願いが叶うおふだ差し上げます
「あなたが望む自分になれるおふだを差し上げます」
目の前に座る和服姿の男性の甘美な声が静謐な室内に響く。頭を優しく撫でるような言葉に清野美久の瞳から熱い雫が落ちた。
大学4年生の美久は夏が終わり、世間がハロウィンに浮かれている今でも就職活動中だ。内定はなし、面接は50連敗中、履歴書を提出した企業の数は数えることすら苦痛になった。
元々やりたいこともなく、読者以外に趣味もなく企業にアピールできることなどなにもなかった。自信を失い、悔しさと焦りが募るばかり。
偶然耳にした噂に美久は興味を持った。ある小さな神社でおふだをもらうと夢が叶うという、よくある都市伝説やパワースポットのような話だった。SNSで調べると、おふだによって恋人ができた人、出世した人、コンプレックスを克服した人の体験談が見つかり、気づけば美久は就職活動を疎かにしておふだを探していた。
「もしもし?聞いていますか?」
「ハッ!すみません。なんでしたっけ」
美久は姿勢を正し、神社の主という痩身の男性に尋ねる。男は優しい口調で続けた。
「まずは、あなたが望む自分とはどんな姿ですか?」
美久は就活と同じように準備してきた内容を答える。
「私が望むものは自信です。子どもの頃から他人と比べて自信が持てなくて、自信に溢れた自分になれば就活だって上手くいくと思うのです」
「いいでしょう。ただし、おふだを差し上げるには一つ条件があるのです」
「条件ですか?」
「はい、あなたの夢見る力をいただきたい。望みを叶えるには代償が必要ですから」
美久は即答できない。自信が手に入るなら夢など差し出せばよいのに。どうしても頷くことができない。
「ごめんなさい、夢を差し出してまで誰かに貰った自分はいらないです。気付かせていただきありがとうございます。私、背伸びせずに地道に頑張ってみます」
「そうですか。あなたのような人は久しぶりです。多くの方がおふだを貰いに来ましたが、皆さん欲に目がくらみ、目の前の問題を仮初の力で解決できれば満足のようでした。未来を夢見て、ゆっくりでも歩いて行く。それもまた人なのですね。」
男は温かく微笑み袖を振る。お香の良い香りに美久はうっとりとした。
美久はいつの間にか駐車場に立っていた。誰かに応援されたような気がして振り向くと、夕日に照らされた小さな祠。瓶ラムネをお供えして美久は来た道を戻る。大きく伸びた己の影を一歩ずつ追いかけていく。
ご覧いただきありがとうございます。
頭で考えている間に話が膨らんでしまい、相当内容をカットすることになりました。
もっと長い文章でこの物語を書きたいです。