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2話「同じ名前」

 昼休み。


 転校生の周りには人集りが出来ていた。


 それは、クラスメイトだけではない。

 何やらこのクラスにとんでもない美人の転校生が来たぞと聞き付けた他のクラスの人まで、廊下から教室を覗き込んではワーキャー騒いでいるのだ。


 なんだかあれだな。

 同じ無個性ネームの持ち主なのに、こうも雲泥の差があるのかと思うと少しだけ悲しくなってきた。


 俺はこの名前のせいで、これまで散々笑われたり辛い思いをしてきたのだが、それはもしかしたら名前を言い訳にしていただけだったのかなとさえ思えてきた。


 まぁ、俺は純正山田太郎だけど、向こうは山田華子だ。花子じゃない。


 ……いや、待てよなるほど。確かに向こうには俺と違ってちゃんと華があるじゃないかなんて事を考えていたら、少しだけ可笑しくなって1人で笑ってしまった。


 まぁ、名前が近いだけで、俺と彼女が交わることはないだろう。

 それはそれとして、俺も転校生程じゃないにしろ、多少はまともな人間に生まれ変われるように努力しないとだな。


 そんな事を考えながら、午後の授業もいつも通り過ぎ去って行ったのであった。



 ◇



 下校時。

 俺はのんびり帰り支度を終え、ほとんど人が居なくなった教室を出た。


 下駄箱へ向かうと、そこには何故か話題の転校生が一人で立っていた。


 別に立っているだけなら気にならないのだが、立っているそこは俺の下駄箱の前なんだよなぁ。


「あの、山田……さん? ど、どうかしました?」

「……無いの」

「え? 無いとは?」

「私の靴……」


 あぁ、なるほど。今日転校してきたばかりだから、自分の下駄箱が分からなくなったのか。


「これは貴方の……よね?」

「あ、うん。同じ山田だからね。女子はもっと奥の列だよ」


 今山田さんの立っているのは、男子の下駄箱ゾーンだ。

 2年生の女子のは、2つ奥の列になる。


 ……というか、俺が山田ってこと覚えててくれたんだな。


 仕方ないから、俺も一緒に山田さんの下駄箱を探すと、同じクラスのところに真新しいネームシールで「山田」と書かれた下駄箱をすぐに発見できた。


「ここじゃないかな?」

「あ、そうだった、ここだ。ありがとう」

「いえいえ、そ、それじゃ」


 無事下駄箱も見つかった事だし、こんな超絶美人と会話するのもそろそろ限界だったため、俺は早々にこの場から離れる事にした。


「あ、あの……」

「ん? な、なにかな?」

「本当に太郎って、言うの……?」

「あーうん、山田太郎。本当に居たのって感じでしょ? こんな無個性ネーム」


 そこまで言って、俺はハッとした。

 いつもの自虐癖で言ってしまったが、今目の前に居るのは山田華子さんだった。

 言わば、同じ運命を背負いし同士だった事を忘れていた。


「……ふふっ。じゃあ一緒、私は華子。同じ」


 俺の自虐を受けて、面白そうにコロコロと笑いだす山田さん。

 その浮かべた笑顔は、とても可憐で美しかった。


 そして、俺は一つ気が付いた事がある。

 それは、俺もクラスの皆同様、転校生の事が気になって実はチラチラと山田さんの様子を伺っていたけれど、山田さんが笑っている姿を見るのは今日これが初めてだった。


 その事に気付いた俺は、人生で初めてこの名前で良かったなと思えたのであった――。



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