8-2
魔獣のいるダンジョンの奥に行くまでは、4日かかる。
今回の目的は魔獣だけで、それ以外のモンスターに
手を取られる事は極力避けたい。
なので、冒険者ギルドのメンバーが中心となった、
先鋒体が、Dクラス、Cクラスのモンスターを
できるだけ排除し、聖水を惜しみなく撒いて進む。
そのおかげで、4日間のうち2日間は、
ほとんどモンスターに出会う事はなく、
怪我人もなく、200人程の王宮騎士達は、
歩みを進めていった。
私もてっきり歩くのだと思っていたら、
聖女4人と私の5人には、
専門の輿が用意され、それに乗っての移動となった。
男の人達に担がれるのに抵抗はあったが、
過去ずっとこうだったと言われ、従う事にした。
ちなみに、輿には強い防御魔法がかけられており、
輿の中にいる限り、身の安全は保障されている。
「辛くはないか」
「お気遣いありがとうございます、リュミエール様」
周りは皆、婚約者だと知っているが、
リュカ様の立場を考え、あえて他人行儀なやり取りをしている。
きりりとしたリュカ様は、スーツをピシリと着た、
サラリーマンで、普段の犬のような姿とは全然違う。
これが王太子としてのリュカ様かと、
惚れ直してしまう。
自分にだけ向けられた、優しい笑顔や、
甘い顔も嬉しいが、部下達に慕われ、
意見を受け入れながら、適切な指示を出していくリュカ様は、
また違う魅力を感じる。
この姿を見れただけでも、参加して良かった。
そんな風に、リュカ様を見て入れたのも、
ここまでだった。
3日目、とうとうダンジョンの奥に入り、
強いモンスターと戦闘になる。
力の限り、回復魔法を使うが、
それでも死んでいく人もいる。
この世界で人が戦闘で死ぬのを見るのは、
始めてだったのでショックを受ける。
「セレーネはよくやってくれているよ」
リュカ様が慰めてくれるが、首を横に振る。
力が足りてない自分が悔しい。
聖女の1人リタさんは羨望の眼差しで見てくれる。
「普通、回復は30人が限度ですのに、
毒の池でダメージを受けたほとんどの人を回復
してしまわれるなんて、奇跡ですわ」
「それは、この杖の力よ」
暗に自分の実力ではないと言ったが、リタさんは続ける。
「魔獣討伐は200人程の編成で行きますが、
帰ってくる者は30人程だと言われています。
それが、3日目とは言え、亡くなったのは3人だけ、
これは本当に凄い事なのですのよ、
それにこれだけポーション、ハイポーションがあるのも
セレーネ様のおかげですわ!」
「ありがとう」
暗い笑顔で何とか返す私に、リタさんは言葉を詰まらせた。
4日目、とうとう魔獣の住処についた、
これ以上は誰も死なせたくない!
弱っている場合ではない、私は回復魔法の使い手として、
この場にいるのだ、ならその最大限の仕事をするだけ。
とうとう魔獣をこの目にする。
冒険者ギルドでイラストは見ていたが、
魔獣はそれ以上に禍々しい姿をしていた。
大きな体に似合わず、動きが早く、
火魔法で広範囲攻撃もしてくる。
次々と運ばれてくる負傷者に、後方で回復魔法をかけながら
考える。
苦しそうなうめき声を上げる兵士達、
大きな傷に、おびただしい血の量、
頭がふらふらしそうになるのを、なんとか堪える。
落ち着くのよ、ここはゲームの世界、
ならば必ず攻略があるはず!
今は騎士達が向かっても、ほどんど傷つけられていない、
正攻法で攻撃しても駄目なんだわ!
何か攻撃のパターンか弱点があるはず。
杖のおかげで、倍回復魔法使えるので、
私はまだ余力があるが、リタ達はもう力つきている。
ポーション、ハイポーションも限界がある、
これ以上の消耗戦では、死人がまた出てしまう!
目をぎゅっとつむって、手を握りしめた時、
魔獣の姿が脳裏に浮かんだ。
そういえば魔獣って、ティラノサウルスみたいな姿をしていた。
ティラノサウルスは確か尻尾でバランスを取っていたはず、
なら、この魔獣も尻尾を封じてしまったら、
バランスを崩すのでは?
思いつきだが、試す価値がある!
「リュミエール様を呼んで下さい!」
私の言葉に、控えていた騎士が、リュミエール様を
呼びに行ってくれる。
その間、遠目に魔獣の姿を見、尻尾が動き、
バランスを取っている事を確信した。
「セレーネ、どうしたんだ」
リュカ様が心配そうに聞いてくれる。
「尻尾です」
「尻尾?」
「はい、魔獣は尻尾でバランスを取っています。
氷魔法で尻尾を凍らせ、足を攻撃し、転ばせれば、
少なくとも火魔法攻撃はできません。
起き上がるまで、チャンスが生まれるかも!」
リュカ様は
「分かった」
と言って、私の頭にポンと手を置いて、
騎士達の所へ向かって行った。
私は遠くで見ている事しかできない。
祈るつもりで見ていると、尻尾を凍らせられた魔獣が、
ズドン!と大きな音を立てて倒れ、
「突撃」
と言うリュカ様の声が響き、
同時に騎士達の雄たけびが上がった。




