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魔王様はお終い1

 外から巨大な音がしていたのは、私の追加装甲にそっくりな巨人の足音だった。


「もう出来たんだあれ」


「外見は良く似ているけど、まだまだ制御が出来ていないのにゃ。あれでは走る事は出来ないのにゃ」


 欲国は建国時に天人の加護のある国だと謳っている。最初は私が担当していたが、それでは欲王の自由に操る事は出来ないので、模倣品で代替する事になっていた。

 私としても国政に関わるなど絶対にやりたくないので、本件は快諾していたのだ。


「戦闘で使う物なのに、そんな仕上がりで大丈夫なのかな」


「よくは出来ているのにゃ。巨人の大鎧とも違う技術を使っているのにゃ。どうやっているか分からにゃいけど、人と同じ立ち方をしているのにゃ」


 金輪の上には何かある。参人程では無いが、世界的に見てもオーバーテクノロジーが存在していそうだ。

 トゥーリンの通信技術も直ぐに買い取ったのだ。先見性があるというよりは、高度な知識のある者が先物買いしているようだ。


「そう言えば、シズキ、少しの間私から離れてくれないかな?」


「理由は察しが付いているのにゃけど、聞いてもいいのかにゃ?」


「バイスに協力してもらわないといけない事が出てきたから、シズキには離れていてほしい。シズキが居るとバイスは出て来ないからね」


「にゃーは何もしないのに、用心深い奴なのにゃ。でも、まあ正しい判断なのにゃ。バイスとかいう奴は賢いのにゃ」


「離れていても、トゥーリンから貰っている術具があれば連絡は取れるから、暫くはそれで」


 トゥーリンが作った通信の流れでも限られた者しかアクセス出来ないプライベート回線がある。しかも、通信域が限定されている問題はモリビトの白樹のブースターで解決している。


「にゃーは文章を書くのは苦手なのにゃ。まあ、何かあったら連絡するのにゃ。にゃーはにゃーで、少し調べたい事もあるのにゃ」


「じゃあ、シルバが戻って来る頃にはまた呼ぶから」


 ―――


 なんとなくだが、シルバとの連絡が増えた。竜宮で色々と話したのがきっかけになったのだろう。シルバの白樹設置は思いの他時間がかかるようだ。無為に時間を使うのも嫌なので、色々とシルバに相談した結果、竜宮にヤマビトを誘致する事への話合いは私が先行する事にした。シルバからは交渉の条件として必殺の物を授けて貰った。曰く、こちらから言わなくても向こうから要求して来る事なのだそうだ。


 バイスに連絡を入れたら、待ち合わせ場所は金輪下の冒険者組合事務所となった。

 冒険者組合はなかなかに繁盛しているようだ。依頼の持ち込みと、依頼を受ける冒険者で事務所はガヤガヤしている。しかも、聖王国で偶然発生した飲食店を併設するというのがシステム化されており、待つ人々は皆、食事や飲酒をしたりしている。

 冒険者への依頼の多くは、危険地帯に入りなんらかの資源を持ち帰るという物だ。一般では流通しない物を求めるには、この冒険者というシステムが一番機能しているようだ。


 何かの準備が整ったのか、組合事務員の人に個室へ案内された。殺風景で粗末な部屋だが、ソファーだけは少し豪勢なものだった。


 ―


 少し待つとバイスが部屋に入って来た。相変わらず全身が黒尽くめで黒にフルフェイスのヘルメットをしている。そして、異常な程に無臭だ。


「何の用だ?」


 バイスはソファーの向かいにどかっと座り、やや不機嫌そうに問いかけて来る。


「実はとある町の住人を募集していて、それで少し協力してもらいたいんだよね」


「町だと? 少し見ねぇと思っていたが、そんな事をやっていやがったとはな」


「ちょっと南の島にある町なんだけど、住人には多少条件があるんだよね。その一つにヤマビトに住んでもらいたいってのがある」


 そう言うとバイスはより不機嫌になり、組んでいた足を解くと強く床板を踏み鳴らした。まあ、この反応は予想していたが。


「俺様はおまけって訳か? あの赤いのと話がしたくて、俺様ごと釣ったって事だな?」


 怒鳴り声でそう言われても萎縮しなかったのは、事前にそれを予測していて頭の中で経験済みだったからだ。あちらでは怒られる為に行く仕事もあったので、慣れたものではある。


「その通り。ドリスさんと話をしたいけど、単独では連絡手段がないから、バイスを利用してこの場を作った。こうしてバイスと話をすれば、ドリスさんも聞いているという事だから」


「堂々と言いやがったな! それで俺様が協力するとでも思っているのか! 絶対に協力しねえ、妨害しまくってやる!」


「協力というのは信頼あってのもの。私達の間には信頼は無いよね? 私はそう理解している。私達が共に進むのは利害が一致しているときだけ。私はバイスを信頼していないけど信用はしている。利害が一致した時に進み先を見誤らない人だと思っている」


「お前の理屈だけで語ってんじゃねえ!」


 そう言ってバイスは立ち上がるが、攻撃して来る素振りは無い。私に手を出すと手痛いカウンターがある事を知っているし、それを理解して行動をコントロールしているところを見ると、かなり冷静なのかもしれない。


「まあ、その利害の利とやらを聞いてみようではないか」


 高音でやや鼻を抜ける感じの声がすると、バイスの影からドリスが現れた。

 トマトの様に赤い肌に金色の瞳、黒曜石のように艶のある黒い角が額から二本生えてえり、角と同じ質感の牙が口からチラついている。相変わらず、スリットだらけで丈を短くした改造巫女服を着ており、その背丈は子供サイズだが、体付きは大人的な肉感がある。


「お前は出てくるな!」


「まあまあ、南の地にはまだ足掛かりが無いじゃろう? ここで強く要求してもいいのではないかのう」


「うるせぇ!」


「それにこの娘は、儂に話をしに来たのじゃろう? 今日はシルバもおらんようじゃし、儂ら二人で好きにしたらええじゃろ」


 ドリスの言葉にバイスは少し落ち着きを取り戻してソファーに倒れるように座った。ドリスもソファーに座り私の様子を伺っている。


「さて、目当ての儂が出てきたのじゃ。話を聞こうかのう」


「では、端的に言うと、南の島にある町にドリスさんが住んで頂く事は可能ですか?」


「それは無理じゃな。儂はバイスの作る冒険者の輪を見る必要がある。何処かに定住する訳にはいかない」


「では、ドリスさんのように自国から出ているヤマビト、または出そうな方を紹介してもらう事は出来ますか?」


「それは、まあ、出来なくは無いが。儂らの利の話が聞きたいのう」


「では、紹介して貰えるのでならば、南にある町に冒険者の拠点を作る事を許可しましょう」


「町の存在と拠点作成の保証はどうするのじゃ?」


「現物を見て頂くのが一番なので、転移門の開設が完了したらご案内します。その際に拠点作成を開始してもらっていいですよ」


「ふーむ。バイスよ。悪くない条件のようじゃぞ?」


「俺様が何も得をしてねぇのが気にいらねぇ」


「拠点作成の人足はこちらで持ちましょう。それでどうですか?」


 バイスは、ふんぞり返って天井を見ながら手を振った。どうやら納得したようだ。


「さて、儂からの情報提供じゃが、交渉を行う者には魔国に行ってもらう必要があるぞ」


 魔国、それはヤマビトの国であり、未来に世界を滅ぼす闇の発生源と思われる場所だ。

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