第18話「子猫は尻尾を切りたがる」
星を猫殴り団のカッパーは過去の因縁でモヤモヤです。
ソフトスキンーーMIDは鉄の体だ。つまり私達のことだよーーの艦隊は一度解体して、各所でMIDを指揮下とした。MIDは「自分はインストール脱出が可能なので使い捨ててください」と献身に溢れた行動からだ。
商船を旗艦にした分艦隊など、そうは聞かない。だが貴重な『戦力』だ。最前線にはとても出せない。出せないが、ヒトの関わる戦いらしくなった。
「使うドックは手隙のMIDの指示に従ってくれ」
先の艦隊戦で破損した武装商船が次々と修理の為に、ドックへと消えていく。流石にマスドライバーをくっつけてきたただの商船を戦わせることは酷すぎる。マスドライバーも間に合わせの改造らしく、根本的に欠陥があるようだ。射出のたびに艦体を傷つける諸刃の剣、改装と新型艦に関してはMID任せだ。
ーーとはいえ。
船よりも、しかしヒトの数というのは幾らの艦隊よりも心強いことだ。MIDの指揮系統をより細かく分解できる。MIDはまだまだ艦隊戦で可能なのは体当たりくらいなのだ。砲撃戦は教育中なのだ。だがすぐに学ぶだろう。
それまでは、ヒトが直接にMIDと共同してくれればお互いの生存率があがる。コンダクター級、コマンダー級の上位指揮MIDの多くが賛成した新しい編成だが、
「不安かい、コマンダー級」
「ヒトとの混成は統一性を低下させ損害を重ねやすくなる懸念があります」
意見は色々だ。
ヒトだからこそ、当たり前のことと言える。コマンダー級MIDの丸い体を転がしながら機嫌を直した。
彼は少し不機嫌そうにヘソを曲げている。一般MIDと同じように扱ったのは間違いだったかな。お隣さんのMIDくんはこれに大ウケなんだけどな。
見た目がまったく同じだからこそ、ついうっかりだ。
「なら、もっと早く学習しないとね。今のMIDはテレビゲーム素人よりも酷い動きだ」
「……精進する。ところでウィドォのドッキングベイに猫の一団がたむろしているが同胞なのか? 星を猫殴り団と言うらしいが」
「なんだって!?」
私は逃げ出した。出会えばいいことはないだろう。何より殺害予告を出している連中と鉢合わせたくはなかった。
通路で星を猫殴り団に捕まった。
「おうおう、元〜? キャプテン様じゃないかい」
「や、やぁ、カッパー。今日も貴女の銅色の毛並みと三角帽子が最高に似合っているね」
カッパーは美しい。ツヤツヤの毛並みはどんなヒトよりも美を体現しているだろう。褒めちぎった。
ーー途端。
カッパーの美しかった尻尾は、まるで爆発したかのように膨れ上がった。
「世辞をありがと! お前達、こいつの尻尾をボブテイルにしてやりな」
「待った! ちょっと待った!」
「待ちな。こいつは言い残したいことがあるらしい」
と、一旦はカッパーの手で制される。
じゃっきんじゃっきん音を立てていた鋏が鳴りを潜めた。
「ラビが死んだ後まで尻尾切りは勘弁してほしいな、と」
「あの子兎まだ生きていられたのか」
「まだまだ元気だよ」
「スターニャの大悪党がウィドォくんだりにいるから死んだとばかり思っていた。ならばなぜウィドォで戦っている」
「ラビが生きてるならうつつ抜かしてる場合じゃないだろ!!」とカッパーは通路の壁を殴った。星を猫殴り団の構成員も「うんうん」と頷いた。猫尽くしだ。妙に団結力がある。猫なのに。
「ちょっとケーテルでラビに繋げろ」
拒否したらボブテイルにされてしまう。
「繋いだよ」
「もしもしカッパーですが」
カッパーは驚くほど敬語で会話を続けると「はい……はい、わかりました。それでは伝えておきます」と切った。
「……」
「……」
私とカッパーの目が合う。
「この男を丸裸にバリカンしてやれー!!」
「ぎゃあああっ!」
とはならず、普通に解放された。
「スターニャ。いつかラビは死ぬぞ、遠くない未来に。生まれの宿命だ」
「わかってる。だからこそ、私が私でなくならない努力が必要なんだよ。例え離れ離れになっても、スターニャというヒトとしている為には、側にいるだけでは駄目なんだ」
私はヒトである前に『人間』だから。人間である為には、人間であり続ける努力が必要なんだ。人間は、普通の状態ではないから。
「こんの大馬鹿野郎が……スターニャ、お前はいっつもわけわからないことばっかり吐く」
カッパーが背を向けて吐き捨てるように、
「星を猫殴り団系に動員をかける。他の伝手も全てだ。さっさと、わけのわからない敵をぶっ潰すぞ」
「カッパー、やってくれるのかい」
「何の為に家族兄弟を説得して引っ張ってきた思ってるんだ、馬鹿猫スターニャ。間抜け顔とお前の葬儀の為じゃないよ。
カッパーは獰猛に牙をのぞかせながら笑うと、
「敵をぶん殴りにきた。連中中々手広くやっていて脱出もできないから、仲良く協力しよう」
脱出できない、とカッパーが言ったことに私は引っかかった。
「星系から脱出できない? そんな馬鹿な、ゲートを使えば安定した長距離ワープが可能なはずだよ。平面航路を使えば現実宇宙の影響を無視できる」
「情報が遅れてるな。光速期間が長かったか。標準時間で1ヶ月前から、ゲートは緊急封鎖されてる」
「何が理由なのさ」
「圧壊したんだよ」
ーー平面宇宙への道が。
〈報告〉
「ゲートの事故かい早く直してくれないと商売できないよ」コアテラゲート不通。現在唯一残存している星系間ワープゲートの不安定化により、外へと出られる平面宇宙は進入禁止エリアに指定された。パラサイトとの関連は不明。しかしこの事件により、現在ライオンズ星系にいる全生命はパラサイトと独力で戦い打ち勝つ必要がある。
〈新情報〉
「なんだこれは? コンダクター級を緊急招集して。大きすぎる」計測不能な巨大質量を観測。これは先のガス惑星級質量体の航路を完全にトレースしており、ガス惑星級質量体を先遣に航宙しているものと推測される。先遣をパ・一号、計測不能をパ・二号と以後は呼称する。パ・二号の推定戦力はライオンズ星系全戦力の三八倍と思われる。
【コアテラゲート】
旧時代には沢山存在した、異相宇宙へ接続できるゲートの一つ。大戦時に同型のゲートはほぼ破壊され尽くして、コアテラゲートだけが残っていた。外銀河への航路には必ず通るけっこう大切な拠点。独自の民間艦隊が停泊しているけど、たまに税金を納め忘れてちょっとした騒動があったりする。独占できる権利は税金を納めてからの鉄則。独占権を巡ってドロドロ。




