ってもらえたようだね」


「凄く美味しいラーメンでした!」


「らーめんか、聞いた事の無い料理だが理屈は大体分かったよ。生物のしかも骨に近い部位から旨さを溶出する。文明界にも似た料理はあるからね。それに次世界人も文明界人も味の好みに尺たる違いは無いみたいだからね」


 文明界の料理を参考にしたという事は、この人は法国の外と繋がりがあるのだろうか。


「法国には料理という習慣が無いのかと思ってました。ブランさんみたいな人が居て安心しました」


 私の言葉を聞いてブランがオーバーアクションでシルバの方を向く。被っている餃子みたいな型の帽子が激しく私の前で揺れた。


「聞いたか?シルバ。やはり、そう、法国は料理いや食事という行為を軽視し過ぎなんだよ!」


「軽視も何も、法国には料理など無い。白樹果の何がいけないと言うのだ。食べる物からは必要な栄養素が得られればよいではないか」


 え、もしかしてブランさんが異端なパターンなのか。法国の人はみんなずっとあの果実だけを食べ続けているのだろうか。確かにあれは不味くは無いし、食べ飽きない工夫はされているとは思う。しかし、あれだけを食べ続けるのはどうかしているとしか言えない。


「料理が食べられる場所って、もしかしてここしかないんですか?」


「その通りだよユズ。モリビトは何も考えずあの果実だけを食べているんだ。異常だろう? そもそも、生物の肉体を構成する要素は食事によって得られ訳だ。同じ物を食べ続けて生物が進歩する訳がないんだ。だからこそ僕は食事の可能性を研究している」


「そんな事は白樹果の栄養素構成を変更すればいくらでも出来るだろう」


「分かっていないなー。食事とは状況、見た目、匂い、音、味、そして感情の集大成なんだ。得られる栄養素も無視は出来ないが、食事という行為にこそ意味があるんだよ」


 ブランさんの言う事は一理どころか百理ある。いいぞ、もっと言ってやれ。そして私の食事事情も改善してくれ。


「それで、その食事とやらで参人思想は満たされるのか?法院の検証目録には載ったのか?」


「食事は文化なんだ。そんなに早くは進まない。文明界にも僕が編纂していない食事文化がまだまだある。研究はまだ始まったばかりだよ」


「500年やってまだ始まったばかりとは、大層な研究だな」


 今日のシルバはどうも嫌味が強いように感じる。


「1000年やってる人に言われたくないね」


 どうも年数の規模がおかしい気がする。これは恐らく私とモリビトさん達では、時間感覚が違い過ぎるのだろう。見た目といい、この長命そうな感じといい、モリビトはマジでエルフだ。


 シルバとブランの会話が盛り上がっているが、私は多少の疎外感に晒されている。付き合いの長い人達に巻き込まれると良くある現象だ。


 ラーメンと一緒に出てきたお冷をちびちび飲んでいると、この部屋への丸い扉が開いた気がした。扉はキッチンカウンターの向かいの丁度ど私の真後ろにある。


 扉から真っ直ぐにカツカツという足音が響く。私は会話に参加していないので、何となく振り返ってもいいかなと思い後ろを見た。


 後ろに居たのは当然人だ。しかし驚いた事に私はこの人を知っていたのだ。

 シルバが私に生殖方法を確認したエロ標本の二人の片割れがそこに立っていたのだ。


 例のエロ標本双子の女性の方が正に私の目の前に居た。褐色の肌にクリーム色の短髪で、それはもう立派なお胸をしていた。

 普通はこんなに胸があるなら全体的に丸いはずなのに、腰や脚やお腹に腕に至るまで引き締まっているのだ。

 とんがり耳なのでこの人もモリビトなのだろうが、同性の私でも二度見する程の美貌の持ち主だ。


 しかも、服もよく見るとスリットだらけで、胸は薄いカーテンのようなヒラヒラ布が申し訳程度に張り付いているだけだ。

 間違い無くエロスの権化と言わんばかりの存在であった。


「ようやく来たかビシム」


「ビシムの事を呼ぶなんて、シルバもそろそろ分かってきた?」


「別にそちらの研究に協力する為に呼んだのではない。生命樹学の専門家の意見が欲しいだけだ」


「ビシムは生命樹学を専門にした覚えは無いのだけれど」


「その辺りの認識はどうでもよい。ひとまず、次世界人の生命樹を見てほしいのだ」


「ふーん。それでこちらが次世界人の方と言うわけ?」


 ビシムと呼ばれたエロい人と目が合った。大きな瞳が赤とも緑とも言える不思議な輝きを放っている。


「どうも。次世界人のユズです」


 間の抜けた挨拶になってしまった。同性とは言え、これ程に格の違う人に話しかけられると緊張してしまう。


「………いい。いや、そう、ビシムは引き受ける」


 ビシムさんの瞳の虹彩がネコ科動物のようにキュッと引き絞られた気がした。


「やはり次世界人には興味があるだろう?」


 シルバはしたり顔でニヤニヤしている。


「ユズはモリビトの事、どこまでも知っているの?」


 まるで小さい子供に話すような口調でビシムさんが話しかけてくる。


「どこまでと言うか、ここがモリビトの国である法国で、モリビトは皆何か研究をしているのだと言う事くらいしか分かりません」


 ビシムさんがシルバを睨む。


「法令通りだ。我を責めるのは違うだろう。悪法には早く去ってほしいというのは同意するがな」


「ではビシムが勝手に喋る分には問題ないな?」


「外法がモリビト以外に知れたとして、誰が取り締まると言うのだ。我は必要以上に知識を教えなかっただけだ」


 何やら法国の法には色々とあるらしい。私への情報制限もその範疇にあるようだ。


「ビシムは愛と生殖について研究している。愛する事の真理を解けば、必ずや次存在へ至ると確信している。だからこそ最初に言おう。ユズ、ビシムとの子を産んではくれないだろうか?」


 ん? なんて? 何がどうしたらそうなるのか。そうか、何か聞き間違えをしたのかも知れない。


「すいません。言っている意味が分からないのですが?」


 ビシムは真っ直ぐに私の目を見ている。


「ビシムはユズに恋している。二人で愛を育んで子を成そうと言っているのだ。これならば分かるか?」


 ビシムの目線から逸らすと、ビシムの体が目に入ってきた。ビシムの身につけいる衣服は見る角度によっては完全に透けて見える素材である事に気がついた。

 隠されていなければならない部位が完全にコンニチハしている。

 私はその姿の衝撃に、口に含んでいた水を吹き出してしまった。

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