2日目
「ここら辺は魔物がよく出るな」
出発してからもう3回目だ。炎獄の人たちは呼ばれる度にまたかと言った顔で馬車を降りて戦っている。ゴブリン、オークー、オーガなどが数体のグループでちまちま攻撃を仕掛けてくるのだ、もういっその事一気に掛かってくればいいのになとぼんやりと考えながら王都で買った冒険譚をペラペラと読んでいく。
「お疲れ様です。それでは出発します!」
ガラガラと景気の良い音を立てながら進み始める。ああ、強く摘まみすぎて紙が破けた......。急発進は危ないんじゃないかなとため息をついて読書を再開する。ミラたちは何をしているのだって? ミラとルナは膝枕でおねんね中、ミューエルは魔導書を滅茶苦茶真剣に読んでるので声をかけられない。俺も仕方ないので物語に集中するために周りの音を魔法で遮断して物語の世界に没入していく。
......なんか止まったな、また魔物が出てきたのか? ここら辺は俺の村から遠くないのでしっかり討伐してほしいものだ。おお、勇者が精霊の加護を受けてる。この人文才すごいな、情景がありありと浮かんでくる。こ、これは! 勇者の剣が輝いてる。なんだって、まさかその剣にそんなすごい力が眠っていたなんて。
物語を楽しみながらも、まだ動かないのかなと頭の片隅に考えるといきなり胸ぐらを掴まれて現実に戻される。ええ、一体なんだ、ただ本読んでただけじゃん。相手の顔を見ると、この馬車には乗っていなかった醜悪な顔をしたみすぼらしい服装の男が口をパクパクして何かしている。
「――! ―――!?」
「え、なにこいつ。遊んでるならわざわざ胸ぐ......ああ、シャットアウトしてたんだった」
魔法を解除すると周りの音が聞こえてくる。どうやらこいつは盗賊らしい、それで炎獄のグループは盗賊グループに捕らえられてしまったらしく、この室内の人間の金品を巻き上げるために全員を外に出してる最中らしい。盗賊は8人グループで馬車に1人でこっちに来て、アジトに連れていき奴隷市に流されるらしいのだ。うーん怖いねえ、そんなことをして。親がなくってもんだ。
「――ってことだ! わかったらとっとと出ろ!」
「あ、説明どうもです」
感謝を伝えながら両足を払って、宙を浮かせる。それと同時に払った反動を利用して踵で顎を蹴り砕いて気絶させる。無限収納からロープで簀巻きにしといて馬車を出る。うっわ、みんな馬車の外に出されてる。俺何分待たせてたんだろ。なんか急に申し訳なくなってきたから盗賊たちを転移魔法を使いながらペチペチ気絶させていく。
「と、止まれ! この冒険者の女たちがどうなってもいいのか!?」
3人の盗賊の生き残りが座っている炎獄の冒険者の首に剣を突き立てる。う、うーんそれを見て俺はどう反応すればいいんだ? 確かにこのまま拉致られたら気分はよくないだろうけど、ミラたちに剣を向けてるわけじゃあないしな。まあ、それしてたら存在を粒子ごと消し飛ばしてたけどな! あ、盗賊の一人が炎獄の女をつま先で小突きやがった。なら、とりあえずはこう反応しておくか。
「なっ! 何をするだー! 許さんッ!」
「へっへ! なら大人しくするんだな!」
「いや、絶対に許さん! 今すぐぶっ倒す!」
え、ちょっと、まっと言いながら制止してくる盗賊を無視してペシペシ叩き気絶させ、全員を木にしばりつけておく。
「いやあ、助かりました」
「いえ、気にしないでください。それよりも早くいきましょう」
ケガした人をちゃちゃっと治して出発してもらう。乗り込む際に炎獄の皆さんが感謝の言葉として、助けろなんて言ってないから助けたと思うんじゃねーぞとありがたいお言葉をかけてくれた。
「さて、出発しますよ!」
「盗賊が出たときは驚きましたね!」
「確かにそうね、魔導書を読んでたからいきなり盗賊が来たから心臓が止まるかと思ったわ」
「ミューちゃんより簡単な本を読んでたのに盗賊に気付かない人もいましたけどね」
「いやあ、それは仕方ないんじゃないかな。ほら、魔法を使ってたしさ! ね! ほら、あ! 景色がきれいだね! アーハハハ!」
もろもろ図星で滅茶苦茶恥ずかしいのでなんとか自然な感じで話題を転換できた、え、全然できてないって? ほら、あれだよ。気にしたら負けってやつだよ。
馬車の音を聞きながら窓の外の景色を見る。ああ、空が青いな。澄み渡るほどの快晴だ。ミラたちの視線が俺の身体をチクチク刺してくる。精神の限界が起草だったので30分ほど時間をかけて何とか先程の恥ずかしい場面を忘れさせるのに成功した。
盗賊騒ぎがあった後は1体も魔物が出現しておらず、先程までのモンスターラッシュが嘘のようだった。後で御者の人に聞いたのだが、どうやらあそこら辺は魔物がよく出てくる場所らしい。なるほど、モンスタースポットってことだな。
今日は盗賊騒ぎでみんな神経を使ったし、早めに切り上げて野営をする。昨日のように家族連れの人たちと自分用の家を建てて夕食を作る。今日は時間もあるし、しっかり作る。そうだな、本当はカレーを作りたいんだが、スパイスがよくわからない。
「今日はシチューにするか」
「「シチュー!!」」
「シチュー?」
ミューちゃんは食べたことないんですねと2人はワクワク顔でシチューの素晴らしさを説き始める。
「ミューも絶対に満足するぞ。このシチューはベンも絶賛したものだからな」
「国王陛下がですか!? それは楽しみです......」
ミューがごくりと唾液を飲む。ふっふっふ、そこまで楽しみにされたら本気で作るしかありませんな! 1時間半をかけて全力でシチューを作る。自分で飯を作るのは久しぶりだったけど問題なく作ることができた。ふう、しっかり作れた。
「ほら、できたぞお」
「「運びます!」」
「すごい張り切ってるわねあなたたち。あ、私も運ぶわ」
みんなにシチューを配り、シチューのお供、パンを出して食べ始める。うん、美味しい。でもご飯が食べたいな......。
「やっぱり美味しいです!」
「そうですね! とっても美味しいです!」
「! ......こんな美味しいなんて思わなかったわ。2人がこんなに騒ぐのもわかるわ」
でしょー、と料理を褒められて天狗鼻になる。やっぱり自分の手作りを褒められるとうれしいね! 食事中みんなでわいわい賑やかに食事をした。
この日を境に、朝飯も作るようになったのはまあ、言わなくてもわかるでしょう。
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