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初めて失恋した陰キャな俺だけど、人生本気出すことにした  作者: こりんさん


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27話「晩御飯」

 駅前にある、この街で一番大きいマンション。

 当然セキュリティもしっかりしており、住居者の承認が無ければ入る事が出来ない扉の先に、何故か俺は入ることが出来ている。


 そしてそのままエレベーターに乗ると、十五階で止まった。

 あとはエレベーターから出て少し歩けば、一つの扉の前へと辿り着く。


「……あ、あの」

「どうぞ、入って」


 やっぱり不味いんじゃないかと思い声を発するも、気にしない様子でそのまま部屋へと招かれてしまった。


 こうして、俺は学年、いや学校一の美女である山田さんの家へと、何故かノコノコと付いてきてしまったのであった。


 未だに、自分の状況がよく分からない。

 招かれるまま俺はリビングへ入ると、そこにはうちなんかよりよっぽど広くてキレイな空間が広がっていた。


 ただそこには、フカフカのカーペットの上に、部屋の大きさの割にはこじんまりとしたテーブルが一つと、周りにクッションが三つほど置かれ、壁には五十インチぐらいあるだろうか? 大型のテレビが1つ置かれているだけだった。


 なんというか、部屋が広い分余白が目立ち、ほとんど生活感が感じられなかった。


 でもそれもそのはずだった。

 何故なら、山田さんはこんな広い家で一人暮らしをしてるんだから。


「その辺に座っててね」


 山田さんはクッションを一つ俺の前に置くと、テレビの電源を入れた。


 そしてそのまま、山田さんはキッチンへ向かい買い込んだ食材を並べていた。

 リビングがこの広さなら、キッキンもかなり広かった。

 あれだけ広かったら、料理する気にもなるんだろうなぁーなんてぼんやりと考えながら、俺はする事も無いためなんとなくキッチンを眺めた。



 って、それじゃ駄目だろ俺!


「あ、あの! 華子さん!」

「……」


 気を取り直した俺は、山田さんに話しかけた。

 しかし山田さんは、絶対聞こえてるはずなのに返事をしてくれない。

 それはまるで、次の俺の言葉を聞きたく無いといった空気を放っていた。


 でも俺は立ち上がると、料理の準備をしている山田さんの隣に立ち、もう一度話しかけた。


「あの、華子さん」

「……ダメだよ」

「え?」

「……やだ、ご飯だけでも食べて行って」


 あぁ、なるほど……。

 山田さんは、どうやら俺が帰ろうとしていると思っているようだ。


 俺の目を見ることなく、小さい声で拒否する山田さんは、思わず抱き締めてしまいたくなるほど愛らしかった。


 でも、俺はそんな気持ちをぐっと堪えながら言葉を続ける。


「違うよ、手伝おうと思って」


 そう言って俺は、置かれたジャガイモを手に取り水洗いを始めた。

 もう部屋へと上がり込んだ時点で全て後の祭りなのだ。

 だからもう、変な事さえ起きなければ、多分問題はない……多分。


 山田さんは、俺が帰ろうとしているのでなく手伝おうとしていた事に驚き、そして嬉しそうに微笑みながら一緒に調理を開始した。



 ◇



 出来上がったのは、肉じゃがだった。

 買い物していた時はカレーかなと勝手に思っていたが、どうやら違ったようだ。


 炊きたてのご飯と、お味噌汁、おかずは肉じゃがに元々あった野菜で作られたサラダが、俺の前に並べられた。


「冷めちゃうから、早く食べよ」


 食事を並べ終えた山田さんは、ちゃんと手を合わせて頂きますをしたあと、肉じゃがを一口食べて安心したような表情を浮かべながら「うん」と一度頷いた。


 俺も、ほとんど山田さんが作ってくれた肉じゃがを一口食べてみる。


 なにこれ、めちゃくちゃ美味しい……。


 それに、ご飯もきっと良いお米を使ってるのか家で食べるご飯よりも美味しいし、お味噌汁も出汁が効いててとても美味しかった。


「どれも凄く美味しいよ。やっぱり華子さん、料理上手だね」

「良かった、うん、料理は自信あるから」


 俺が素直に料理の腕を褒めると、山田さんは謙遜する事なく嬉しそうに笑った。


 それにしても、改めて俺は今山田さんの手料理を食べてるんだなと思うと、なんだか感動で胸がいっぱいになった。


 ちらっと横目で山田さんの様子を伺ってみる。

 山田さんは隣で嬉しそうに食事しており、それだけで本当絵になるよなぁとドキドキしてしまったが、山田さんの方はこの状況を全く気にしている様子は無かった。


「やっぱり、誰かと一緒に食べるごはんは美味しいね」


 そして、そんな山田さんのその一言で、何で山田さんがずっと嬉しそうにしているのかが分かった。


 そうだった――。

 山田さんはこの街に来てずっと1人だったんだ――。


 一人の辛さは俺がよく分かっているはずなのに、この状況に一人浮かれてその事に気付けなかった自分が情けなかった。


 だが、反省するのはあとにしよう。

 今は、こうして誘ってくれて一緒に食事までしている山田さんの事をちゃんと考えるべきだ。


 そう気を取り直した俺は、手に持ったお茶碗を一気に掻き込んだ。


「そうだね! とっても美味しいよ! あの、お、お代わりってあるかな?」


 そう言いながら、俺は山田さんに向かってお茶碗を差し出す。


「え? フフ、ちょっと待っててね」


 急にご飯を掻き込んだ俺に驚きながらも、山田さんはコロコロと笑いながら俺の差し出したお茶碗を受けとると、キッチンにある炊飯器からご飯をよそってくれた。


「はい、どうぞ」

「あ、ありがとう!」


 山田さんは、食事を再開した俺の事を嬉しそうにしばらく眺めていた。


 正直見られながら食事をするのはとても恥ずかしかったけれど、それでも山田さんが嬉しそうに微笑んでいる事が嬉しかったから、俺は気にしないフリをしながら食事を続けたのであった。



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