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第30話「一方のマジノ防衛線」

 マジノは地獄だぞ。既に前衛は敗退して、下がらせた。パラサイト艦隊も、本気だな。総力戦じみた戦力だが、まだ本隊のパ・二号がいるとは。まったく素晴らしいではないか!?


 急速に消耗した艦隊の多くを要塞群に収容して再建しつつ……なかなか頭を悩ませていた時だ。


「ウィドォが落ちただと!?」


 ブル将軍が唾を撒きながら叫ぶが副官相当のMIDは冷静に、


「いえ、包囲されただけです。現在ウィドォ防衛艦隊は壊滅して後退、大規模な地上戦が展開中とのこと」

「むぅ……かと言ってこっちも手が離せん!」


 要塞各地から送られるモニターには、要塞表面を遊弋する無数の砲台群がパラサイト艦隊と熾烈に撃ち合う映像ばかりだ。爆散する砲台、火を噴き溶融しながら要塞に突き刺さるパラサイト艦。


 死闘。


 始まりではなく終わりでもない。長らく続いている危うい均衡だ。


 単刀直入の表現で言えば、さっさと逃げ出せ、と尻尾を丸める状況だ。できない理由もあるが、そんなことは格好が悪いからこそ、理性で捩じ伏せた。


 すでに要塞に対しての直接攻撃の火力圏に侵入されている。


 パラサイトめ!


 艦隊が消滅するクラスの要塞砲斉射でも、パラサイトは怯みの欠片も見せず涼しい顔で突撃を継続する。


 命を失うか、時間を失うか。


「艦隊の損耗率は?」

「MIDのおかげで急速にーー」

「今すぐ動かせる艦だ」

「四パーセントです、将軍」

「……我が艦隊は、ウィドォを見捨てる。打って出ることはない。例えウィドォが完全に陥落しようとも」


 コンダクター級MID達にも反論はなかったらしい。不満をぶつけられることはなかった。


 それよりも、これを生き延びるほうが至難の技だぞ。


「中央から援軍が出港したとの情報が入っていますが」

「中央? 星系防衛軍か」

「どこまであてにできるかはともかく、評議会も重い腰を上げようとしているのは面白いかと」

「いつ来るかも、どんな将軍かもわからん援軍など無いも同じだ。そんなことよりも手持ちでなんとかしよう」

「艦隊は擦り切れていますが、要塞の機能自体はいまだ90%以上を保っています」

「篭っていれば少しは食い繋げられる、ということだな」

「はい。しかし要塞砲の発射の度、パラサイト艦隊の突撃部隊が体当たりしてくるのは悩みものです。対艦隊砲が使いにくい」

「肝は要塞砲の機能維持か。砲台群の配置転換だけでは足りないか?」

「パラサイト艦隊は数多いですから」

「そもそも戦力が足りていない。皮を切らせていい。代わりに敵にはこちら以上の打撃を与えろ。総数を減らせればそれだけ長く維持できる。長く耐えればもしもを期待できる」


〈戦況報告〉

「今こそ耐え忍ぶ忍耐が試される時なり。各員、苦しいことと思う。だが耐えよう。夜は必ず明け、朝日は必ずまた登るのだから」要塞がパラサイト艦隊の直接砲撃に晒される。強襲部隊が立て続けに侵入を繰り返し、要塞各所では外壁を突き破った突入魚雷、それから吐かれる突撃歩兵との戦闘に巻き込まれた。要塞内での戦闘はヒトの優勢、現在のところパラサイト艦隊は激烈な斉射を控え、要塞軌道を緩く偏移している。


「ブル元将軍、緊急入電」

「元はいらん、将軍と呼べ」

「内惑星方面より広域通信です」

「内惑星方面からだと?」

「それも……ライオンズ星系内からです」

「……」

「将軍」

「何と言っているのだーーいや、『誰だ』」

「はい、将軍」


〈戦況報告〉

「前へ」星系防衛軍先遣艦隊、パラサイト艦隊哨戒線を突破。

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