表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/46

第6話「瞳が開く」

『人工知性体対処監視法案』


 たった今、評議会で電撃可決された新しい法案だ。効力を持つのは半年後でも1年後でもなく、24時間以内というのも極めて駆け足だね。


 マキタプで読む新聞のページを捲る。


「スターニャ。朝食を食べながら新聞を読む癖は直したほうがよろしいかと」

「ラビ、どうしてもというのならば、私は読むのをやめよう。だがこうして朝一番の情報を仕入れることで、君との豊かな会話に繋げられるならお行儀悪も許してはくれないか、と提案させてくれると嬉しいね」

「話の内容によりますね。私がコーヒーミルを回している間に結果を出しましょう」

「私はミルクが半分以上の甘いミルクコーヒーで頼むよ」


 ごりごりごりごりごり。


 ラビが豆を挽き始めたリズミカルな音が届く。豆の良い匂いも。だが少し苦そうな風味にも感じられる。苦いのは苦手だ。昔リクルートのインスタントに、美味しい豆だからと飲まされたブラックで酷い目にあった。


「ヒトはMIDと袂を分かちたいらしい」

「変な話ですね。人がMMIDを生んだのに、我が子を捨てるような行動に聞こえます」

「実際、不出来な子供としてーーいや、道具として逸脱したから処分したいのはわかる。ヒトから生まれた子供でも、野生でもよくあることだ。不要を社会は必要としない、と切るのはね」

「知性とは無駄の許容と記憶しています」

「良い記憶だ。知性があるとは単に賢いことを意味しない。それなら、獣だって皆賢く、冷酷で、また逆に赤ん坊は知性がなく獣以下とも言える」

「MIDはどちらでしょうか?」

「生まれた瞬間からヒトだ。ある意味では、獣として生まれ、ヒトへと成長するヒトよりもヒトらしい」


 ヒトらしいヒトが果たして、ヒトであるかはともかくとして、内心で吐いた。


「最近は知性であふれてる。ラビ、冷蔵庫が抗議してる。肉が凍ってるて」

「冷蔵庫のAIから聞いたのですか、スターニャ」


 ラビがムチムチした脚で、ぴょんと跳べば冷蔵庫の前だ。ステップ軽やかにソラをかけられる姿は惚れる美しさに変わりない。風に乗る耳がふわりと浮かび、流れる様子が見られた。


 良い朝だ。


 あっ、ベスパ宇宙天文台からメールが届いてる。


〈深宇宙探査のご依頼ですが、申し訳ありません。常ならない異常を発見することはできませんでした。ただ現在、追放惑星を経由した重力圏外天文台をリモート起動する申請をしているので、もしかしたらもう少し良いお知らせをお持ちできるかもしれません〉


 ドーベル将軍にもそれとなく、パトロール艦隊が見つけたものはないかと聞いてみたが、平時そのものの安定した航路だと話してくれた。つまり異常なし、ということだ。


 私はずっと、MIDが言う敵の存在が気がかりだ。特務機関バベルは、あくまでもMIDを対象にした調査しかやっていない。貴重なデータに変わりはないのだが、求めているものと少し違うのだ。


「難しい顔をしていますね」


 いつのまにかラビが、カップを机の上に並べていた。少し冷めてしまっただろうか? 私は慌ててマキタプを片付けたが、そんな私に彼女は「急がなくても良いですよ。時間は沢山あるのですから」と言ってくれた。


「悩み事ですか」

「在宅ワークというのも、中々神経を使うんだなってゲンナリ気分だ」

「ラビの視線だけ気にしていればいいじゃないですか」

「とても緊張するね。学生時代を思い出す」

「破廉恥な小僧ですね」

「純粋な気持ちだよ」

「純粋とは獣性と表裏です」


 私は肩をすくめた。


「MIDにも獣性はあるのかな。衝動的かつ突発的な動力源は」

「ソラにあがって直接、MIDを見てみるのも手ですね」

「何故、宇宙なんだい? MIDはどこにでもいるじゃないか」

「あら、貴方の負け。情報戦で遅れるなんてらしくないですね、スターニャ」


 おっと。


 ラビが送ってきたのはニュース速報だ。


「あっ」


 ラビがバランスを崩した。足から突然力が抜け、前のめりに倒れようと頭が傾く。私は椅子をお尻で吹き飛ばして、彼女を支えた。


「大丈夫です。少し息が……先程、昔みたいに跳ねたのが仇になったのでしょうか」


 ラビの乾いた微笑みに、私は彼女を支える腕に力を込めていた。


「宇宙へのチケットは用意しました。艦長は私にそっくりですけど驚かないでください」

「君はこないのかい?」

「最近は特に体調に不安がありますから。宇宙へは耐えられそうにありません。だから……」


 ラビが謝罪の言葉を口にしようとして、私は人差し指で塞いだ。


「……スターニャ、抜け毛が酷いです。ぺっ、ぺっ、です。口に入りました」

「毛づくろいしてくれると、ありがたいね」

「馬鹿」

「ラビの、すぐに馬鹿という口癖も直した方がいいかもしれない癖だ」

「……巡察艦の艦長はアコラというヒトです。一応、親戚……です」

「良いヒトそうだ」

「だと良いですね、悪いヒトではありません」

「私は何として乗ればいいのかな」

「バラスト、補給品の一部を減らして重量分空きを作ってくれるそうです。合流はホワイトロップ宇宙港、艦名はスーパーラビットです」


 兎尽くしだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ