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仕事の終わりに10

 シルバから私の生命樹に関する検査を受けている。生命樹の光の増大、これは類を見ない現象らしい。


 生命樹は本来は枝と呼ばれる、認識を非現実に繋ぐ橋を伸ばす物なのだ。しかし私には枝という枝が無く、生命樹は新生児にも劣る完全初期状態であった。

 それを全て伸ばそうとした結果、今の生命樹光量増大となっている。


 生命樹は当人の認識なので、当然他者から正確に確認する事は難しい。

 しかし、シルバやこの国のモリビトと呼ばれる種族は、生命樹のヒアリング法を確立しているようで、口頭の質問や当人の生命樹使用から状態を把握出来るのだそうだ。


「ふむ。やはりユズには生命樹使用における精度向上が見られるな」


「精度向上ですか。それって何か役に立つ事があるんでしょうか?」


「役に立つかどうかは分からんが、より微細な世界での術行使が可能になるのは間違いないだろう」


「微細な世界というと、凄く小さな目に見えない大きさでの術という事ですか?」


「概ねそうだが、そうだな」


 シルバはそう言って訓練で使う白いキューブを机に置いた。


「いつもの箱」


「これをいつも通り回してみろ。ただし出来るだけ小さな領域の流体操作でな」


 最近は良く使っているのでキューブの回転は慣れている。出来るだけ小さな領域と言われたので、最初はお椀のように大きく下半分の領域の空気を回転させて安定させる。そこから回転の推進力を与える必要のある領域だけに絞ると、キューブの接地している頂点にだけ回転を加える事で回転を維持出来た。


「出来ました」


「なるほどな。これと同じ操作は我や他のモリビトであっても出来ないであろう。ユズの空間影響力の使用量はかなり少ない筈だ。つまり小さな力で同じ効果を得るという事にも使える能力という訳だ」


 つまり、私の術コスパは最強という事なのだろうか。コスパが良くても微風を起こすくらいしか出来ないので、まだ意味があるようには思え無い。可能性はあるかもしれないが。


「832肢が目指せる感じじゃないですね」


「まあ、結論を急ぐ必要もないだろう。それに我の専門は生命樹学では無い。専門家の意見も聞いた方がいいだろう。丁度10日の防疫期間も今日で終わりだ。明日は出掛ける事になるがよいか?」


「はい」


 最近は生命樹に夢中で忘れていたが、こちらに来てもう10日が過ぎようとしていた。

 外出か。今の環境には別に不自由してはいないのだが、ずっと篭っているという感覚はあった。出掛けるという事は何処かの街にでも行くのだろうか。この浮遊樹が数多く接合した都市があるのであれば見てみたい気もする。


「明日の為に用意する事などは無いが、今日はもう休むがよい」


 そう言われれば、もう夜も大分深くなっていた。私は言われるまま、部屋に戻り明日を待った。


 ―――


 妙に寝覚めのよい朝だったので散歩を兼ねて一階の外に出て見ると、昨日までは無かった浮遊樹が遠くに見えた。キノコ型の浮遊樹はどこか遊び心のある見た目をしていたが、まだかなり遠くにある。


 そんな事をしているとシルバから呼び出しがあった。


 屋上に到達すると珍しくシルバが小屋から出ていた。


「まだ遠いが準備は出来ているそうだ。転移で行くぞ」


 シルバはそう言うと白い樹木の杖を手前に突き出すと、いきなり空間の裂け目のような物を出現させた。

 裂け目は裏から見ると何もないがシルバ側から見ると別の景色が見えるという不思議仕様だった。


「なんですかこれ?」


「門を使った転移術だ。中に入れば分かる」


 入れと言われてもかなり抵抗感のある現象だ。

 そんな感じで躊躇していると裂け目が動いて私を通過すると、いきなり別の場所へと移動してしまった。


 シルバ直ぐ近くに現れた。


 明らかに別の建造物内だと分かる場所に、まさに転移したのだ。

 何かの室内で窓も無いが明らかにシルバの住む建造物とは趣が違う。円環状の通路におり、恐らく中心と思われる方向に広い空間があるのではと感じさせる。

 天井や壁は樹木のままで、木の虚のような感じなのに、床は驚くほど平坦でピカピカに光っている。


「どこ?ですか、ここ?」


「ブランの食堂だ。待ち合わせはこことの指定なのだ」


 食堂? 謎の完全食っぽい果物し無いと思っていたが、ちゃんと食文化もあるのだろうか。そう考えると食に関してはシルバが完全にずぼらなだけなのだろうか。


 シルバはカツカツと通路を歩いて行くので私も後に付き従った。


 少し行った先に丸い型の構造物が壁にあった。恐らくは何らかの入り口のようだ。

 シルバがその壁にある巨大な丸の前に立つと、丸の中身が滑らかに動いて、大きな開口部となった。まるでカメラの絞りのように動いた丸の正体は凝った仕掛けの扉だったのだ。


 扉の中からはいい匂いがする。これは確実に肉が焼ける際に発生する匂いだ。毎日の食事は謎果物のみだったので、この肉の香りはあまりにも強烈過ぎる。思わずお腹がクゥーと鳴ってしまった。


 シルバはズンズンと先に行ってしまった。


 私もシルバの後を追うと、半円形の広い空間に出た。ドーム状の空間の半分という感じで中央の天井はかなり高い。

 部屋には10程のテーブルがあり、椅子も置いてあった。中央奥には丸いカウンターがあり、カウンター奥はオープンキッチンになっていた。


「やあシルバ、久しぶりだね」


「そうだな」


「そちらのお嬢さんは?」


「伝えた通り、次世界人のユズだ」


「あ、黒明柚香です。ユズと呼んで下さい」


「僕はブラン。よろしくね」


 ブランと名乗った男性は特徴的な帽子を被っており耳は隠れているが恐らくは耳の長いモリビトだと思われる。

 薄い顔立ちに糸目に緑の髪と、結構な特徴はあるのに、いまいち印象に残らないモブ感的な雰囲気を感じる。


「ビシムはまだ来ていないのか?」


「そうだねー。まあ、ビシムはこの手の事には時間をかけるからね。だからと言って待たせる訳でもないから、そのうち来るでしょ。それよりも、食べよね?僕の料理」


「任せる」


「では、お任せという事で。それじゃ、ユズは何がいいかな?好きな物言ってよ」


 いきなり注文を聞かれても、こちらの食文化は何も分からない。が、お腹はかなり減っている。


「あのメニューとかありますか? こちらの料理は何も知らなくて」


「ふーん。なるほどね。じゃあ、次世界料理に挑戦してみようかな。食べたい料理の特徴を言ってみてよ。出来る限り再現してみるから」


 そう言ってブランは手真似をした。入り口がどこにも無かったカウンターにいつの間にか通り道が出来ている。入って来いという事だろうか。シルバに目線を送っても、かるく行けという目の動きだけが帰ってきた。


「では失礼します」


 カウンターに入るとブランに手を洗浄するように言われたので、例のスライムで手を洗った。


「じゃあ、聞かれてよユズの食べたい料理を」


 ―


 私はとりあえず口頭で説明出来る限りの事は言った。


「さあ、どうぞ。食べてみて、美味しく出来たから」


 私の目の前には湯気の上がる丼がある。この香り、この見た目、これは完全にあれだ。

 醤油豚骨油マシマシの極太チャーシュー乗せラーメンだ。

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