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律君....

ようやく告白できた僕は律君と恋人同士になり早いもので1年が過ぎようとしていた。

今日は地元のお祭り。

律君と2人で行く約束をしていた。


「どうかな?」


初めて着た浴衣に興奮してお母さんに何度も聞く。


「似合うわよ」


母さんも浴衣姿にご満悦だ。

この浴衣はお母さんが昔着ていたもので紺地に色とりどりの紫陽花がデザインされている。

黄色い帯がアクセントで凄く可愛い。


「どう祐一、可愛い?」


「姉さん何回聞くの?」


「あれ祐一、ひょっとして羨ましい?」


「なんでだよ!」


祐一は呆れた顔で言うが前世妹の着る浴衣が羨ましくて仕方がなかった。

祐一はそうじゃないのか。


「それじゃお母さん行ってきます」


「気をつけるのよ」


「はーい」


玄関で下駄を履いて手には巾着袋、母さんに見送られ家を出た。


「浴衣って動きにくいや」


なれない浴衣に苦戦しながら待ち合わせの輪善寺にたどり着いた。


「祐子!」


大勢の人達が賑わう山門で律君は僕を見つけ大声で呼んでくれた。


「律君!」


僕も大声で応えた。


「お待たせ」


律君は僕を見て黙ってしまう。

浴衣、似合ってなかったかな?


「変かな...」


自信が消えていくのを感じる。

仕方ないよ胸も無いし色気なんか無縁だもん。


「綺麗だ...」


「律君?」


「変じゃないよ、似合いすぎてビックリしたんだ。

祐子の浴衣姿凄く似合ってるよ!」


「あ、ありがとう」


律君は最近恥ずかしくなる事を平気で言う。

嬉しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になる。


急勾配の階段を百段程登らないと境内に着かないが律君は僕の手を握ってくれるので全く苦にならない。


「さあ着いたよ、祐子の好きな夜店も沢山出てるね」


「うん!」


律君は僕の手を握ったまま夜店に連れていく。

本当は少し境内を2人でぶらぶらしたかったけどね。


「ほら祐子トウモロコシだぞ」


「わー良いにおい!」


「祐子綿菓子買ってあげる」


「やったー可愛い袋!」


「見てごらん可愛いお面だよ」


「似合うかな!」


すっかり祭りを満喫していた。


「律君、私金魚すくいやりたい!」


「良いよ」


金魚すくいのおじさんにお金を払いポイを貰う。


「よーし!」


水槽の脇に座り僕は大きな出目金に狙いを定める。


「えい!」


僕のポイは無惨にも破れてしまった。


「あれ?」


「惜しかったね」


破れたポイを見ると悔しさが込み上げる。


「おじさん、もう一回」


「はいよ」


再度出目金に狙いを定める。ただし1まわり小さい奴。


「この!」


上手く掬えた出目金は器に入れる前に尾びれでポイを叩かれ無惨にもまた破れてしまった。


「うー」


「残念だったね、もう少し角度を浅く狙ってごらん」


律君は中腰になり僕の後ろでアドバイスをくれるが言う通りに上手く掬えない。


「律君やってみてよ!」


「良いよ」


律君はおじさんにお金を払ってポイを受け取る。


「はい」


「え?」


律君はあっさり僕の狙っていた出目金を掬う。


「よいしょ」


「うそ!?」


「ほいっと」


「なんで!?」


律君は次々と金魚を掬っていく。


「兄ちゃん上手いねー」


金魚すくいのおじさんも律君のポイ捌きに感心しきりだけど僕は面白くない。


「お嬢ちゃん兄ちゃんに教わんな」


おじさんは笑顔で僕にポイを差し出す。


「いいもん、また破れて恥じかくだけだよ」


僕はおじさんにそっぽを向く。


「いいからお嬢ちゃん。ほら、おっちゃんのサービスだ」


僕の手におじさんから新しいポイが渡された。


「もう」


僕はしぶしぶポイを受け取る。


「あれ?」


そこで僕は気がつく。


(このポイ少し紙が厚いぞ)


おじさんを見る、人の良い笑顔で頷いた。


「よーし」


金魚すくいを再開する。


「えーと角度を浅く、水平に移動して紙は水に全部浸けずに...」


僕は律のやっていた様に真似をする。


「よ!」


金魚を驚かせないようにポイの縁に誘導できたぞ!


「良いぞ祐子!」


いつのまにか律は僕の器を持っていて掬った金魚の下に入れる。

ポイを傾けると金魚は見事器に入った。


「やったー!」


「良かったね」


立ち上がり律とハイタッチする。


「良かったなお嬢ちゃん」


「うん、おじさんありがとう!」


なんて良いおじさんだろう。


「ありがとうございます」


律もおじさんに頭を下げた。


「いいよ兄ちゃん、妹と仲良くな!」


(なんですと!)


余計なおじさんの一言、なんてデリカシーの無いオッサンだ!

僕の怒りはたちまち上昇する。


「おじさん、僕達は兄妹じゃないですよ、恋人同士ですから」


律君は僕の両肩に手を置いた。


「律君....」


振り返ると優しく微笑む律君の顔。

怒りは消え失せ今嬉しさが込み上げた。


「お、そうかい悪かったな、はいよ」


おじさんは僕達を見て照れながら掬った金魚を水の入ったビニールに入れて口を縛り僕に渡してくれる。


「ありがとう」


僕達はお礼を言って次のお店に行く。

律は僕の右手を握り笑顔だ。

もちろん僕も。


楽しい時間を過ごした僕達はやがて帰る時間になった。


「うわ凄い人」


境内を出ると帰る人の列が階段下まで続いている。


「はぐれたら大変だ。祐子、金魚は僕が持つよ」


「うん」


僕は金魚を律に渡して足元の下駄を履き直そうと下を向いた時、


「泥棒猫...」


「え?」


誰かの言葉に顔を上げた次の瞬間背中を強い力で突き飛ばされる。


「祐子!!」


僕の体は宙を舞う。

階段に落ちる直前、僕に手を伸ばす律の姿が見えた。


(頭だけは守らなくちゃ)


咄嗟に前世で教わっていた空手の受けの姿勢を取る。

柔道の受け身とは違うが何もしないよりマシだと信じて...背中に強い衝撃を受けた。


「...ごめんね律君」


薄れ行く意識の中呟いた。


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