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4話「決意と後押し」

 昼休み。


 俺はいつものように一人で弁当を食べる。

 田中さんは仲の良い女友達と机を付き合わせて弁当を食べ、山田さんは教室には居なかった。


 田中さん、彼氏の樋山くんとは弁当食べたりしないんだななんて事を考えながらも、まぁ自分には関係の無いことだよなと弁当を食べることに集中した。


 ちなみに今日は金曜日。

 実は昨日、学校終わりに駅前にある美容室をついに予約したのだ。

 何故金曜日なのかと言うと、それは髪を切っても土日を挟んで多少は時間を空けることが出来るからだ。

 もし俺なんかが平日に髪をバッサリ切ってこようものなら、昨日の今日でイメチェンしてきた事を絶対皆に笑われるに違いないからだ。


 だから今日俺は、この長く伸びきった髪の毛をバッサリ切ってやるつもりだ。

 オマケにそこの美容室は、フェイスケアまでしてくれるサービスもあるようなので、自然に生え揃ったボサボサの眉毛なんかも全部一通り整えて貰う予定だ。


 これまでは、こんな陰キャな自分が美容室に行くなんて考えられなかった。

 行ったら笑われるんじゃないか? 烏滸がましいのではないか? とネガティブなイメージばかり浮かんできたのだ。


 でも、この前俺は見つけてしまったのだ。


 動画サイトで、俺みたいなタイプの人間が美容室へ行くことで、見違えるようなイケメンに生まれ変わっていく動画を――。


 それは俺にとって、あまりにも衝撃だった。

 これから生まれ変わろうとしてる自分に、まるで希望の光が射したような気持ちになった。


 正直、俺なんかが彼らと同じように変われるのかは分からない。

 もしかしたら、彼らのベースが実はイケメンなだけだったのかもしれない。


 でも俺はもう、前に進むと心に決めているのだ。

 このあと本当に美容室へ行くのだと思うだけでドキドキしてきてしまうのだが、もう覚悟を決めていざ美容室へ向かうしかないのであった。



 ◇



 そして、今日も滞りなく一日の授業が終わり下校する。


 ついに俺はこれから、美容室へと向かう。

 教室を出て階段を降り、下駄箱で靴に履き替えてから駅へと向かう。

 そしたら、いつも通り電車に乗るのではなくて、そのまま駅前の美容室へと入るんだ。


 そして受付で、「予約している山田です」と伝える。

 

 ――よし、これで良いはず、だ。


 そんなこれからの行動を全て脳内でシミュレーションしながら、俺はついに席を立った。





 先程のシミュレーション通り階段を降り、下駄箱で靴に履き替えたところで、俺は突然声をかけられた。


「あ、太郎くんだ」

「え? あ、山……華子さん?」

「うん、ちゃんと覚えてたね」


 振り返るとそこには、山田さんがいた。

 山田さんは、苗字ではなくちゃんと名前で呼んだ事に、満足そうに頷いていた。


「太郎くんは、これから帰宅?」

「あ、うん。ちょっと寄るところがあるんだけどね」

「へぇ、どこ?」

「び、美容……室だよ……」


 こんな美女を前に、これから美容室へ行くというのがなんだか物凄く恥ずかしかった。

 無個性陰キャの俺なんかが、何色気付いてるの? って笑われるのが怖くて、思わず下を向いてしまう。


 だが、ニコニコと楽しそうに微笑む山田さんから返ってきた言葉は、俺が想像していたものとは違った。


「うん、いいね。きっと太郎くんの世界は変わるよ」

「え? それはどういう……」

「近くで見て分かった。太郎くんなら大丈夫」

「だ、大丈夫? え?」

「それはこのあと太郎くん自身の目で確かめると良い。来週楽しみにしてるね。バイバイ」


 そう言うと、山田さんは手を振りながらそのまま駆け出して行ってしまった。

 走り去っていく彼女の後ろ姿すらも、まるで映画のワンシーンを見ているかのようにとても美しかった。


 でも、今のちょっとしたやり取りのおかげでなんだか勇気とやる気が増した俺は、それから駅前に向かうとそのまま堂々と美容室へと踏み込む事が出来た。


 だって、あんな美少女に大丈夫って言われたんだから、きっと大丈夫に決まってるって気持ちになれたんだ。


 ありがとう、山田さん。



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