浩子ちゃんですか....
自然公園のオリエンテーリングは無事に始まった。
僕の班の班長は伊藤律君だ。
彼はいつも仲間を引っ張ってくれるから女子達に大人気で久子ちゃん以外にも彼を好きな子は沢山いる。
僕?僕は違うかな、確かに律君は格好良いし頼りがいのある男の子だけどね。
僕には運命の人がいる。
誰かはまだ思い出せない。
男の子だった前回はその人にアタック出来ないまま終わってしまった。
だってその人、男の子だったんだもん。
今回女の子に生まれ変わったから心おきなくアタックするんだ!
「祐ちゃん、どこ行くの!」
僕がぼーっとしていると律君が声をかけて来る。
どうやらみんなと違う方向に行ってたみたい。
「ごめんね」
「しっかりしなよ」
「祐ちゃん今日は少し変よ?」
みんな僕の様子がいつもと違う事に気づいてるみたい。
今日が何か運命を変える1日になりそうな予感で一杯なんだ。
「あれ、間違えたかな?」
しばらくオリエンテーリングをしていると地図係の佐藤道雄君が声を上げた。
「本当か?」
律君も地図を道雄君と見直すが分からないようだ。
取り敢えず真っ直ぐ歩くと道はどんどん山道に入って行く。
「あれ、おっかしいな?」
先頭を行く律君も少し焦り始める。
後を行く僕達も不安を感じ始めたが久子ちゃんは律君の服の裾を掴んで幸せそうだ。
やがて山道から大きな道が見えて来た。
「よし、出れた!」
道雄君が駆け出して道に飛び出した。
「わっ!」
「きゃ!」
そのとたん道雄君の声と女の子の声がする、
どうやら誰かとぶつかったみたいだ。
僕達も慌てて山道を出た。
「こら道雄!すみません大丈夫でしたか?」
「いえ大丈夫です」
道に転んでいる道雄君と1人の女の子。
そして女の子の周りには3人の人達。
僕はその中の2人にくぎ付けとなる。
「あ、あ...」
呆然としていたら久子ちゃんが異変に気づく。
「祐ちゃんどうしたの?」
久子ちゃんが何か言ってるが僕の耳には届かない。
そのまま向こうの2人に近づく。
「あの....」
「はい?」
問い掛けに男の子は女の子を助け起こしながら応えた。
「お名前は....」
「え?」
いきなり聞いたので向こうの人達も困惑している。
律君が僕を押し留めた。
「どうした祐」
「あ、いやそのどこかで会った事無かったかなって...」
僕はしどろもどろになる。
向こうの2人は顔を見合わしてお互いに首を振っている。
どうやら向こうは僕を知らないらしい。
何故か分からないが凄く悲しい気持ちになって涙が出てきた。
「どうしたの?」
向こうの女の子が心配そうに声を掛けてくれるが涙が止まらない。
「大丈夫?祐ちゃん」
久子ちゃんが背中を優しく撫でてくれた。
ようやく落ち着いた頃、向こうのグループと僕達のグループは打ち解けていた。
律君が僕達のグループの自己紹介をする。
「僕達は石山小学校4年で、僕は伊藤律です。宜しく」
「私は吉田久子です。宜しく」
「僕は佐藤道雄、さっきはごめんね」
そして僕も自己紹介をする。
「僕...私は清水祐子です。泣いちゃってごめんなさい」
向こうのグループ達もにっこり笑いながら自己紹介をする。
「僕は岸里小学校4年、上田まことだ。宜しく」
「私は石田良子よ、宜しく」
2人の自己紹介が終わって僕は残りの2人に注目する。
「僕は槁本由一だよ。宜しく」
女の子を助け起こした男の子はそう名乗った。
背の高いスラッとした佇まいは律君と良く似ていた。
かなりの美少年だ。
そして...
「私は山添浩子。はじめまして」
最後に名乗った女の子の笑顔を見た瞬間僕は思い出した。
「浩二君....」
僕はそのまま気を失ってしまった。