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聞いて欲しいの!

目覚めて3ヶ月が過ぎた。

退院した私は自宅で療養生活を続けながら体力の回復の為リハビリをしたり学校に入り直す為に勉強したりと忙しい日々を送っている。


先日浩子ちゃん達が訪ねて来た。

みんな私を見て涙を流して喜んでくれたが一様に、


『祐ちゃん変わったわね』


そう言っていたが何が変わったのか分からない。

(自分の事を『僕』から『私』に変わった事や雰囲気が凄く女の子ぽくなったそうだ)


誰も律君の話はしなかった。




「それじゃ姉さん病院に行こうか」


「ありがとう祐一助かるわ」


車に乗り祐一の運転で病院の定期検診に向かう。


「すっかり季節が進んだわね」


車の窓を開けて季節の風を感じる。


「もう春だから」


祐一は私を見て嬉しそうに笑った。

大学3年の祐一はいつも病院に連れていってくれる。

1人で大丈夫って言ってるけど心配症だね。


「それじゃ姉さんまた後で」


病院に着くと祐一は自宅に一旦戻る。

検診が終わったら迎えに来てくれる予定だ。


「順調に回復されてますね」


「ありがとうございます、先生達のお陰です」


身体の検診が終わり最後に体力回復のリハビリの先生が診察の後ニッコリ微笑んだ。

私も嬉しくて頭を下げてお礼を言った。


「さて帰ろうかな」


一通りの検診が終わったので自宅に電話をするため公衆電話に向かう。

テレホンカードを差し込んで電話番号を押そうとした時、


「...祐子」


名前を呼ばれて振り返ると1人の女性が立っていた。

誰だろう?凄く綺麗な人だ。


「どちら様ですか?」


「久子です...」


「吉田久子ちゃん?」


「はい」


久子ちゃんは消え入る様な声で答えた。


「久し振りね、すっかり綺麗になって分からなかったわ」


電話の受話器を下ろして久子ちゃんの手を握った。


「少し時間良いかしら?...」


相変わらず小さな声で少し怯えながら久子ちゃんは言った。


「もちろん良いわよ!」


「それじゃ来て下さい」


「どこに?」


「私の家...」


「久子ちゃんのお家?」


「うん、祐子の家族には連絡したから」


「分かった」


どうやら久子ちゃんは大切な事を話したいみたいだ。

おそらく律君の事だろう。


しっかりと頷いた私は病院の駐車場に久子ちゃんと向かう。

駐車場には久子ちゃんの実家からと思われる車が待機していて私達は乗り込んだ。


30分程して車は久子ちゃんの家に着く。

その間私達はずっと無言だった。

それにしても久子ちゃんの実家は相変わらず大きなお屋敷だね。


「さあどうぞ」


「失礼します」


久子ちゃんの案内で応接間に通された。


「紅茶で良いかしら?」


「ええ」


久子ちゃんは手慣れた様子で紅茶を淹れて私の前に出してくれた。



「どうぞ」


「久子ちゃんは?」


「今飲めないの」


「そうなの?じゃあ頂きます。ありがとう」


紅茶を飲みながら言葉を待つが久子ちゃんは私の顔をチラチラ見ている。


「久子ちゃんのお家に来たのは久し振りね。3年振りかな?」


「え?」


「あっそうだ私5年間寝てたから8年振りね」


「そうなるのかな...」


「5年経ったらみんな大人になっちゃって、私は浦島太郎の気分よ」


「何それ...祐子は変わらないね」


私の砕けた言葉に久子ちゃんは少し笑ってくれた。

(上手く行ったかな?)


「変わらないのは仕方ないよ、私元々子供っぽかったし」


「そうね、いつも明るく元気で...だから律君は私より祐子に惹かれたんだよね」


「久子ちゃんありがとう」


「え!?」


「律君を助けてくれて」


久子ちゃんは驚いた顔で私を見た。


「どうして...どうしてありがとうなの?私は律君を祐子から奪ったんだよ?」


「違うよ」


「どう違うの?」


「私は5年間も目覚めなかったんだよ?久子ちゃんが支えてくれなかったら律君、絶対廃人になってたよ」


「そんな」


「そうよ、私が律君の立場なら絶対にそうなっていた。目覚めた時に律君が廃人になってたら...私...私たぶん自分で死んでたよ」


「祐子ちゃん...」


「だから...だから奪ったなんて言わないで!」


私の目から涙が流れていた。

それは止まる事なく後から後から溢れて来る。

久子ちゃんと同じように。


「ありがとう祐子!」


「私もよ久子ちゃん!」


久子ちゃんと私はしばらく泣きながら抱き合った。

どれくらいそうしていただろう?

やがて久子ちゃんは意を決した顔で私を見た。


「祐子...」


「何?」


「あなた前世の記憶があるの?」


「前世の記憶?」


「無いの?」


「どうして急にそんなオカルトの話をするの?」


「だって...」


久子ちゃんは鞄からノートを差し出した。

表紙には[清水祐一の記憶]と書かれていた。

私の字で...


「何これ?...」


「あなたの部屋にあったんだって、律君が見つけたの」


「見ていい?」


「ええ」


ノートを開き中を読む、私の字で色々な事が書かれていた。


[僕は清水祐一。

前回は男の子だったけど今回は念願の女の子、だから絶対今回はあの人にアタックするんだ!]


「へ?」


ノートの内容に間抜けな声が出る。


「覚えてないの?」


「うん」


私はノートを読み進める。


[やっと出会えた!

でも運命のあの人は女の子、せっかく生まれ変わって私も女の子なのに!

もう運命を呪うよ!

でも、まっ、いいか!

会えて嬉しかったよ浩二君!いや浩子ちゃん!]


「浩子ちゃん?」


[浩子ちゃん]と書かれた所で止まる。


(何これ?生まれ変わった?運命の人?浩二君?)

頭の中は大パニックだ。


「その様子じゃ本当に覚えてないみたいね」


「うん。ごめんさない、律君はこれを読んだの?」


「ええ、でも小説のネタ帳と思ったみたい」


「まあ内容が内容だけにね」


恥ずかしさで顔が真っ赤になる。

こんな荒唐無稽なノートを人に読まれるなんて。


「でも私は信じた」


「久子ちゃん?」


久子ちゃんは力強い目で私を見た。


「だって私がたまに見る夢と同じ内容だもの」


「夢?」


「ええ、このノートに書かれた[吉田久]って人のやってしまった事が私が何度も見る夢と同じ内容なの」


久子ちゃんはノートを捲り[吉田久]の項目を指差した。


[吉田久]

[高校1年でりっちゃんを妊娠させて責任をとらずに逃げてしまった。

今回も2人は付き合ってるけど男女逆だから大丈夫だよね]


「嘘...」


「本当よ、夢の中の私は男の子でりっちゃん...律子さんに体を迫ったの。

私は強引に迫り...何度も何度も体の関係を...」


真っ青な顔で久子ちゃんは呟く。


「もう止めよう久子ちゃん」


「いいえ聞いて欲しいの、私は避妊もせずに関係を続け最後に律子さんを妊娠させてしまった!

そして怖くなり子供を堕ろすように脅したのよ!」


苦しそうに告白する久子ちゃんの様子に私は言葉を失う。

久子ちゃんは嘘を言ってる様子じゃない。


「その後久子...久君はどうなったの?」


「後は転落人生ね、嫌な事から逃げて逃げて人に騙され続け、家族に迷惑かけ続けて...最後にまた騙されて惨めに死んでいったの」



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