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魔王様はお終い4

 竜宮都市と他の都市を結ぶには、行き来するメリットが必要なのだ。陸の人からすると海洋資源は魅力的だろう。シンプルに海水から塩を精製するだけで商品になるかもしれない。

 問題なのは、竜宮都市側が陸の何を求めるかなのだ。互いに需要と供給があってこそ交易は成り立つ。ウミビト、ひいてはヤマビト、モリビトが求める物が持ち込まれるか、これに都市としての成立がかかっている。

 参人間での情報共有が出来る場、これが今のところ竜宮都市に出せそうな魅力だ。これまで参人は殆ど交流をしていなかった。それは単純に仲が悪いからだと思っていたが、これまでの感じでは、そんな事は無いように思う。

 自らの種だけで完結しているのが参人という感じだから、交流する必要は無かったのだろう。しかし、話し合えば、以外と実りがあるような気もする。何故ならば、参人は皆理性的で好戦的では無いからだ。何かを他から奪って来る必要が無いから、そういった特性が共通するのだろう。お互いに長年貯めて来た知識が共有されれば、新たな文化が生まれそうな気がする。


 色々と妄想はしたが、やらなければならない事はまだまだある。とりあえず今は魔国に行かなければならないのだ。

 魔国行きに向けて一旦は欲国に戻って来た。竜宮都市と欲国の転移ルートは安定しており、行き来もスムーズだ。因みに転移門の安定が確保出来ていないと、一度の転移質量がかなり限定されたり、最悪は転移途中の経路に放り出されたりする。

 魔国へはドリスの転移術で行くそうだ。魔国は練国の遥か北の泥海と呼ばれる超危険地帯を超えた先にあるそうで、簡単に行く事は出来ないのが普通だ。そう考えると転移術という物は明らかにチート級の代物だろう。安定して一般化したら、凄まじい流通革命が起きてしまう。


 魔国への転移の為、欲国にあるドリスの家へとシルバと共に訪問した。

 ドリス宅は地下にある。しかも岩盤が剥き出しの誰も住まないような場所に住んでいる。岩盤にどうやって穴を掘ったのか不明だが、綺麗な地下通路が連なっていた。しかも地下なのに謎光源がふんだんに使われていてかなり明るい。通路の先にはキラキラした布の扉があった。


「入ってよいぞ」


 こちらの存在を察知していたのか、直ぐに案内の声がした。

 布扉の先は、タケノコ型に掘られた個室だった。尖った天井中央の先は煙突になっている構造で、家具は無く全て岩が家具型に変形して壁や床から生えているような不思議な部屋だった。


「お邪魔します。準備が出来たので参りました」


 部屋にはドリスとそしてバイスも待っていた。


「さっさと行くぞ」


 バイスは相変わらずの口調だが、イラついたり怒った様子は無いようだ。魔国はドリスの祖国であり、バイスもまた訪問経験がある。つまり、こちらには無いアドバンテージがあちらにはあるのだ。何か知識差で仕掛けられる事も想定はしているが、基本的には信用している。何故ならば、私達が無事でなければ、竜宮都市への自由は効かなくなるのだ。命を取るような真似や敵対はしないだろう。


「行くのはいいけど、ここから行くんですか?」


「そうじゃ。まあ、魔国まで直接は行けないので、石門まではここから転移する」


 ドリスがそう言うと、壁の巨大な円形の装飾が光りだして、円内に何処かの景色が映しだされた。


「これは共鳴転移だな。ヤマビトにしか出来ない術だと聞いていたが、まさかここまで安定しているとはな」


「龍脈転移は簡単で安定しておるが、限定的すぎるのじゃ。外界の奥地に飛ぶならばこれじゃろ」


 素人目には分からないが、どうやら違う技術の転移らしい。


「なんだっていい。早くいくぞ」


 そう言ってバイスは転移門を潜ってしまった。私達も後に続くと、明らかに違う空気の場所に出た。


 転移の先は恐らくはかなり高い標高にあるのではと感じた。というのも、岩場と草原のような物が広がっている場所だが、所々に雲が掛かっている。標高差で気圧が変化して体調に影響しそうな物だが、特に耳がおかしくなったりしない。

 私達の潜った先の門は丘の上にあるようで、リング状の巨大な石以外は特に人工物は見えない。ただ、なんとなく風景自体に違和感がある。草も遠くにある樹木もどこか違うのだ。足元の草も妙だ。葉のような物はあるが茎が無い。


「なんか変な場所。草もなんだか変だよね」


「ふむ。これは草では無いな。巨大な苔だ」


 苔にしては確か大きい。緑ではあるが、巨大苔だらけで普通の草や木は存在していない。それがこの景色の違和感なのだ。


「ここから魔国まで移動する必要があるのじゃ。この岩に乗るとええじゃろ」


 岩と言われと、確かに緑色の岩が地面に敷き詰められている場所がある。それは道のように何処までも続いていた。この感じどこかで見た事がある。


「これってもしかして緑石街道? 魔国にもあるんだ」


「何を言っておるか、世界の緑石街道は魔国の資金によって敷かれておるわ。街道の管理をしとる緑石公社の始祖はヤマビトよ」


 確かに色んな所であの街道を見たが、まさかヤマビト発信だったとは。まあ、国を跨いでの事業だから大きな力が働いて出来た物なんだろなと思っていたが、まさか参人絡みとは思わなかった。


「なんでまたそんな公共事業をヤマビトが全世界規模でやっているんですか?」


「世の情報を得るには道は最適だと思わぬか? 生物は道があればそれを使い凡ゆる物を運ぶ」


「我らモリビトが世界樹教を広め、白樹を植えているのと同じという事だな」


「そういう事よ。自身は居に篭ったまま、外の情報が得られたならば、それは素晴らしい事よの」


 モリビト、ヤマビトには高度なネットワークの考えがある。という事はウミビトもそういった活動をしているのだろうか。


「ごちゃごちゃとうるせーな。早く魔国に行くぞ。日が暮れちまう」


 確かに道は果てしなく続いているように見えるし、都市らしき物が近くにある感じはしない。


「なあに、道があれば直ぐに着く」


 ドリスがそう言って緑の敷石に何か操作をすると、透明な5m四方のガラス板のような物が出て来た。しかもそれは10cm程宙に浮いていた。


「まさか、歩かなくていい歩道ってやつ?」


「そうじゃ。ヤマビトは体の動きは速く無いからの。こうして石術を使うのが賢いやりかたよ」


 ガラス板に乗ってみるとかなり安定感がある。揺れたりはせず、ガラス床に立っている感じだ。


「そんなもんがあったのかよ」


 バイスはどうやらお初らしい。


「そうじゃ。お主は儂から逃げ回っておったから、ヤマビトの技に触れる機会は少なかったからの」


 ともあれ、全員、板に乗ると移動が開始した。自転車くらいの速度でスイスイと進む。

 流れる景色も珍しく、樹木に見えていた物も苔の胞子嚢だったり、巨大なキノコだったりした。巨岩がゴロゴロしている事もあり、まるで小人になったような気分だ。

 でも、そうなると巨大昆虫とかも出るのかと思っていたら、そんな事は無く、動物の姿はあまり無かった。代わりに動いている物の多くがゴーレムだった。人型の岩が動いて、様々な作業をしている。まだ、ヤマビトには一人も会っていない。


 そんな景色を見ながら進んで行くと、行く手に異常な程巨大な山が見えて来た。


「見えたぞ。あれこそが魔国よ」


 ドリスが指差した先は、あの巨大な山であり、山の頂きは七色に輝いていた。

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