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初めて失恋した陰キャな俺だけど、人生本気出すことにした  作者: こりんさん


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28話「過去」

 食事を終え、俺はお礼にと洗い物を手伝った。


 人の家だから勝手が違うが、俺が洗い終えた食器を山田さんが拭いて片付けてくれたためスムーズに終える事が出来た。


 そうして、食事というここへ来た目的が終えてしまった今、俺はこれからどうしたらいいのか本気で戸惑っていた。


 山田さんに「あとはやるから座ってて」と言われて、先程食事をしていた席に座り、意味もなくテレビを見ている。

 しかし、テレビで流れる賑やかなバラエティ番組の内容なんて全く頭に入ってこなかった。


 暫くすると、山田さんはマグカップを二つ持って戻ってきた。

 そして一つを俺の前に置くと、山田さんは俺の隣に座った。


 さっきは食事をするという目的があったからまだ大丈夫だったけど、こうして改めて隣に座られた事で緊張が一気にピークへと達してしまう。



「太郎くん、今日は一日ありがとね」


 隣で俺の顔を覗き込みながら、山田さんから話しかけてきた。

 俺は今日何度目かの「こちらこそ」と返事をすると、何を話していいのか分からず、再び二人の間には沈黙が生まれてしまう。


 隣に座る山田さんからは、甘い女性らしい香りがする。

 それだけで、俺のドキドキは止まらなかった。



「……私ね、転校ばかりしてきたから、よく分からないんだけどね……」

「え? うん?」


 山田さんが転校ばかりしていたのは知ってる。

 ただそれで、何が分からないというのか全く予想がつかなかった。


「……中学生になった頃ぐらいから、私は色んな男の子に声をかけられるようになったの。それまで私の名前をからかってきていたクラスの男の子達が、急に私の事を女の子として見てくるようになったんだ」


 山田さんは、ゆっくりと自分の過去を語りだした。

 俺はその話を、黙って聞くことにした。


「そのうち、色んな男の子から告白されるようになった。でも私は、よく知らない男の子から告白されても困るから、全部断り続けたの。でもそしたら男の子達は、裏で誰が私と付き合えるかゲームを始めてた。それからは毎週のように違う男の子から告白されていた私は、次第に女の子達からよく思われなくなってきて、調子に乗ってるとか色々言われるようになったの。名前を馬鹿にされたりもしたわね」


 男子から次々に告白される山田さんに、女子達は嫉妬したのだろうか。

 しかし、山田さんは何もしていないのにそれはあまりにも酷すぎる話だった。


「親の都合で、その中学から転校して新しい中学に行っても、状況は変わらなかった。だから私はね、周りの子に対して距離を置くようにしたの」


 いつも何故山田さんは他人に無関心だったのか、その理由が語られた。

 天然だからとかではなく、普段の山田さんの対応にはちゃんと理由があった事に驚いたのと同時に、その理由が悲しくて辛い気持ちになった。


「でも、私は太郎くんとはこうしてお話出来てるでしょ? それがとても嬉しいの」


 そう言うと、山田さんはこちらを向いてニコリと微笑んだ。


 全ての異性から距離を置いている山田さんは、何故か俺とだけは普通に接してくれる。

 その理由は、偶然名前が同じ無個性ネームだったからだろうか、それともあの日偶然下駄箱前で話をしたからだろうか。

 理由は定かではないけれど、俺達は今こうして普通に接していられる間柄になった。


 それは俺だって嬉しい事だ。

 山田さんと知り合えて、本当に良かったと心から思っている。


「転校してきたとき、太郎くんの名前を聞いて驚いたわ。私と同じだって」

「あぁ、それは俺も思ったよ」

「フフ、だからかな、私はその時から少しだけ太郎くんの事が気になっていたの」


 山田太郎と山田華子。

 そんな無個性ネームの二人が同じクラスになるなんて、酷い冗談かと思った程だ。


「それから太郎くんは、困ってる私を助けてくれた。……それになによりね、太郎くんはあの時私を変な目で見てこなくて、普通に接してくれたのが本当に嬉しかったんだ」


 そう言って、懐かしむように微笑む山田さん。

 あの時の俺は、まだ無個性陰キャを絵に描いたような男だったから、こんな超絶美少女の山田さんに対してもどうこうしようなんて全く思いもしなかった。


 というか、女子に声をかける事すら本当は無理だったんだ。

 あの時は、俺の下駄箱の前に居たから仕方なかったというのと、名前が同じだったから少しだけ山田さんに興味があったから出来た事だった。


 だから本当に、あの時はただの偶然が重なっただけだったという事を俺は改めて実感した。


「……それにね、私だって女の子だから」


 山田さんは、俺の顔を覗き込みながら少しだけ顔を近付ける。

 そして、恥ずかしそうに頬をピンク色に染めながら、山田さんは小声で言葉を続けた。




「……髪で顔を隠してたけど、近くで見たら太郎くんが格好いい事ぐらい、すぐに気付いてたんだよ?」




 その言葉は、俺を赤面させるには十分すぎる言葉だった。

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