表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

Subtain

  私は少しひねくれた性格を持ったとあるソフトウェアベンダーの独身男性32才PMプロジェクトマネージャーだ。私の仕事はクライアントの会社と直接交渉し、顧客が求めるソフトウェア・ツール・解決策を提供できるよう調整を図ることだ。

その私が今、東京の超高層ビルに社を構える大規模クライアントと大都会を望める会議室で交渉していた。私が座る対面で今回のプロジェクト担当の専務が私が広げた資料を一枚ずつ、しかし何度もめくっては戻しを繰り返しながら読んでいた。私は専務の顔が優れないと分かると恐る恐る声を出す。



「どうでしょう。御社の要求をなるべく低コストで、かつ最も効果的に性能を発揮できるよう仕様を設計してみたのですが」


専務は手に持っている資料をテーブルに置くと、一息吐き、難しそうな返答をする。


「まあ、確かにウェブページとクラウド、AR合成を使ってのモデルハウス投影は良いシステムで尚且つ既存のものを生かせるから低コストで割りに効果的だろう。」


私は「何か引っかかるところでも・・・?」と聞く。私にとってこの手の依頼は4度目だ。今まで3度あったが、どの場合でも低コストさを売りに提案して成功してきた。今回もそう難しくなく成立すると考えていた。


「確かに低コストのわりに高パフォーマンス・・・だがなぁ、無いんだよなあ、重要なものが」


重要なもの?見積もり明細はある、計画予定表もある、法規も。もっと他にも考えられるが、一体。

私は少し息を呑んだ。


「この計画、足りないんだよ、『革新性』が。『新技術』が」

「え?」


「いやね、最近結構あるでしょ。人間の生活スタイルを完全再現できる人工知能とか、分散暗号化処理を可能にするクラウドとか、あとフルダイブVRソリューションとか」


私は豆鉄砲を食らったように目をパチパチさせた。


モデルハウスをその場にいるかのようにユーザーに体験させる解決策を現実的なコストで提供可能な技術で提案した。なのにいきなりフルダイブVRだと。

「いや、あのですね。確かにフルダイブVRは仮想現実空間を用いて現実そのもののように感じられる、それこそ木の匂いから動物皮のざらざら感、水の冷たさまで再現できます。ですが、住宅は仮想現実ではなく、現実の場所に建てるものであって・・・」


専務は苦虫を潰したような顔して首を変な方向へくねらせ始める。頭を抱え、「足りない、足りない。」と呟きながらあっち向いたりこっち向いたり窓の外の東京を見たりしている。これはよろしく無い空気の流れだ。


とたん、専務は「ハッ」となり手のひらを打った。考え直してくれたか。

「むさみく〜〜〜ん。お茶出して」


なんとお茶の注文なのだ。時間をかけるのは構わないが、少しイラっとする反応だった。


数秒待つと、コツコツと言う足音のすぐ後に会議室の扉が開けられた。顔が少し膨れたおおよそ綺麗とは言えない30代女性が盆に湯飲みを載せて専務の方へ歩いていく。女性社員が湯飲みを置くと、専務は斜に構えるのだ。


「サイトウくんなの。え〜君かぁ。むさみくんはどうしたの」

女性は本当に素っ気なく答える。まあ仕様がないだろう、そんな反応では。

「むさみさんは『遅い昼食をとってます』ということだそうで。代わりに私が」


専務はわかったわかったと次はむさみという女性社員にお茶菓子を出させるよう頼んだ。全く、無茶苦茶な仕様要求だけでなく、仕事中というのに見た目で人を贔屓するのかぁ。


私の印象はただ今結構良くない。またもや専務は苦虫を潰したような顔して首を変な方向へくねらせ始める。頭を抱え、あっち向いたりこっち向いたり窓の外の東京を見たりしている。


専務は「ハッ」となり手のひらを打った。今度こそ考え直してくれたか。いやどうやら違ったようだ。急に社員で集まって飲み会した話とか、会長と高級料亭に行ったって話とか、社内の恋話とかつらつらと語り始める。私は『はあ、はあ。そうですか。』とそれっぽく流す手段しか持ち合わせていない。会話の話題が会長の近況に移った。私は結構興味があるのでそれを深く聞いてみる。


「いや〜そう言えばね、君に話すのも変な話なんだけどね。最近、会長が珍しく一週間ちょっとの休養をおとりになったらしくってね。なんでもVRゲームをしてたって言うらしんですよ。やっぱりさすが会長!最新技術に敏感でいらっしゃる」

今度は怪訝になる。


「まあこれも変な話でね、先ほどお茶を出してくれたサイトウくんと私の部下のオオタくんも全く同じ時期に休みをとってたみたいでね。全くみんな何してるんだろうなあ。ねえ。まあ、他社の君に聞くことでもないんだけどさ」


そうか、みんなそうか私たちは人間なんだ。そして私は少し茶々を差し込んでみる。


「ああ、そんな偶然がお有りなんですね。奇遇にも私めも同様に一週間ほどお休みを頂いていたところで」


専務はソファから乗り出して素っ頓狂な顔をする。結構な驚きを与えたようだ。裏返る声で「ええ、君もなの?」と。


 そう、時は一週間より少し前に遡る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ