会いに行こう!
翌日久子ちゃんに塾の事を聞いてみた。
久子ちゃんには3人のお姉さんがいてみんな凄く頭が良くって地域で1番の学校に行ってるからだ。
「久子ちゃんこの辺りで塾に行くなら何処が良いかな?」
「塾?祐ちゃん塾に行くの?」
久子ちゃんは驚いた目で僕を見た、今まで1度もそんな話をした事ないから当たり前だ。
「うん、私立の中学校に興味があってね」
「へえ何処の中学校?」
律も話に入って来た。意外と興味があるのかな?
でも律の質問には答えられ無いんだ。
まだ中学校名は思い出せないから。
「まだ具体的に何処の中学校って決まってないんだ、だから塾に行ったら決める事が出来るかなって」
そう言って誤魔化した。
「そうなんだ、僕も行きたい中学校があるんだけどね」
「え?律君、何処の中学校に行きたいの?」
律の言葉に久子ちゃんが食いつく、僕も興味があるぞ。
「うん、仁政第一中学校って学校なんだけど難しい学校でね...」
「ああ...仁政ね...」
2人共落ち込んでしまう、どうやら難しい学校に律君は行きたいらしい。
僕は律が言った学校の名前に懐かしい気持ちになる。
「律、仁政第一中学校ってどんな学校なの?」
ひょっとしたら僕の行きたい学校かもしれない、律は詳しいかな?
「この辺りじゃ学芸大附属中学の次位に偏差値が高い学校でね、中、高合わせて生徒数も2000人を超えるマンモス校だよ」
「そう、高校から大学への進学実績は学芸大附属高校に次ぐ位い凄いんだよ」
僕の質問に律と久子ちゃんが答えてくれた。
成る程、仁政第一中学校ってそんなに難しいのか。
他にも私立中学校を教えてくれたけど僕には余りピンと来る学校が無かった。
どうやら仁政第一が僕の記憶にある学校らしい。
早速日曜日に行ってみよう。
「ありがとう律、今度の日曜日に行ってみるよ」
「え?祐ちゃん行くの?」
久子ちゃんは驚いて僕を見た。
「うん」
「僕も一緒行こうかな?」
「律君が行くなら私も!」
律も行きたいって言い出したら久子ちゃんも一緒に行く事になった。
そして日曜日、僕達3人は電車を乗り継いで仁政第一中学校に来た。
「ここが仁政第一中学校...」
「大きいね」
律と久子ちゃんが大きな校門と校舎に圧倒されている。
今日は日曜日で門は閉じられているが僕はそれどころじゃなかった。
「.....間違いない...ここだよ」
僕の頭に前回の記憶が次々甦る。
受験の日、合格発表、そして入学式に学校生活...
「浩二君....」
「祐ちゃんどうしたの?」
「大丈夫か祐?」
涙を流す僕に久子ちゃんや律が驚いて声をかけてくれるけど耳には殆ど入らない。
僕はしばらく校門前で泣いた後、最寄りの駅に戻って来てから2人に言った。
「ありがとう、ごめんね急に泣いちゃって」
「いいけど大丈夫か?」
「本当、びっくりしたわ」
律と久子ちゃんは何故泣いたかは適当に誤魔化した(何か運命を感じたとかね余り上手く誤魔化せなかったけど)
「この後少し1人で行きたい所があるから今日はありがとう」
律と久子ちゃんとは別れて反対側のホームに行く。
驚いてたけど僕はどうしても戻った記憶を確かめたかったから少し強引に別れた。
電車に揺られながら向かう先、それは浩二君と由香ちゃんが住んでいる町。
(今は浩子ちゃんと由一君だけど)
「ここか....」
電車に揺られる事40分僕は記憶の駅に着いた。
後は導かれる様に初めて来たはずの町を通りすぎて真っ直ぐ歩く。
やがてある工場と住居の一緒になった建物に着く。工場には看板がかかっていた。
[山添ニット加工所]
「間違いない...」
躊躇う事無く呼び鈴を押す。
すると建物の奥から返事が返って来て、やがて玄関の扉が開いた。
そこにいたのは....
「どちら様ですか」
どことなく僕に似ている女の子だった。
僕はすぐに分かったよ、だって女の子なんだけど記憶にあるあの人と一緒なんだもん。
「お兄さんですか?」
「え?あの私、女の子なんだけど...」
しまった、女の子にしか見えない人にいきなり兄さんって...
慌てて訂正をする。
「あ、ごめんなさい。浩二...浩子ちゃんのお姉さんですよね?」
「ああ、はい浩子のお友達ですか?」
僕の言葉にお姉さんは納得したように聞いて来た。
笑顔で答える。
「はい!清水祐子って言います。宜しくお願いします」
お姉さんは僕の勢いに少し飲まれたようだったがやがて笑顔を返してくれた。
「私は山添有子、一緒の名前ね。宜しく」
有子さんは僕の顔をみていたが、僕も一緒だ、不思議な時間が過ぎる。
「ごめんなさい。何処かで会いました?」
有子さんが僕に尋ねるがまさか記憶の事なんか言えない。
「いえ、初めてですけど、何となく私達って似てるからかな?」
「あ、そうかも!」
僕の答えに有子さんはまた笑う。
その笑顔は間違いなく浩二君のお兄さん、有一さんの笑顔だった。
「あの浩子ちゃんは?」
名残惜しいけど浩子ちゃんの事を有子さんに尋ねた。
「あ、浩子ね、少し待ってて」
有子さんは家の中に消えて行く。どうやら家に居るようだ、良かった。
勢いに任せて来ちゃったけど、どうしよう?
心に不安が湧いてきた、いきなりだから変な子って思われるよね。
だって向こうは僕の記憶なんか無いのに。
「駄目だ...帰ろう」
僕は浩子ちゃんの家を立ち去ろうとした時、
「お待たせ!」
元気な声に僕の体は固まる。
だって目の前に浩二...いや浩子ちゃんが満面の笑顔で立っていたんだもん。
「あ、僕..私覚えてますか?」
震える声で尋ねる。
「勿論、清水祐子ちゃんだよね、よく此処が分かったね。びっくりしたよ」
浩子ちゃんはそう言って笑う。
やっぱり僕の記憶は無いみたいだ、でも構わない。今はこうして会えただけでも。
記憶を総動員して来た理由を伝えたようとする。
「あ、あの変かもしれないけど、この前浩子ちゃんに会った時また会いたいって思ったの、それで、それで...」
駄目だやっぱり上手く伝わんない。
気持ちが全面に出過ぎて言葉にならない。
「大丈夫だよ、落ち着いて」
身体を優しく包んでくれる感覚がする。
「え?」
僕の身体を浩子ちゃんが抱き締めている事に気づいた。
後は涙が止まらなくって、しばらく浩子ちゃんの腕の中で泣くしか出来なかった。
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「落ち着いた?」
「うん」
僕は浩子ちゃんの部屋にいる。
泣いてる僕を見た有子お姉さんが家に案内してくれたからだ。
どれくらい泣いていたか自分では分からないけど浩子ちゃんの服に僕の涙の痕がハッキリ残っていて恥ずかしい。
「それで今日は?」
浩子ちゃんがゆっくりと尋ねる。
「信じられないかもしれないけど、私は浩子ちゃんを初めて会った時に以前会った気がしました。だから確かめたくて小学校の名前を頼りにここに来ました。この近辺を歩いていたら山添さんと書かれた看板が見えて思いきって呼び鈴を押したんです」
少し嘘を織り交ぜながら話す。
だって前世の記憶でなんか言ったら一変に嘘臭くなるから。
浩子ちゃんは私の話を微笑みながら聞いてくれた。
「ありがとう、祐子ちゃん。私も以前どこかで会ったような気がしたんだ。
由一君もそう言ってたんだよ」
(その言葉で充分だ)もう泣かなかった。
その後浩子ちゃんや有子お姉さんと3人で沢山お話しをした。
夕方になり私は浩子ちゃんのお父さんが運転する車で駅まで送って貰った。
「今日はありがとう」
「こちらこそ」
「またね祐ちゃん」
浩子ちゃんと有子お姉さんに見送られて駅の改札を通りすぎる前に僕は浩子ちゃんに抱きついた。
「え?」
驚く浩子ちゃんの耳元で僕は囁く。
「今日はありがとう、次は仁政第一中学校でね。今度は僕も1年から一緒に特進に行ける様に頑張るからね、由一君も一緒だよ」
そう言って僕は離れると浩子ちゃんは少し驚いた顔をしていた。
笑顔で浩子ちゃんと有子さんに手を振って別れる。
帰りの電車の車内で僕は自分の気持ちを確かめていた。
(これで良い、例え浩子ちゃんが仁政第一中学校に来なくても僕は言う事は言った。
後は運命に従おう)
...そして2年が過ぎた...