第12話「もっとも原始的なハイテク」
MID達はここで何をやっているのか。
その為の説明は、コンダクター級という戦略的な権限を与えられたMIDが一席設けてくれた。スーパーラビットに乗っていた全てのヒト、そしてAIに公開された説明会だった。
「まずは感謝を。まずは説明を。まずは『敵』を」
コンダクター級の『一団』の一人はそう言って切り出した。中央立体映像に、見たことのない船団が浮かび上がる。この星系の船団じゃないね。別文明だ。ただ、私の記憶するかぎりでは見たことのない船団だ。もしかしたら他の銀河、他の星団から遠征してきたのかもしれない。
「これは?」と誰もが抱いた疑問を訊いたのは、スーパーラビット艦長のアコラだ。
「ライオンズ星系への侵入をはかる第九次侵攻船団と判断しています。
現在我々が置かれた星系の状況はかんばしくありません。MIDが防衛線を急速に構築した原因に、無数の船団が少数ずつの侵入を繰り返しながら防衛の隙を狙っているからです。先程はその隙を突かれ危うく内惑星にまで侵入されるところでした。
恐るべきことに、突破されることは珍しくありません。
小惑星帯に置いた即応分船団の対応で難を逃れることができましたが、やはり防衛計画には完璧はありえません。
MIDの招集も、拡大の一途を辿っています。つまりMIDの戦線は急速に拡大を続けているということです」
私は説明を聞きながら髭をさする。
スペースパイレーツ始め、略奪目的の侵入は珍しくなったが無いわけではない。その為の監視防衛ネットワーク群が構築済みであるし、観測基地が外惑星から引き上げてもネットワークの維持は防衛戦略のうえで重大な要素だ。ただ、九度も探りを入れてくるというのは異常だ。早期発見、早期接触、早期排除が徹底されていないのではない、できないのだろう。
現役で軍人のアコラが、コンダクター級MIDと高速思考回線を繋いでいる。秘匿性が高いし、何を話しているのかはわからなかった。だいたい聞いていることは、軍備とか他の基地の存在とかそのあたりだろう。
「ボア、他のバベルは参加しなくてよかったのかい?」
「ボアちゃんが纏めておけば問題なし。それよりも新しいボディのMIDにメロメロだ」
「新しいMID?」
「そう。ここはMIDの実験場みたいに、まるで違う進化を繰り返してる。とても、とても早く」
「ーーにしては、戦術は数千年逆行してるけど」
衝角戦術宇宙版だ。いくら質量と速度がパワー・オブ・パワー!としても極端すぎる。装甲歩兵に石飛礫で戦うのと変わらない。……投げる石が、神話の神々を薙ぎ倒す山や島を遥かに超えるものではあるけど。
兎にも角にも。
MIDがヒトに対して反乱をkyわだてていたわけではないということで、私は内心安堵したよ。
敵の正体、か。
まてよ?
MIDは、MID以外のヒトに知覚できないと言っていた。見えている船団とは別物なのではないだろうか。
だとすればこの侵入しようとしている船団が本質ではないはずだ。
あっさりと片付けたれた説明会はMIDが話し下手だからだろうか。モノアイに無機質な金属に表情がないのとあいまって、『ヒトでない印象』あるいは『ヒトと違うのではないか』という印象が強く引っ掛かりかけた。
コンダクター級コマンドMIDは、少なくとも補佐をだすべきだった。
「ボア、MIDて口下手だね」
「MIDだからねぇ」
「感覚で充分に伝わるからいろんなの省略するけど、たぶんキャプテン・アコラの目にはMIDて非常に危険な存在に見えてると思う」
「私もそう思うよ、ボアに一票」
「清い?」
「超清い」
「でもアコラはドロドロ」
「渦巻いてるね」
そう言えば、と私は、
「MID調査はどうするのさ。あっさり目的がわかったけど」
「バベルは特務でもなんでもない民間だから、さっさと『最前線』からおさらばさっさー、てのがボアちゃんの予定」
「調査していかないの?」
「踏み込むと踏み潰されそう」
「確かにねぇ」
「お仕事果たしたし、消される前に持ち帰りだよ。あとは軍隊さんのお仕事、お仕事。ドーベル将軍も待ってる」
軍隊かぁ。
ライオンズ星系は忙しくなる。防衛艦隊も大緊縮に巻き込まれているから、立て直すのは今は不可能だ。ドーベル将軍がもし動くなら、相当に戦力の抽出に頭を爆発させかけているだろう。スペースパイレーツもまったくいなくなったわけでもないしね。
「星系防衛軍動くのかな」
「MIDを知らなかったなら、即応艦隊あたりがウィドォに急派されるんじゃない」
「引っかかる言い方」
「ドーベル将軍が『どっち筋』か次第だろうね」
「……ここは遠いし、敵とやらを私は考えようかな」
「スターニャは帰らないの?」
「私は残るよ」
決めた。
MIDとウィドォで色々だ。ラビを残しているのが不安だけど。
「何にも手には入らないよ。プロテクトが固いのなんの」
「何すっぱ抜こうとしてるのさ。宇宙に放り出されちゃうよ」
「やっぱり共闘?」
「少なくとも石斧くらい持たせて戦わせたいよね」
「あっぶな〜い」
「防波堤が紙だったら意味がない。まだまだライオンズ星系のヒトの為に働くよ。旧時代からそうしてきたからね。MIDは技術蛮族や宇宙海賊よりも勝手が良い」
「スターニャ君、それはとても酷い考えじゃないかな?」
「酷いよ? だから頑張ってもらわないとね」
たぶん、ウィドォに残る有機物のヒトは私だけになるだろう。残りは全員、スーパーラビットで帰ってしまう。
MID、と居候の私がウィドォ。
ーー行こうか。
戦っているのなら、これを支援してやろう。ともに戦いたいと思うのは間違っていないと考えたい。
MIDには敵がいた、戦っていた。
それならば、
ーー『ヒトの敵』だ。




