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【完結】紅紅を一滴/機械仕掛けと異形の友人を救え  作者: RAMネコ
第7章「アルファ・アタック」
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第31話「ホットリバー決戦敗退後」

 宇宙は……今?


 私にそんなことを気にさせる暇はない。そんなことよりも目の前のパラサイト突撃部隊を粉砕して、押し返して、撃滅しないと。


 雪の冷たさを感じない。風の硬さを感じない。パワースーツの能力は高かった。だけど、戦場の熱を感じた。


「戦車砲! 支援砲撃ー!」


 戦車、ニンゲンの記憶にある戦車はいつからか無限軌道の履帯ではなく脚にもなるようになっていた。変形し、四脚で崩れた土を潰しながら起き上がり、まともに耳に入れば鼓膜を破壊する戦車砲の砲声が轟く。


 パラサイト側の多脚戦車も蛸のような脚で障害を薙ぎ倒しながら頭の主砲を撃つ。戦車同士の撃ち合い。その中で歩兵がライフルを飛び交わせ、ぶん殴り叩き潰す。


 ヒト、ヒト、ヒト。


 地平線の先から丘の裏まで、ヒトが大地を彩り、色彩の変化はパラサイトと交戦している潮目だ。


 肉眼で確認すれば、パラサイトは明らかに異質な生命だった。中には私の知るライオンズ星系のヒトや生き物がいるが、まったく知らない生き物もいる。


 不気味に身悶えする触手が硬質化、部分的結晶化で軽量の銃弾なら弾く装甲皮膚を突き破り、裂けた肌は岩のようになっているのは、ちょっと生き物感がないけど。


 パワースーツが走り抜ければ、半分生命化した戦車に飛び乗り、振り落とされながらも対戦車兵器を撃ち込む。

 

 パラサイト軍が一方的に不利になれば軌道上から爆撃されるからこそ、自走対宙砲台が空を狙った。強固なシールドと粒子ビームを備えたこの巨獣は最大級の個人MIDで、水平射撃ならパラサイトの一部隊を重装甲無装甲問わず蒸発させ、簡易要塞並みの防御力は頼りにされている。


〈戦況報告〉

「敵は増える一方だ。ホットリバーで決戦を仕掛ける。野戦軍を撃滅し、パラサイト機動戦力を叩く効率をあげるぞ」ウィドォで最初の決戦が、ホットリバーの河川地帯で発生する。同地帯は巨大な、工廠に使うための冷却水を兼ねた人工河川であり、単純に侵入を困難とした防御地域として策定されたが、複数のパラサイト軍集団が溜まり、双方の戦力が高まる。最初に始まったパラサイトの渡河は分解、あるいは『歩いてきた』要塞砲の奇襲砲撃で撃滅するも、パラサイトはパラサイトを巻き込んだ、そして徹底的に軌道爆撃を繰り返し、極僅かな太陽光に影をさす気圏爆撃機の編隊によってホットリバーの河川は蒸発、干上がった河川をパラサイト機甲戦力が突進する。ホットリバー決戦をヒトは制することが出来ず、内陸方面へと戦線は大きく後退した。


 ヒトも機械も泥塗れだ。


 エンジンの唸りの中にはMIDの駆動する反重力由来の極小さな騒音が聞こえる。


「MID、大丈夫か?」


 人工的に作られた機械のヒトに話しかければ、彼あるいは彼女は、微かにモノアイを動かし、


「平気です」


 と答えた。


「そういえば」と私は話題を振る。ウィドォに来る理由になった始めて、MID相手に乗り出した時の話だ。


 MIDの言葉は、ヒトの赤ちゃんが使う喃語というものに似ていて、MIDがヒトを知ろうとしているんじゃないかと考えたこと。


 MIDが囁いていた喃語が、敵を意味する言葉に似ていたことへの衝撃。


 MIDもまたヒトだと思っていること。


 そんな、どうでもいいような話。


「MIDはヒトになりたかったのか?」


 同じ車両に乗った鰐顔がうなだれたまま動かない。瞼を開けたまま、車が跳ねて、その衝撃で倒れて起き上がることはなかった。


「ヒト……もしもがあれば、なってみたかった夢です」

「MIDも夢を見るんだね」

「見ます。そういうMIDは多いですね。ヒトと同じ存在になったらもっと役立てるんじゃないか。これは、MIDでも議論が分かれている問題ですけど、理解は必要という共通の意識があるんです」


 私は、「そうか」とだけ返した。他に何が返せただろうか。MIDがヒトになれないとは言い切れない。ヒトだとは思うが、私の主観だ。ヒトは、ヒトであってもヒトと思えないことがある。


「ところで、オイルを赤色にしたのって」

「ヒトと同じ色のものを入れておきたいですよね」


 血。


 赤いーー血。


 それは生き物である。


 それは、ヒトなのだ。


 私はMIDの体から、止まることを知らない『血』の傷を塞いだ。真っ赤に染み込んでくる血は、彼が生きている証拠でもある。


 MIDもまた血を流すのだ。


 長い道だった。あてもなく走っているわけではなかった。目的地があった。


ーー南極要塞。


 ヒトの義勇軍最後の砦だ。本当に、この要塞しかないわけでもないけど……。ウィドォの極地に建てられた環境コントロールセンターを中枢に、十重二十重の防御陣地や隠蔽砲台が埋め込まれ、拡大を続け、MID達が生産工場を日夜稼働させている。


 私達は南極要塞最外殻のゲートをくぐった。どこも活気に溢れている、というわけではないがMIDが忙しく走り回っている。ソフトスキンのヒトも多いが、やはりMIDが圧倒的に多かった。


 不思議な、しかし当たり前か、MID達に不安や不満と言ったネガティブな雰囲気はなかった粛々と動いている様は「やはりヒトではなく機械なんだな」と感じさせられる、かも知れない。


 だが違う。


 MID達は誰もが……死にたくない、と思っているんだ。生きたい、と考えているんだ。ヒトとまったく同じように。そして、戦わないと、という強い意志を感じた。


 当てられたからか、MIDと接する時間が長いほど不安な気持ちに落ち込んでいるソフトスキンの精神が回復しやすい。負け戦でも、もう駄目だ、という雰囲気はない。


 不思議だ。


 MIDが戦わせている、とも感じる。


 好意的に考えよう。


 皆んなが、誰かのために戦いたいという心が、強くしているのだって。

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