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幸せだよ。

「行ってきます」


「行ってらっしゃい今日は帰るの?」


「今日は浩子ちゃん夜勤だから見てあげる予定なの」


「分かった。気を付けてね」


「はーい」


母さんに見送られて家を出る。

電車に揺られて1時間程すると病院が見えて来た。

ここが私の勤務先、私は看護師だ。

高校中退で少し遠回りしたがなんとか7年掛けて正看護師の資格を取れたのだ。


「おはようございます」


「おはよう清水さん」


「おはよう祐子ちゃん」


「おはよう祐ちゃん今日も元気そうだね」


扉を開けると同僚達が挨拶をしてくれる。

でも31歳の女性に『祐子ちゃん』や『祐ちゃん』は少し恥ずかしい。


「今日のシフトは、と」


勤務表を確認する。一応頭に入っているが休んだり緊急の際に変わる事があるので確認は欠かせない。


「うん変更なしか」


素早く制服に着替えていつもの病棟に向かう。

ナースステーションに入り夜勤の看護師から引き継ぎを行う。


「さて巡回に行きますか」


必要な器具を手にナースステーションを出る。


「おはようございます、昨日は眠れましたか?」


「ああ、眠れたよ。ありがとう」


病室に入り患者から聞き取りをしながら検温や血圧を測りながら雑談交じりに会話をする。

人と話すのは苦手ではないのでこの時間は楽しい。


「清水さんって、いくつ?」


「あら山下さん、女性に年齢を聞くものじゃないですよ」


「えーいいじゃん教えてよ」


「秘密です。でも山下さんより10歳は上ですよ」


「嘘だ!」


「本当です」


「見えないよ!」


「あら、ありがとう」


足を骨折して入院している山下龍斗さんが驚いた顔で私を見る。

でも本当なんだよ、私は31歳。

山下龍斗さんは21歳の大学生なんだから。


「ちぇ!同い年か少し上くらいと思ったのに」


「もしそうだったら?」


「口説いてた!」


「あら残念、私も付き合いたかったわ」


軽口を交わしながら次々と巡回を済ませてナースステーションに戻った。


「祐子ちゃんお疲れ」


戻って来た私に優しく声を掛けてくれる一際綺麗な女性は、


「おはようございます橋本先生。今日は夜勤なのにどうされたんですか?」


「今子供達を保育園に送った所なの。それでね、後で洗濯物を取り込んでくれない?」


「はい了解です」


軽く敬礼のポーズをとる。

浩子ちゃんは優しく微笑むと同じく返礼を返してくれた。

その後5時までの勤務を終えると病院近くにある大きな家に向かった。


「こんにちは」


「祐ちゃんママだ!」


「おねーしゃん!」


玄関で2人の女の子達のお迎えを受ける。

浩子ちゃんと由一さんの子供、(とも)ちゃん5歳と藍ちゃん2歳だ。


「お疲れ様清水さん」


部屋の奥から白衣を着た男性が顔を出した。


「こんにちは由一さんお迎えご苦労様でした。

今からですか?」


「ああ、すまないが宜しく頼むよ」


「はい頑張って下さい」


「ありがとう」


玄関で挨拶を済ませると由一さんは笑顔で出ていった。


「早く!」


「はいはい」


子供達に急かされ部屋に入る。

子供達と一緒に洗濯物を取り込み、畳んでタンスに入れていく。

一生懸命畳む2人の姿は本当に微笑ましい。


「お風呂にしましょうか?」


「うん!」


「お風呂!」


予め沸かしてくれていたお風呂に浸かる。


「ふいー極楽、極楽」


「お姉たん、おばちゃんみたい」


「こら藍ちゃん、祐ちゃんママはお母さんと同い年だぞ」


「ごめんなしゃい...」


藍ちゃんはお姉ちゃんの(とも)ちゃんに叱られシュンとする。


「いいのよ智ちゃん、確かにおばちゃんみたいだね」


軽く藍ちゃんの頭を撫でてあげた。


「ありあとー」


2歳の藍ちゃんはにっこり笑う。

さすがは浩子ちゃんの娘、その笑顔の魅力に私は堪らなくなる。


「可愛い~!」


思わず藍ちゃんを抱き締めてしまった。


「わ!」


藍ちゃんは少し驚いた声を出した。


「ごめんね藍ちゃん大丈夫?」


「うん、おねーしゃんママみたいなおっぱいが無いから大丈夫だったよ」


「うげ!」


「こら藍!」


「なんでー、藍と智しゃんとおなじでしょう?」


失礼な!5歳と2歳の胸と同じでは無いからね!一応Bカップなんだから。


「ごめんさない祐ちゃんママ」


「い、いいのよ。いいの...」


力なく湯船から上がった。

お風呂から上がり子供達をパジャマに着替えさせて夕飯の仕度をしようとキッチンに向かった。


「祐ちゃんママ、今日は夕飯用意しなくていいよ」


「いいんだよ~」


「え?」


智ちゃんと藍ちゃんは笑顔で私を見た。


「こんばんはー」


「祐子いる?」


その時玄関に2人の声がする。

まさかこの声は...

私は急いで玄関に走った。


「佑実ちゃん!孝子ちゃん!」


そこに居たのは私の大親友の2人だった。


「今日はどうしたの?」


「うん思った通りね」


「やっぱり忘れてるわ」


2人は私の問に答えずにやにやしながら部屋に上がった。


「ただいまー」


私が唖然としていると続けて玄関の扉が再び開いた。

そこに居たのは、


「浩子ちゃん...」


「お母さん!」


「ママ!」


唖然としてる私の脇を子供達が浩子ちゃんに飛び付く。


「え?どうして、今日は夜勤って?」


「失礼!」


「わ!」


佑実ちゃんの声と同時に突然後ろから目隠しをされ目の前が真っ暗になる。


「はい、こっちよ」


手を握られ家の中を歩く。

(この手の感触は孝子ちゃんね)

そんな事を考えていた。

しばらくすると扉を開ける音がした。


「はい!」


再び佑実ちゃんの声がすると同時に目隠しが取られた。

私の目の前にあったのは...


[祐子ちゃんお誕生日おめでとう!]


そう書かれた横断幕と沢山のご馳走。

次の瞬間クラッカーが鳴り響いた。


「「「おめでとう!」」」


「え?え?」


「やったね」


「サプライズ大成功!」


「ビックリした?」


「私も手伝ったんだよ!」


「藍も、藍も!」


嬉しそうな声に私の目から涙が流れた。


「おねーしゃん...」


藍ちゃんが心配そうに私を見ている。


「大丈夫よ、これは嬉し涙だから...」


「良かった~」


安心した藍ちゃんの笑顔に私の涙は更に流れた。

そうか今日は12月25日、32歳の誕生日だったね。

1人者の私は家族から言われないと毎年忘れてるよ。


「さあ座って」


浩子ちゃん親子に促され私は主役席に座る。

紙のリングで出来た素敵な首飾りを掛けて貰いハッピーバースデーを歌って貰い楽しい宴は続いた。



「お待たせ」


パーティが終わり子供達を寝かせた浩子ちゃんが戻って来たので私達はお酒の瓶を開けた。

これからは大人の時間。


「今日はありがとう、でも佑実ちゃんも孝子ちゃんもクリスマスでしょ?子供達といなくても良いの?」


「大丈夫よ、クリスマスイブをしっかりやればね」


「そうそう、子供達はイブのプレゼントがあればね」


2人はカラカラ笑う。お酒が入った2人はご陽気だね。


「子供達もたまにはお母さんがいないのもホッとしてるよ」


「そうよ家の子なんて友達と過ごすとか言ってね生意気なもんよ」


「孝子ちゃんの子供は今いくつ?」


「12歳と10歳よ」


「佑実ちゃんは?」


「私の子は8歳ね」


「そっかみんな大きくなったんだね」


私には子供はいない。子供を作る事が出来ない私は結婚をいつの間にか諦めていた。

でも人生の伴侶はやはり欲しくなる時もある。


「みんな家族仲良くて良かった」


「まあね、でもあの人まだまだ剣道バカよ、大会前は勤務がおわっても帰って来ないの」


佑実ちゃんは苦笑いを浮かべる。

佑実ちゃんは大学を卒業した後中学の体育教師になった。

和夫さんは警察官となり剣道の選手権で日本一を目指している。


「帰って来るだけ良いわよ、私の所なんか出張ばかりでなかなか会えないんだし」


孝子ちゃんは佑実ちゃんの肩を優しく叩いた。

碧君は大学を卒業すると孝子ちゃんのお父さんが経営する会社に入った。海外部門の責任者に抜擢され1年の半分近く海外を飛び回る生活だ。

孝子ちゃんも得意の料理の腕をいかして小さな料理店をしている。

予約制で凄く人気のお店だ。

『世界のお袋の味』だって。


「私達も同じ様なものよ、急患が入れば休みでも病院にすぐ行かなきゃいけないし。

なかなか旅行も出来ないもの」


浩子ちゃんはそう言って2人を慰める。

浩子ちゃんと由一君は医学部を卒業後医師となった。

今は総合病院に勤務しているが数年したら由一君のお父さんが経営する医院を継ぐ予定だ。

もちろん浩子ちゃんも一緒に。


「でもみんな幸せでしょ?」


「まあそうね」


「『幸せ?』って聞かれたら、そうよね」


「うん」


「それが一番だよ」


「祐ちゃん...」


「あ、誤解しないで私も幸せだよ。こんな素晴らしい親友がいるんだもの。

そうそう弟に子供が出来たんだよ、可愛い甥っ子でさ!」


沈みそうな雰囲気を盛り上げる為に笑顔で立ち上がる。


「みんなの笑顔と幸せが続きますように乾杯!」

 

「「「乾杯!!」」」


私達は笑顔でグラスをあわせた。



次ラストです。

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