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ありがとう佑樹君。

「え?佑樹君...」


「そうだよ。しっかし祐一、久し振りだな」


僕の前にいるのは紛れもない美女、そんな人が男言葉を喋っている

それだけで大混乱だ。


「いきなりだからビックリするよな。

まあ余りここ(トイレ)で長話も出来ねえから来週の土曜日に学校終わったら俺んちに来いよ、夜通し積もる話もあるからさ」


「あ、うん。分かった」


やっとの事でそう返事をした。

トイレを出てみんなの席に戻ると佑実ちゃんはさっきの男言葉ではなく女の子の言葉に戻っていた。


「佑実、遅かったな」


「ごめんね、少し化粧直ししてたの」


和夫君の質問にさらっと返す佑実ちゃんはやはり美しい。


「佑実も祐子も化粧してないよな」


「こら由一君、女の子には聞いちゃ駄目な事もあるの」


「そ、そうか、ごめん」


由一君はいらない事を言って浩子ちゃんに叱られて僕と佑実ちゃんに頭を下げて謝った。

その後も楽しい話が続いて佑実ちゃんのショックからすっかり立ち直っていた。


「佑実ちゃん、楽しかったね!」


「ああ、最高にな」


「あ、久々に聞いた佑実の男言葉」


「あ、ごめんなさい...」


思わず出たんだろうな。

和夫君につっこまれ顔を赤らめて舌を出す佑実ちゃんを見て男らしい人が生まれ変わって女の子になる大変さを目の当たりにする。


「はいこれ」


別れ際佑実ちゃんから紙を渡された。


「何これ?」


「さっカウンターで喫茶店のママに紙を貰って書いた私の住所と電話番号、また連絡頂戴」


佑実ちゃんはウィンクをしながら笑った。

前世の記憶があるから佑実ちゃん(佑樹君)の家を覚えているから必要無いんだけど、ありがたく貰っておこう。


「ありがとう佑実ちゃん」


そうして楽しい一時が終わった。


「楽しかったな...」


僕は帰りの電車に揺られていた。

手にはさっき佑実ちゃんから貰った紙。


家に帰って、すぐに自分の部屋に入った。

机に向かい紙と鉛筆を取り出す。

万が一記憶の佑樹君の住所と佑実ちゃんの住所との間違いがあってはいけないので、覚えている佑樹君の住所を紙に書いてから佑実ちゃんから貰った紙に書かれているだろう住所と比べる事にした。


「あれ?これって....」


佑実ちゃんから貰った紙を広げると中には住所では無い別の内容が走り書きされていた。


[祐一へ、

今この手紙を読んでびっくりしてるだろ?

俺に前世の記憶があるのは本当だ。

たが俺の前世の記憶は年々薄れてるんだ。

恐らく来週お前に会うとき俺は今日祐子に会った事は覚えていても前世の祐一と会った事は忘れていると思う。

たから来週この手紙を俺に渡してくれ。

来週俺に会う事は忘れないがお前が祐子じゃなく祐一である事を思い出す鍵になるから頼む。

川口佑樹]


「佑樹君....」


僕は手紙を何度も何度も読み返した。

前世の記憶を思い出して行く僕と、忘れて行く佑樹君、どちらが良いか分からない。

どちらが辛いか分からない。

只、来週会う事を期待した。



「佑実ちゃん、こんにちわ!」


記憶の住所に着くとやはり佑実ちゃん(佑樹君)の家はあった。

呼び鈴を押さずに大きな声で呼び掛けた。

これは前世佑樹君の家に着いたら浩二君がやっていた方法だ。


「浩子ちゃんにしては声が違うし、今日約束してるのは祐子ちゃんのはず?」


佑実ちゃんが首を傾げながら扉を開けた。


「ども」


僕は元気に片手を上げて佑実ちゃんに挨拶をした。


「やっぱり祐子ちゃんだ。どうして呼び鈴を鳴らさずに?呼び鈴使わずに家に来る女の子は浩子ちゃんくらいよ?」


「何となくです」


どうやら手紙にあった通り僕の事は浩子ちゃんの紹介で先週知り合った清水祐子の記憶しか無いらしい。

今の行動が佑実ちゃんの記憶の鍵になればと思ったんだけど。


「面白い人!さあ入って」


にこやかな笑みを浮かべて家に入る佑実ちゃんに続いて僕も家に入った。


「さあ座って、コーヒー大丈夫かしら?」


「大丈夫です、ありがとう!」


佑実ちゃんの部屋は綺麗な女の子の部屋だ、前世の佑樹君の部屋は余り記憶に無いけど今の女の子の部屋じゃ無かったんだろうな。


「今日はありがとう、約束しておいて何だけど私たまに理由も無く行動しちゃう時があるの」


コーヒーを飲みながら少し困った表情を浮かべた。

(きっと前世の記憶の佑樹君の行動なんだろうな)そう思った。


「まあ、でも今日はこうして佑実ちゃんと会えたし良かったよね」


「そうよね祐子ちゃんとお話楽しいからね」



いきなり本題に入るのも何だから少しお話を楽しみたい。

しばらく佑実ちゃんと楽しい会話をした。

たっぶり会話を楽しんだ後、僕は本題に取り掛かる事にした。


「佑実ちゃん、これを...」


先週佑実ちゃん(佑樹君)から預かった手紙を渡した。


「あら、何かしら?」


佑実ちゃんは不思議そうに手紙を広げた。


「え?」


手紙を見た佑実ちゃんは驚いた表情で僕をしばらく見ていたが、記憶は戻らないみたいだ。


「ごめんなさい、私の前世、何となくあったのは分かるんだけど断片的でね」


「そうなの...」


悲しそうに呟く佑実ちゃんを見ていると僕も釣られて悲しくなる。


「でも昔は大変だったみたいよ、記憶には殆ど無いけどね」


「そうなの?」


「うん。お父さんやお母さんに聞いたの、『俺は何でここにいるんだ?和歌子はどこだ、子供達は?』ってよく騒いだらしいの」


「そりゃお父さん達も大変だったね」


「うん、極めつけは『俺の物が無い、何で俺は女になってんだ?』って...」


そう言いながら佑実ちゃんは顔を赤らめて笑った。

僕もそんな佑実ちゃんを見て笑ってしまった。

まさに破顔一笑。


佑実ちゃんは僕の顔を驚いた様子で見ている。

(そんなにおかしな顔をしたかな?)


「祐一...」


「え?」


佑実ちゃんは小さな声で呟いた。その表情は先週見た佑樹君の記憶で話していた時の顔だった。


「祐一、来てくれたんだ」


「うん、佑樹君約束通り来たよ」


「ありがとう...」


佑樹君に戻った佑実ちゃんは涙を溜めながら僕を見た。


「手紙を見てもすぐに思い出せねえとはいよいよ俺の記憶も消えかけているみたいだな」


「佑樹君...」


「そんな顔をするなよ、これで良いんだ、そうじゃなきゃこの先人生が歩めねえぜ」


「うん...」


「泣くなよ祐一、俺は佑樹じゃなくなるが佑実として人生をやっていく。そして和歌子じゃない和夫...やっぱ抵抗あるな。

まあ佑実は和夫が好きみたいだし結ばれたら今度は俺があいつの子供を産むのも悪くねえな」


「そうだね」


涙を流しながら話す佑樹君に僕は笑って頷いた。


「祐一、お前はどうするんだ?」


「どうするって?」


「だってよ、お前浩二が好きだったろ?」


「知ってたの?」


「知らない方がおかしいだろ!」


前世の秘密を言われて驚く僕に佑樹君は呆れた様な声を上げた。


「うん、僕は前世浩二君が好きだったよ。

愛していた。生まれ変わって結ばれたいと願った」


「そうか、だが浩二は今回女だ、前世の記憶も無えし、残酷な気もするな...」


「仕方無いよ」


「え?」


深刻な顔をしている佑樹君にあっさり返すと驚いた顔をした。


「仕方無いって、今回はこれでいいんだ。

だって僕が前回同様に男の子に生まれていたら由一君との勝負になっちゃう、僕勝てないよ。次、次こそが勝負だよ。

だから今回は浩子ちゃんの幸せを見守りながら人生を楽しむ事に決めたんだ」


僕の決意を聞いて佑樹君は静かに笑った。


「そうか、頑張れよ。次こそ浩二と結ばれると良いな」


「ありがとう佑樹君!」


「次会うとき、まだ祐一を覚えていたら良いんだが...」


目を伏せて呟く佑樹君に僕は優しく肩を抱いた。


「祐一?」


「仕方無いね、これも運命かな」


「運命?」


「うん、運命」


「そうか運命だな、ずっと昔に聞いた気がするぜ」


静かに涙を流す佑樹君にもう一度笑うと佑樹君も笑った。


「だから今日はお互い覚えている前世の話をしよう」


「そうだな」


僕の提案に佑樹君も笑って頷いた。

その後僕は清水祐子じゃなく清水祐一に、川口佑実も川口佑樹に戻って前世の昔話で盛り上がった。

夜遅くまで...



翌日の朝、佑樹君の記憶は全て消えていた。

僕は実感する。


『佑樹君は消えちゃった』と。


不思議と涙は出なかった。

眠りに落ちる前に佑樹君は僕に言ったんだ。


『ありがとう祐一、お前は前世も今回も俺の最高の親友だ』


ありがとう佑樹君、僕も一緒だよ。


さようなら佑樹....


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