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第10話「MID軍」

 MIDが作る軍勢というものは、実に好奇心をくすぐる。


 乗船チューブが接続した衝撃を微かに感じる。装甲越しの心の波も。


 バラストである私やバベルのヒト達は恐怖で肩が震える。スペースパイレーツに襲われるくらいは怖い。


 何が現れるのか。


 あるいは何事もなく見逃されるのか、見つけられないか。そんなことを考えていれば、ドアが開けられた。


 入ってきたのは、標準的なMIDのモノアイと制御翼の浮いたヒト、それとーー


「ボア、なんだあのMIDは」

「ボアちゃんもわからない」

「俺も知らないな。新型か」

「重機タイプの体に似たものだが、明らかに軍用だぞ」


 大型パワードスーツか、歩兵ロボット並みの巨躯がドアを塞いでいた。装甲は携行できるブラスターで傷つけられるか怪しいほど分厚い。


 それが2人。


 艦内戦闘用に使う為なのかショックパイルを両腕に展開して威圧してきた。ショックパイルは元々小惑星事業に使う工具だ。……パワードスーツは重厚で軍事要素が強いのに武器が妙に工具ぽい。ショックパイルはほぼそのまま、建設機械から取り外し流用したようだ。まるで、慌てて間に合わせたようなチグハグがあった。


「驚かせて申し訳ない、ソフトスキンの友達」


 パワードスーツMIDの間を縫うように、標準的な、そして馴染みのあるモノアイのMIDが友好を全身から放ちながら近づいてきた。全員の顔に近づいたり、大げさに話したり打ち解けようと努めている。


「兄弟端末がお1人ずつに付きますので、ご自由に質問をいただければなと。我々に貴方方を傷つけるつもりは、全くないということは先に言わせてもらうから、安心してね」


 私の前にも、小さいMIDが来た。


「やぁ、こんにちわ。僕に聞きたいことはあるかい?」とMIDが訊いてくれる中で、私はチラリとバベルのヒトを横目に見たあと、視線を戻した。


「君達はどこから来たのかな」

「それは秘密です! 女の子のスリーサイズ級ですよ! 失礼です!」

「ごめんごめん。じゃ、彼の話だ。随分と良い体をしているね。新造したのかい」


 私はパワードスーツのMIDを指差した。


「艦内へ入ることは考えていなかったので急遽作ったて聞いてるよ」

「へぇ、想定外で大変だったね」

「作るのは得意ですから!」

「君達の宇宙船なら良い船なんだろう想像がつくよ」

「実はそうでもなくて、小惑星を連結して熱核ロケットエンジンを挿してるだけなんだ」

「戦艦とかは作らないの? MIDなら簡単に建造できそうなのに」

「MID達はあくまでも平和で建設的に働いてるんだよ。大砲や爆弾は作らない」

「そうなんだ……どうりでパワードスーツのMIDが武器と呼べないようなものを持ってるはずだ」

「本当は、ヒトのコロニーを作ったり、子供をあやしていたかったよ。僕達は皆そうだ。でもそうはいかなくてね」

「何かあったのかい? MID達は突然、宇宙に旅立ってしまっているんだ、次々とね」


 MIDのAIがジジッと考えているのを感じた。


「ーー敵が現れたんです」

「敵?」

「はい。それを初期に知覚できたのは、MIDだけです。ヒトには、敵の本質を認知できません。私達が戦わないと」

「独りよりも2人だ、ヒトの国、星系防衛軍に頼むのもーー」

「コンダクターがすでに報告しています」

「……なんだって?」

「星系防衛軍が動くことはありません。それ故に我々は、本分の中で暴力組織を編成し、敵に対してマスドライバー技術を応用した岩石攻撃を敢行しているのです」

「ちょっと待ってくれ!」


 岩石攻撃を、敢行している! それはつまり既に戦っているてことじゃないか!


「一体誰と何と戦っているんだ、MID達は」

「我々にもわからない。だがそれは確かに実体を持っていて、我々は理解できないが悪意によるものとしか思えない行動原理で侵入を繰り返そうとしているよ」

「さっき君は、私達には認識できないと言ったが、実体があるのか。それなら観測機器のどれかに引っかかるはずだ」

「間違いない。だが敵は偽装し、本体は影を投影する別空間に潜んでいる。我々に許された手段は端末を破壊して防ぐことだけなんだ」


 にわかには信じられない話だ。だが得体の知れない敵と戦争状態に陥っているのなら、MID達をより多く動員したいだろう気持ちが理解できる。結局、戦力を素早く集中して重い一発でノックアウトさせた側が勝つのだ。


「何故、MID単独で戦う。いかに星系防衛軍でも侵略者に対してまで静観を貫くとは考えられない」

「……ごめん、緊急事態だ。加速した。予定を繰り上げて迎撃する」


 足元から微かに振動を感じた。


「ヒトでは君達が始めてだ」


 MIDはそう言いながら、部屋の中央に立体映像を立ち上げた。


 単色の単純な映像だが、そこに浮かんでいるのは一隻の宇宙船に見える。形状から50,000t級標準貨物船。外惑星の資源運搬船としては普通サイズの単純な構造だ。


……なんだ?


 50,000t級標準貨物船、だよね? 腹の底、あるいは脳の勘とでも言うべきものが違和感を覚えている。言語化はできないが、何か、何かが違う、違うのだ。


「光速の88%で首都星に接近中の敵性シップに対して、アステロイドベルトから緊急光速航行に入ったMID艦が体当たり攻撃を仕掛ける」


 ブースターのノズルから炎が漏れる程の加速で進む標準貨物船に、小惑星が正確に激突した。小惑星には頭が悪そうなまでにロケットが突き刺されていて、これがMID艦なのだろう。


 外宇宙で起こっていることの一端を見た。


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