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【完結】紅紅を一滴/機械仕掛けと異形の友人を救え  作者: RAMネコ
第3章「ヒトの知らない戦争」
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第14話「新型兵器への脱皮」

〈状況報告〉

「正しいかはーー歴史が決める。」ヒトの航宙艦から降りてきた猫がMIDに各種の兵器データを提供して、ウィドォの旧スパイ基地跡を利用した工廠のスタンダードテンプレートの更新および工作MIDの配置換えが一斉におこなわれる。従来の体当たり戦術は一旦前提から外され、星系防衛軍と同じ砲撃戦を主流とした艦隊戦術のアップデートをコンダクター級MIDに勧める。換装作業そのものは時間がかからず、ウィドォの工廠からは影を新たにした『戦艦』が姿をあらわす。


 基地内のMID工場で製造される『新型兵器』の換装作業を見上げながら、私はMIDの『脱皮』を見届けていた。


「新型イオン砲の製造、思ったよりもずっと早いね」

「スターニャの製造日程計画はMIDを適応するのに遅すぎます。我々は資材の調整と建築計画に完璧な調整をしているだけであり、本来の性能の限界は試しません」

「早いのはいいけど、欠陥が沢山でるのはは勘弁してよ」

「エラーは許容範囲の三〇〇〇分の一、ほぼ無視してもよろしいでしょう」


 有機的なヒト対応の居住空間から、私はマキタプを見つめる。基地で製造されている、他当たり艦とは明らかに違う戦艦の製造ラインの進捗だ。主兵装はイオン砲と量子弾頭弾。ライオンズ星系では一般的な兵器だ。民間ならマスドライバーカノンに量子砲弾を撃たせるところだが、MIDは巨大だ。エネルギー圧縮技術が無くても膨大な容積を利用してイオン砲を運用できる。


 実体弾を加速させる超光速ブースターは民間でも出回っている技術なんだけど、流石に純兵器のイオン砲に関してはエネルギー回路とか機密扱いだ。ただ、強力なシールドに対して干渉して剥がすにはイオン砲の方が優っている。単純に装甲を破壊するなら実体弾だけどね。二重に得物があれば安心感はある。


「スターニャはどうしてMIDに関わるんだ?」


 コマンダー級MIDに訊かれたので私は、


「困ってるヒトは助けよう、て決めてるからだよ」

「ーー? MIDはヒトになるのか?」


 寂しことを言ってくれる。私はMIDをヒトだと思っているのに。


「ヒトだよ。とても、とてもヒトだ」

「そうなのか。俺は嬉しい。俺とスターニャは同じヒトだと知れた」

「私も嬉しいよ」


 ヒトだから、てのも本当はおかしいんだけど。


 昔、ヒト同士が大きく争っていた時代があった。ヒトと括ってはいるが『エイリアン』だ。言葉も違った、考えも違った。それがどうして手を取り合える。ドーベル将軍は技術蛮族の出身だし、私は宇宙海賊だ。野蛮が当たり前の時代が確かにあったんだ。


ーーだけど。


「『今』までそうあるべきとは思わない」


 かつてならば、蛇だから倒し、犬だから倒し、鳥だから倒し、蛙だから倒した。猫ではないのだから、敵であると様々なヒトと争い、同胞でさえも毛の色が違う他部族だと争う充分な理由になった。


 だが今は、もう違うんだ。


「スターニャ。スーパーラビットが出港しますよ。お見送りは?」

「もう済ませてあるよ。今はこっちに集中しないと。MIDも軌道に載せるのは大変だね」

「一度生産が始まってしまえばあとはオートで済みますが、やはり初期稼働中はエラーも少なくない」

「エラーも急速に減ってる。時期に私も不要になる」

「そうしたら帰られるので?」

「うーん、他にも色々とね」

「スターニャ大変だ」

「大変なのはMID。戦争が控えてるよ。……さぁ、急ごう」


 MID達を持ち場に返して、私は自前の猫耳を撫でる。変な姿勢で寝ていたから、毛並みが少し、癖になっていた。直しようがなさそうだ。


 私はマキタプを見つつ、ケーテルで電話をかけた。相手はラビだ。基地の通信局経由の太い回線を使うにはささやかすぎるだろうか。


「ラビ?」

「スターニャ?」


 なんだか久し振りに聞いた気がする声に、私は自然と笑みをこぼしていた。耳は綺麗だろうか、尻尾は間抜けではないだろうか。


「ウィドォにいるんだ」

「……遠いですね」

「うん。帰るのは少し遅くなりそうだ」

「MIDですか?」

「うん。ちょっと一緒に戦うことになった」

「そうですか。ラビも、スターニャが帰ってくるまで死なないよう頑張ります」

「迷惑かけるよ」

「謝罪は帰ってきてからでよろしくお願いします」


 私は少し息を整えて打ち明けた。


「私の権限で閲覧できる資料をMIDに提供したよ。全てね」

「具体的には何でしょうか?」

「ラビ、全てだよ。旧時代の絶滅戦争から今まで研究会が議論してきた空間機動戦、惑星型の大型兵装群まで全て」

「わかりました。ということは、ウィドォでは既に攻撃艦隊でも生まれましたか?」

「いや、まだだ。データだけでは上手くいかないものだ。生産施設の調整というよりはMIDがわざわざ理解しようとしているのが遅延の原因だね」

「以前ーー」


 ラビがゆっくりと言葉を吐く。


「MIDが喃語を使ったというのは、覚えていますか?」

「ラビの友人が、敵とかに向ける言葉だと言っていたのだね」

「MIDは自力で生まれようとしているのかもしれません」

「ヒトの胎を使わず自らの力で生まれるか。本来のヒトと変わらないな。ヒトは獣として生まれーー」

「ーーヒトとして二度産まれる。耳に蛸です」


 最後になるかもしれない。そう思うと言葉が弾んだ。ラビ……この後に必ずまた会えるかはわからない。その可能性に少し心残りで、しかし私は目を逸らさなかった。


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