第13話「パラサイト」
ーーヒトが関わらなくても大丈夫です。
ーー万が一でも漸減で防衛軍が勝てます。
MIDはそう言った。言い換えれば、「私達が盾になります」と言われていた。冗談ではない、というのが私の感想だ。よくわからない相手に守ってもらうだけの存在がどれだけ間抜けで信用できないか知っている。知っているからこそ、知らせる為に誰かが最初に戦わなければいけない。
なら、私しかいないだろう。
戦いへ好きで参加するのは、変なヒトであるべきなんだ。
私は軟禁ーーそもそも基地内を生身が歩くのは不便で危ないからだけどーーされている他のヒト達に意を決した。
「……MIDと一緒に戦えないか、だって?」
「うん。アコラ、彼らは今ヒトの為に戦っているんだ。私達はそれを他人として見て見ぬ振りを決めるべきなのか……いや、悩んでるから、心の内のモヤモヤを打ち明けた」
「スーパーラビットは使えない。あれと、クルー、そして艦長の私は星系防衛軍に所属する軍人だ。軍人が勝手に戦端を開けばどうなるか」
「やっぱり。安心して、単なるダメ元で本気じゃないから。寧ろ、よしやろう!のほうが困ってた」
「……スターニャは、どうしてラビと一緒にいるのか不思議な性格だな」
ラビの親戚としての心配だろうか?
「良いヒトだ、ラビは」
「そうか」
と、アコラは言って、
「バベルを乗せて、スーパーラビットは一度母港に帰る。戦う戦わない以前に報告は入れないと。……それにスーパーラビットは充分な戦闘訓練を積んでいないのはMID強襲でわかっただろう。あと、バベルの連中も調査に来たのであって戦争をやりにきたわけじゃない。……何か、色々この基地で漁ってるみたいだがな」
「ということは、残るのは私だけになるのか」
「本気で残るつもりなのか? ラビにはもうーー」
「ーーだからだよ。MID、彼らもヒトなんだ。ヒトとしての助けを出さないと見限られてしまう。大丈夫、助ける腕が無傷で引き抜けるとは考えてないから」
グッと親指を立てハニカミを決めた。
アコラは理解に苦しむと言わんばかりに溜息を吐き、
「……スーパーラビットは残らない。いいのか?」
「決めたんだ。考えた結論だ」
「ラビが泣くぞ」
「ラビが泣くのは、私が情けなく死ぬこと。私が私で無くして生きるのは、ラビに見せたくない」
「大馬鹿野郎だな」
「知ってる。ただーーMIDは牙さえ持ってない。使い方を子に教えるのは、ヒトの親でありたいよね」
ラビは怒るかな。
本当は遊んでいる時間は無いんだ。それでもーー『彼女ならそう望むだろう』、男の子てのはいつの時代も望まれるヒトに懐くし、望まれたいものなのだ。
兎耳を後ろに置き去りにしながらドロップキックくらいは覚悟しておこうかな……彼女の脚は凄い。雪兎じゃないから、足裏のモコモコも期待できない鍛えられた肉球は凶器だ。
「具体的にMIDに何をやるつもりなんだい」
「武器と戦術、それさえ渡せば彼らMIDは賢い」
「非常に危険なことだぞ、スターニャ。ライオンズ星系が滅ぶかもしれない」
「わかってる。でも、沢山のヒトが、ヒトを傷つける為に道具を使っている。MIDにもあって問題はない」
「悪戯に武器を拡散するだけだ! ましてやMIDはあっという間に、野火のようにこの星系を埋め尽くす! 万が一があれば勝ち目はないぞ」
「そこは生存戦略だよ。生き残りたいなら、生き残る術を考えればいい。昔からそうやってきた。明日を生きる為には今日を生きなければいけない」
「MIDを武装することが今日になるって?」
アコラの片目が片耳と合わせて吊り上がる。親戚というだけあるからか、ちょっとラビに似ていると思った仕草だ。
「MIDの話?」とボアが「混ぜて混ぜて」と蛇の巨体をねじ込みながら、しかし、ストン、あるいはチョコンと挟まり収まった。器用だ。
「MIDは暫定的にパラサイトて呼んでるらしい」
「パラサイト?」
「未知の敵。文明に基準がなくて、その中にいる何かが共通しているてことで、寄生している存在パラサイトてわけ」
「わかりやすい」
「ただのスペースパイレーツの連合て可能性もあるだろうに。寄生されていると考えるのは時期尚早すぎる」
「アコラ艦長の感覚もごもっとも。だけどどうも妙なのよねぇ。ボアちゃん不思議すぎる」
「……何が?」
「アコラ艦長なら内骨格生物として骨が筋肉を支えてるけど」
「当たり前だろ」
「MIDが回収した検体はどうも、外観的には完全に同種なんだけど体重を支える骨格が完全に無くて、おまけに筋繊維も著しく少なすぎる。まるで内側から貪り食べられちゃったみたいに」
「まさかそれがパラサイトだと?」
「さぁ? 専門家じゃないからボアちゃん」
パラサイト。
寄生するものか。
「ともあれMIDとパラサイトは艦隊戦になりそうだね。なんだか私はワクワクするよ」
私の素直な感想に、アコラもボアもしかめっ面だ。ピスピスと鼻に皺を寄せるアコラは長い兎耳で目を隠し、ボアは縦長の目をまじまじ開き赤い舌をチロチロ高速で空気を掴み正気か確かめていた。
本気だよ。




