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魔王様はお終い7

 大した質問では無い。交渉における重要なポイントでも無い。たが、何故かこの質問に答え無い事は不味いと感じる。でも、答えは無い。不老不死になって何をするのかという話に近い。限り無い安定した生の中に何を見出せるのだろうか。


「魔王の問いには、まず我から答えよう。快楽の追求よりも、参人にはやる事があるのではないか? ヤマビトは次存在に移行したいという欲求が失われているのか? モリビトはそうでは無い。モリビトは未来に次存在を見出している。その為に生きる。快楽の追求だけでは次存在に届かない。ならば、それだけというのは、自己存在の否定では無いのか?」


 魔王の問いにシルバが答える。生存と繁栄が約束された種、それが参人だ。参人の持つ参人思想という本能的な物を、私が理解出来ないのは、当然の事かもしれない。


「シルバ氏は参人思想を持ち出してきましたな。では、拙者も改めて問おう! 次存在への道を発見した参人は何をすればよいのですかな?」


「次存在に至っていない者からそう言われても何の説得力も無い。確実な未来など存在はしないのだ。ヤマビトが発見した道が途絶えていない保証が何処にあるのだ。何をすればよいのかなど問うている暇があったら、次存在に至ればよいではないか。何をすればよいかは、その先にあるだろう」


「それはモリビトの理屈ですな。拙者らの次存在は、原点回帰にあるのです。世の存在が今のように無限分化する前の状態こそが、次存在への道。ヤマビトは確実に原点に至る。そう、後数年の内に」


 後数年と聞いて、心がざわつく。あのいつも見る予知でビシムが消える闇は、魔国の方向から発生した物だった。魔王の言う原点回帰が、闇の発生の引き金である可能性は高いのだ。


「原初の炎論か。ヤマビトが至るその存在が次存在に繋がると何故言い切れるのだ。何故、失敗や間違いの可能性を考えない?」


「間違いや失敗の起きえない法則の中にある、それが原初の炎という物なのですぞ。日が昇りそして沈む、昼と夜の繰り返し、この法則を変更する事は難しいのは理解出来ましょう? 大地の回転は止められないように、拙者らの次存在への移行も、もはや止める事は出来ないのですよ」


「止められない事と、確定した未来が得られる事は同義では無いだろう」


「この議論は平行線ですな。はるか昔にヤマビトとモリビトが語ったままだ。参人と言えども拙者らとモリビトでは別種、参人思想も違う。この話に合意は得られない。それよりも元の話を続けましょうぞ。後数年、拙者らがヤマビトである僅かな期間を有意義にする物が、この国以外にあるのかどうか。拙者はそういう話に興味があるのです」


 魔王から得られた情報は、私達にとっては大きなヒントになる。それに今日会った異国の人物に語ってしまう程の事なのであれば、調べれば簡単に情報を得られそうだ。後は、ヤマビトの移住が進むような提案が出来れば、大収穫だろう。


「では、クリスさん、一つ聞きたいのですが、快楽という物は別に性的で無くてもいいのでしょうか? 例えば食や芸術、文芸と言ったところからも、快楽は得られると思いますが、いかがですか?」


「確かにユズカ氏の言には一理ありますな。しかし、拙者らヤマビトには感覚の鈍さという物があります。生まれながら強靭な肉体を持ち、過酷な環境でも生存可能なヤマビトは、多くの種より極端に鈍いのです。特に食の文化は発展しませんでした。外からの刺激より、心の内で輝く存在でなければ、拙者らヤマビトには届かないのです!」


「でも、それでは性刺激という物は、あまり効果は無いのでは?」


「良いところに気づかれましたな! 確かにヤマビトは性的な感度は鈍いのです。しかし、性刺激という物は心の持ち様で増幅する物では無いですかな?経験によって些細な刺激でも強力な快楽を生む。苦痛すらも快楽に変化出来るのが性刺激というもの!故に研究し追い求める事の出来る文化として、この魔国では今も研鑽され続けているのです!」


 なるほど、それであんなエクストリーム性空間があったりするのか。


「内面に響き研鑽出来る要素があれば良いという事ですね?」


「そうです! 拙者もこの石人の突起に全ての性感帯を繋げてぶら下げているのは、偶発的に未経験の刺激が発生しないか日々検証をしているのです! しかし、もはやありきたりな刺激ばかり、2年ほど前に冷却液の入った移送用の容器に先端が張り付いてしまい、半日国中を引き摺り回された時より、発見は無い状況でして」


 やっぱり、こいつ相当なド変態だな。


「文芸はどうですか? 性的な物も用意出来ますし、そうでは無い物も楽しめますよ」


「外部の方はよくそれを言うのですが、大地の輪では人の思考を完全な形で再現出来るのです。既に数多の妄想が現実と同じ認識下で展開されているのですから、情報量の少ない媒体では楽しめないのです」


 なるほど、早々と精神の中身をアウトプット出来て、しかも共有出来てしまったから、文芸が流行らなかったのだろう。だが、そう考えるとやりようはあるかもしれない。


「では一つ提案があります。私の故郷にも現実と見紛う映像作品があるのですが、それがありながらも情報量の少ない文芸が人気だったりします。それを私の故郷では漫画と呼びます」


「ほう。それは今お持ちだったりするのですかな?」


「いえ、現物はありませんが、もしかしたら手法をお伝え出来るかもしれません。私の思考を紙のような物に投影するような技術はありますか?」


「ありますぞー! こちらに出します」


 魔王がそう言うと、テーブルの上に額縁に入った紙のような物が出て来た。


「これはどう使えばいいですか?」


「この枠に触りながら、思考すれば思った通りの図が表示されます!」


 そう言われて額縁を触りながら、魔王石人ボディのキャラを想像すると、三頭身の魔王キャラが白黒で紙に表示された。


「この絵が、クリスさんと認識出来ますか?」


「ふむ。確かに拙者のこの体の特徴を捉えていますな。しかもかなり簡略化した絵なのに、拙者と分かります」


「これが漫画の絵の特徴です。人は立体を目という器官で平面に投影して見ている訳ですから、平面の絵というのは認識しやすいのです。また、顔や体のパーツは簡素化しても認識するという能力がありますから、記号化した絵も人と認識するんです」


 私は説明しながら、絵の魔王の突起先端部分の丸を目玉にして、色々な表情差分を見せた。


「なんと! この絵の拙者は今、怒っておりますな!」


 そう言って魔王は、石人ボディの突起先端を絵と同じように変形させて、怒り目を表現して見せた。


「これだけだと只の絵ですが、ここから物語を構築する要素を足します」


 私は、先程魔王から聞いた凍った移動容器で半日引き摺り回されたエピソードを四コマ漫画にした。


「これは! 先程の拙者の話では無いですか! しかも少ない文字なのに分かり易い!」


 魔王の四コマ漫画は、モノローグとして魔王ボディの説明を簡単に書いただけで、後はほぼ絵だけにした。


「漫画は絵で説明出来るところは、極力絵だけにするものです。だから、一目見ただけで、かなりの情報量を簡単に得る事が出来ます。では最後に、これに性的な要素を足してエロ漫画にします」


 私は魔王キャラを五頭身くらいの鬼っ娘キャラに変更して同じシーンを構成した。

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